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73 手厚い看護も度が過ぎればトラウマです

な~んてね。知恵熱じゃなくて、立派な風邪です。誰がなんと言おうと紛うことなき事実なのです。

夏休みの習慣で、部活に行く椿を見送るため体を起こそうとした。が、ぐにゃりと視界が歪み、再び頭は枕と仲良しになってしまった。

あ、これはヤバいぞ。救いは吐き気が無いことだな。

何とか顔だけを出し、見送りの挨拶をしたあたしに椿が放った言葉が「知恵熱?」である。

そんなに普段、悩んでなさそうに見えるのかなぁ……。心外だ。


「違います。昨日汗かいたまま涼しい部屋に居たのが原因だと思う。寝てれば治るよ。椿は気張ってきな」

「三橋に連絡しようか?」


携帯を持ったまま首を傾げる。

止めて!それだけは勘弁してっ!

そんなことしたら男なのに彼女であるかのように甲斐甲斐しく世話をしようとしちゃうから!

神に誓って大人しく寝て、回復に努めます。と宣言すればようやく連絡することを止めてくれた。


「夏風邪ってバカしか引かないって聞いたことあるなぁ。菜子ってバカだったんだ」

「それ、本当は夏だからってお腹出して寝るような馬鹿は風邪を引くってこと。あと、馬鹿は風邪ひかないっていうのは、馬鹿は風邪を引いたことすら気付かないって意味だって聞いたことがあるよ。だからあたしは馬鹿じゃありません。普通に風邪を引いたんです」


聞きかじったことだから真実かどうかは分からないけど。これだけはハッキリしています。あたしは馬鹿じゃない!

風邪を引いた経緯を考えると威張れることじゃないけどさ。


「ほら、遅刻するよ」

「おっと、コンビニに寄る時間が無くなっちゃう。じゃ、行ってきます」


感心している椿に声を掛けると颯爽と出かけて行った。

……また今日も大食い部、じゃなかった。バレー部は食の旅に出るつもりなのかな。

椿が出て行くと、部屋が急に広くなったような錯覚に陥った。

風邪を引くと人恋しくなるのはなんでなのかなぁ。

ベッドに横になり、目を瞑るとブルリと寒気が襲ってきた。おかしい、今日も暑いはずなのに……。本当に風邪、引いちゃったんだ。



さて、風邪を治すには食べて薬を飲んで寝ることです。

まずやることは食べること。ど~しようかなぁ。

時計を見れば食堂は閉まっている時間だった。どうやら椿を見送ったあと、すこし寝てしまったみたい。

ロフトベッドの階段を下り、鈍い動作で着替える。デニムのショートパンツと黒のロゴ入りティシャツ。

いや~、手抜きまくってるよねぇ。でも良いじゃん、動き易くて涼しければ。

さて、財布を持って……。っと、いけない忘れてた。侑吾君にメールしなくちゃ。

風邪引きましたメールじゃなく、定期連絡のほうね。

一足先に実家に戻った侑吾君と一方的にさせられた約束の定期連絡便。またの名を『おはよう、今日も元気です』メールだ。

定型文となった文章を入力して……はい、これで大丈夫。いつもより大目に絵文字を使っております。

ふ~っと安心したのも束の間。電話が掛かって来てしまった。

おぉ、なぜだ。嫌な予感しかしないぞ。

冷静に、冷静になるんだ、菜子。じゃないと勘の鋭い侑吾君に体調が悪いことがばれてしまう。そうなれば……。

なに!?熱があるだと!今から行くから準備して待っていろ!となることは明白。

回避、徹底回避で!!

さもなければ三橋家で手厚い看護を受けることになってしまう。そして熱が下がっても3日は自宅謹慎だ。そのまま帰寮不可のパターンに違いない。

大きく深呼吸し、通話ボタンを押した。


「おはよう、侑吾君。急にどうしたの?」

『おはよう、菜子。メールにいつもはあまり使わない絵文字があったから、ちょっと気になって。具合、悪いんじゃないか?』


OH.NO!なんて鋭いんだ!そしてあたしはなんて馬鹿なんだ。元気ですアピールのつもりで絵文字を使ったのに、それが裏目に出てしまうとは……!


「まさか、違うよ。あ、そうだ。今年の花火大会、椿と美穂も誘ったの。昨日は浴衣も買いに行ったんだよ。それでちょっと気分が高くなっていたのかも。だから知らない内にメールに反映されていたんじゃないかな?」

『その話は一昨日かな、四ツ谷先輩から聞いた。人数は未定だから決まったらまた連絡するって。そうか、それでいつもとちょっと違ったのか。菜子が友達をどこかに誘うなんて珍しいな』


四ツ谷先輩、あなたはどんだけ気が早いんですか。一昨日って話が出た日じゃないですか。


「……そんなに珍しいかな、あたしが友達を誘うのって」

『うん。だって菜子、休日に友達と遊びに行くことってなかったろ?学校以外で一緒に居たいと思える友達が出来てよかったな』

「うん……。うん、そうだね」


言われてみれば、小・中と休日に友達と遊んだ記憶が無い。だいたい三橋兄弟と一緒に居た。親もそれを気にする様子も無かったし、自分でも別に良いかと思っていた。でも、侑吾君から見たらちょっと心配ごとだったみたい。

そうだ、ついでに日にちの確認をしちゃおう。


「ねぇ、花火大会って、お盆前の週末で良いんだよね?」

『ああ、今年も変わらないみたいだ』


良かった、間違ってなくて。これで椿も一緒に行けるぞ。

屋台で食べ歩きツアーをやるのです!食べきらなくても心強い味方がいる。そう、その名も椿。きっと喜んで食べてくださることでしょう。


「じゃあ、またね」

『ああ。何かあったら連絡してくれ』


通話を終えたあたしは考え込んでしまった。連日同じようなことを言われている。いよいよ自分と向き合う日が来たようだ。

だけどその前に……。


「ご飯と薬、買いに行かなきゃ」


地球の重力が二倍になったんじゃないかと錯覚するほど重い体と、著しく低下した思考能力を引きさげ、玄関に向かった。

うわっ、まだ朝なのに太陽がギラギラしてる。

真っ赤に燃えてるねぇ。

連日晴天。ご苦労さまです。お願いだから夕立はやめてね。踏んだり蹴ったりであたし、泣いちゃうから。

外に出たら一瞬で倒れそう。

いや、大丈夫。そんなに軟じゃないと信じましょう。まったく根拠のない自信だけどね。無いよりはましです。

気合入れて行きますか!

そしてあたしはひんやりとした金属のノブに手を掛けた。


夏風邪の話は聞いたことあるような~。という内容です。事実かどうかはわかりません。

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