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77 君はやっぱり君だった

いつもありがとうございますm(__)m

やっと五嶋先輩から解放されたのは、寮の共有玄関だった。

何人かの生徒に見られたけれど、なぜか微笑ましげな眼差し……。

みなさん、勘違いなさっていますよね?なぜそんな子供の成長を見守る大人的な目をしちゃっているんですか!

暖かい視線を潜り抜け、「またね、菜子ちゃん」とわざとしか思えない別れの挨拶も終え、部屋に戻ると床にうつ伏せで寝転んだ。


あ~、もう何もしたくない。

一条先輩へのお願い電話は後日でいいや。


そして返ってきた椿と一緒に夕飯をとり、シャワーを浴びた後に課題のことを訊いてみた。「忘れてた!」とか「助けて、菜子!」と返ってくると思っていたけど、答えは「大丈夫」でした。しかも自信を持って言ってる。

悪いけどね、こと勉強に関しては椿の「大丈夫」を信用しておりません。

訝しんでいるあたしを見て、椿が慌てて説明をし出した。


「ホント、今回は大丈夫だって!実は、部活の練習の後に毎日勉強の時間があるんだよ。赤点を一つでも取ると公式試合はもちろん、練習試合も出場禁止だからさ。監督も必至なんだよね~」


……見知らぬ監督さん。心中お察しします。

きっとあなたが強制的に勉強をさせなければ、赤点続出だったことでしょう。その筆頭は間違いなく目の前でカラカラ笑っているこの女です。

だから運動しただけの時よりも疲れて帰って来るのか。


「来週から合宿なんだけど、午前は練習、午後は勉強なんだって。……あ~、一日中練習していた方が楽なのに~。勉強嫌い~。やりたくないよ~」


珍しい、椿が駄々こねてるよ。

あたしだったら運動するよりも、勉強していた方が良いなぁ。

人の得手不得手って、意外と顕著に性格に現れるよね。


「でもさ、そこまでしないとやらないでしょ、課題。試合に部員が出られないと本人が悔しいだろうから、無理やりにでも勉強させるんだと思うよ」


良い監督じゃないの。文句言っちゃ失礼だよ。


「確かに強制的に勉強の時間がないとやらないね、課題。しょうがないか」


……もうホント、本当にお疲れ様です。監督。

ちなみに、合宿明けはバーベキューがあって(野菜が3の肉が7の割合なんだって)、遠征明けには焼肉パーティーがあるそうです。

さすが監督、なにがこの子達に一番効果があるか良くお分かりで。

飢えた大食い部にはピッタリです。

でもこれで椿の課題は心配ないね。問題は実家に帰った侑吾君の方か……。

少しでもやっていてくれていればいいけど、一切手を付けていなかったら大変だ、あたしが。

明日の定期連絡メールで訊いてみよう。


「ところでさぁ、花火大会のメンバーと日時はどうなったの?」


あ゛、発熱騒ぎですっかり忘れていたよ。


「日時は確認したよ、伝えたとおりで間違いなかった。メンバーはもうちょっと待って」


あと確認していないのは一条先輩と二宮君か。


「当日は駅まで迎えに行くね、歩きで悪いんだけど。お風呂とキンキンに冷えた部屋の準備はしておくから。下着と浴衣と、必要な物があれば持って来て。パジャマは……、あたしの椿じゃ着られないから、侑吾君ので良ければ借りるよ」

「あ、いいの?三橋ので良いよ。ラッキー!」


さすが二人の兄を持つ女。男物の洋服でも抵抗ないですか。ちょっと羨ましい。

あたしもお兄ちゃんが欲しくなっちゃった。



翌日、定期連絡のメールで課題の確認と、椿にパジャマを貸して欲しいと伝えると、パジャマは快く了承してくれたが、案の定というかなんというか……。課題、やってないんだって。しかも何教科か寮に忘れて来ちゃったんだって……。

絶望的ってやつ?

メールでやりとりしていると時間が掛かるから、電話を掛けた。第一声はさすがにバツが悪そうな声色。と言うか、『ごめん、菜子』から始まるのはいかがなものかと思います。


「何がごめんなの?」

『課題を忘れていたことと、その課題を寮に置いて来てしまったことです』

「……はぁ、分かっているなら良いよ。苦労するのは自分だからね。で、どうやって取りに行けばいいの?同室の子に頼む?」


課題に手を付けていないのはまあ、いいよ。あたしが実家に居る間、監禁してでも終わらせるから。しかし、忘れた課題はどうしろと?

男女共にお互いの寮には行けないから、同室の子に共有スペースまで持って来てもらうしかないよね。その連絡は侑吾君にしてもらおう。

侑吾君が自分で取りに来るのが一番いいけど、それだと彰君が家に一人になっちゃうし。そんなの可哀想。

せっかくの夏休みなんだから海でも山でも好きな所に連れてったってぇ。あたしは行きませんけどね。

と考えていると耳には無音が届いていることに気付いた。

え、電波障害?まさか携帯壊れた?

耳から離して画面を見れば、正常に時を刻む通話時間。


「もしも~し、侑吾君?」

『……ごめん、菜子』


あ、良かった。応答があった。壊れていた訳じゃないのね、安心した。

でも、「ごめん」て今度は何に対して?


『同室のやつ、昨日から遠征合宿で居ないんだ。……ホント、ごめん』


……まったく、期待を裏切らない子だね、君は。

こうなったら最終兵器に出動願いますか。

その名は二宮花楓。行けっ、ツンデレボーイ!!


「いいよ、何年幼馴染やってると思っているの?このくらい慣れてます。で、分かっていると思うけど、あたしが帰ったら三日ほど外出禁止ね」

『心得てます。今あるのは進めておくから』

「そうしてもらえると助かる。でさ、彰君いる?」

『彰吾?ちょっと待って』


電話の向こう側で弟を呼ぶ侑吾君、それに答える幼い少年は階段を駆け下りる音と共に近づいて来た。

『菜子から電話だ』と言うと『なっちゃん!?』と元気な声が聞こえて来た。


『もしもし、なっちゃん!?』

「うん、久しぶりだね、彰君。元気そうで良かった。もう少ししたら帰るから、一緒にいっぱい遊ぼうね」

『本当!?うん、待ってるね!』


……じ~ん。彰君ってばホント可愛い。マジ天使。彰君に誘われたら大嫌いな海でも山でも行っちゃう!

おっと、本題を忘れるところだった。彰君の天使の癒しですっかり頭から抜けていたよ。


「あのね、彰君にお願いがあるの。あたしが帰るまで、侑吾君が夏休みの宿題をサボらないように見ていてくれないかな」

『え、兄ちゃんやってないの!?』


弟に訊かれ、何も言えない兄。

くっ、情けないぞ、兄ちゃん!

彰君は今よりも小さいころからしっかりしていて、宿題は帰宅したらすぐにやる。次の日の準備は寝る前に済ませる優秀な男の子。それに比べて兄の侑吾君は「なんとかなる」で今まで過ごしてきた。

もしかしたら反面教師ってやつなのかもしれない。

いやホント、毎度傍で見ていたあたしはヒヤヒヤしていましたよ。お節介って言えば終わりだけど、長い時間一緒に居たから放っておけなくなっているんだよね。

もうね、これは癖なんだと思う。


彰君は『任せて!』と心強い返事をしてくれた。

……可愛い~!電話なのが勿体ない。向かい合っていたら抱きしめて頬ずりするのに!

ことこのことに関しては変態と言われても良い。

犯罪者にならなければいいでしょ?そうでしょ?


再び侑吾君に替わると、不満気なことが話してもいないのにひしひしと感じられた。

確かに弟に勉強をしなさいと言われるのは癪だと思う。でもね、自業自得ですから。諦めなさい。


「効率を上げるための休憩は取っていいけれど、そのまま一日ゲームとかで潰れました、とかになったら怒るよ」


高校受験の時、恵さんに頼まれ勉強を見た。ここをやっておいてね、と言った箇所は手を付けることすらしていないことも度々あり、何故やっていないのか訊くと大半がゲームや友人と遊んでいて忘れていた、という理由だった。

遊んじゃダメとは言っていない。息抜きは大切だ。けど!

やってよ、お願いだからさ。後で大変なのは侑吾君なんだよ?

中学の時みたいにテストがある度に徹夜したいのなら別だけどね!そして泣きそうになりながら勉強を教えてくださいって縋りついて来た懐かしい日々……。

次同じことしたら見捨てるから。時には厳しくしないと侑吾君の為にならないからね。


『分かっているよ。でも、彰吾に……。何でもない』


うん、言葉を飲み込んだようだね。それでいいのだよ。


「じゃあ頑張って。あたしはこれから二宮君に連絡するから。あとでお礼言っておいてね」

『ああ、よろしく』


終始不満そうな声色だった。それもそうか。でも君が悪いんだ、しかたないよね。

さて、お次は二宮君に電話……。

まさか、二宮君まで居ないってことはないよね?そんなことになったら他に知り合い居ないんだけど……。

お願い、出てください!!


『はい、もしもし』


キターーッ!

良かった。君は救いのツンデレ君だよ。感謝します。

簡単に事情を説明すると、意外な事にすんなり引き受けてくれた。

あれ、おかしい。いつものツンが見当たらない。どうしたんだろう、あたしの知らないところで大人になってしまったの?

そんな……っ!ひどいじゃないか!ツンデレ要員が居なくなってしまったら、あたしにこれから何を楽しみに学園生活を送れと言うの!?


「どうしたの、二宮君。いつもなら「馬鹿か?なぜ僕がそんなことをしなくてはいけないんだ?自業自得だろう?」くらい言っても良いのに」


そして、「ふんっ、そんな言うなら仕方ない。取って来てやるよ」ってなるはずなのに。

あたし的に似ていると思う物真似をしながら言ってみた。すると『馬鹿か?』と返って来て、ホッとしてしまう自分は何かが終わっている気がした。


『同室の人間も居なく、三橋は家の都合で帰って来られないのだろう?鍵は寮監の方に借りるしかないが、借りられるのは教師か生徒会の者くらいだ。なら僕が行くしかないじゃないか』


ですよね~。この人を馬鹿にした感じはいつもの二宮君だ。

あー良かった。君はまだお尻に殻の付いたヒヨコなんだね。安心したよ。

「それに」と続いた言葉に、あたしは人知れず悶絶することになる。


『み、三橋は僕のゆ、友人、だからな!花火大会のことも聞いた!遠いと言うことを話したら家に泊まれと言う。だから、これは礼だ!!』


来ました!天下の王道、二宮君のデレ。発動しました!!

可愛い~。友人って言うだけで照れちゃうなんて……。あ、やば。鼻血出てないよね?

オーケー、オーケー。問題ない。血も涎も出ていません。セーフです。

電話の向こうでどんな顔して言っているのか容易に想像できて堪らん!

変態で良い。知られなければいいんだもん。

可の有名なクラーク博士も言っていた『少年よ、妄想を抱け』、と……。

嘘です、言っていません。でも要は妄想、想像なら何でも良いでしょ?頭の中まで否定されたくはないよね。そこまで自由を縛られたくありません。

――“Boys,be ambitious.”“Like a old man”

はい、悔いなく毎日を生きたいと思います!


大変照れている二宮君を弄りたい気持ちを抑え、電話を終えたあたしは共有スペースで待っていた。

侑吾君の荷物を律儀にも私物の袋に入れて持って来た二宮君は、挙動不審で目を合わせようとしない。

顔を背けたままズイっと突き出された袋を受け取り、礼を言うと顔を真っ赤にしてこの時初めてあたしを見た。


「なっ!べ、別に礼を言われるようなことは……。暇だったとかじゃないんだからな!たまたま、そう!たまたま今日は寮に居ただけなんだ!これだって三橋の為とかじゃないぞ!」


そして言い逃げ……。

あたし、弄りたい気持ちは顔にも態度にも出さなかったんだけどなぁ。やっぱり友人を初めて持ったツンデレにはハードルが高かったかな。

……あ、花火大会のこと確認してない!まぁ、いいか。なんか侑吾君とやり取りしているみたいだし。お泊りの約束までしている様ですし?

……お泊り、初めての友人、ツンデレ。

うん、これは覗くっきゃないよね!?

おかしいなぁ。あたしBLには食指が向いたことなかったのに。新たなジャンルの開拓?

なんにしても、この夏一番の楽しみが出来ました。感謝ですね。

ひと夏のメモリー……。ビデオに収めた方がよろしいか?


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