63 ツンでデレ
戸締りをし、揃って帰寮する。他の生徒もちらほら居たが、じろじろ見てくる人は居なかった。
と言うのは嘘で、あたしはそんなこと気にしていなかったのだ。だって目の前に居るこの人が気になって仕方なかったから。
「ねぇ、二宮君」
「……」
話しかけているのに、真っ直ぐ前を見てこちらを一切見ようとしない。
それはちょっと態度悪くないでしょうか?
「怒ってるの?」
「僕が?なぜ?」
なぜって……。だって君の尊敬する会長様が一緒だと言うのに、一人黙々と歩いているじゃない。あろうことか先頭に立って。そんな不機嫌ですって顔しているくせに怒ってないとは言わせないぞ。
「あたしがA組に行かないことに対して、怒っているんじゃないの?」
「桜川がどうしようと僕には関係の無いことだ。それとも自分の選択によって僕の心が左右されるとでも思っているのか?随分と自信があるんだな」
何も言えねぇ……。
拗ね方まで不器用って、ぶっちゃけ面倒くさい。
見ている分には良いんだけどなぁ。実際係わると対応に困る。
「思ってるよ。だって五嶋先輩に言ったとき、驚いていたの二宮君だけだったじゃない。それとも、あたしが組を移らなくてほっとした?」
グッと息を呑み、悔しそうな顔で固まる二宮君。徐々に顔が赤くなり、俯いてしまう。
虐め過ぎたかな?そう思っていると「悪かった」と謝って来た。随分と素直になったものだ。
「本当はショックだったんだ。同じ目標に向かって歩む仲間が増えると思っていたから……。でも、それは僕の勘違いだったみたいだな」
何だそれは?まるであたしが裏切ったみたいな言い方じゃないか!
お姉さん怒っちゃうぞ!と、どうしても二宮君に対しては姉属性が抜け切れないわぁ。
しかし、それとこれとは別です。たとえ君のツンとデレがあたしの大好物であろうが、身悶える程キュン死にしそうになろうが、あたしには君の誤解を解く義務があるのです。
「誰が生徒会を辞めるって言った?生徒会の役に立つのに場所は関係ないでしょ?あたしはあたしのやり方で目標に向かって歩くって決めたの。それが二宮君と同じ道ではないかもしれないけれど、想いは一緒だと思っている。二宮君と同じ組になりたくないわけじゃないよ、ただあそこに居たいの。……大丈夫だよ?」
「大丈夫だよ」その一言でパァっと花が咲いた様に綻ぶ表情。しかし瞬時にいつも通りの顔に早変わり。
ゴホンと咳払いをして「なら良い」なんて……。かぁ~!やっぱり可愛いわぁ。
まぁ、仕方ないのかな。今までこんな風に付き合う友人っていなかった子だし、どう気持ちを伝えればいいのかも、どう接すれば良いのかも分からないだろうから。それでも、不器用ながらに関係を切りたくないって思って行動してくれたわけだし……。
その時、スッと近づいて来た一条先輩が二宮君の肩に手を置いた。まるで「頑張ったな」って言っているみたい。
ちょっとは君の目標に近づけたと思うよ。
後ろを振り返ると、四ツ谷先輩と五嶋先輩も後輩の成長を喜んでいる様に見えた。
「ところで菜子。料理教室どうするんだ?」
唐突にテーマを打ち込んできた四ツ谷先輩。
あ、そうでした。まだ話していませんでしたね。
「許可は貰えました。生徒会室で言った通り、大澤先生も参加してくださるそうです。参加人数は多いと部員が少ないので全員に手が回りません。なので、こちらから誘う形にしようかと思っています」
「参加して欲しい生徒や興味がありそうな人に声を掛ける、ってこと?」
五嶋先輩が訊いてくる。あたしはそれに頷く。
大々的に募集しても良いかと最初は思っていたけれど、ここで料理教室の話題が出ただけで目をキラキラさせる人が問題。この人目当てで生徒が殺到されたら困る。
なら、こちらから声を掛ければ良いじゃん?と言うことで家庭科部の会議は落ち着いた。
「それは楽しい料理教室になりそうだね。身内で騒ぐ感覚と一緒だ」
「言い換えればそうですね。でも良いんです」
信用できない人が来ても困るし。ただでさえ顧問が幽霊と化している部ですから、問題が起こると大変なんですよ。
「俺も行って良い?」
「良いですけど、新波先輩みたいに食い専門なら却下です」
図星刺された顔してるし。
行きたいけど、参加は面倒と思っているようだ。欲と義理が己の中で戦っているらしい。
あたしは「終わったあとなら来て良いです」そう言うと、椿かと錯覚してしまう程喜んでいた。どんだけ食べたいのさ!
「じゃあ、僕も行こうかな。四ツ谷と一緒で食べるの専門で悪いけど」
「悪いと思うのなら片付け手伝ってくれますか?それなら罪悪感も無くなるでしょう?」
「勿論いいよ」
あ、今のは黒くない笑顔だ。しかし、これで労働力二人ゲット。片づけって結構面倒くさいのよねぇ。
二宮君も誘うと照れながら「行ってやっても良い」との答えを貰った。
デレ?デレですか!?
帰寮後、侑吾君に料理教室の件でメールをすると『参加したい』ではなく、『食べたい』と返事が来た。どうやら食に関して思考回路は四ツ谷先輩と同種らしい。
しかも椿まで『食べたい』とか言ってるし。参加する?って訊いたのにな……。
あたしの周りって食欲旺盛な子供が一杯いるのね。雛鳥に餌を運ぶ親鳥になった気分。
椿と夕食を共にし、さぁ寝ようとベッドに入った時、常時マナーモードにしている携帯が震えた。差出人はなんと“一条先輩”。
以前なんでも良いからメールを送ってみると良い、なんてアドバイスをしたが送られてくることは無かった。それが急に来たのもだから、何か緊急の用なのかと急いで確認すると、内容は考えていた物とは違った。そこには一言「ありがとう」とだけ。
「前後の文が無いですよ」
一人小さく呟き、綻ぶ顔を自覚しながら返事を打った。返信が来ることは無かったが、きっと優しい顔をしているのだろうと思うと嬉しくなり、暖かな気持ちで眠りについた。
最後まで書いてからupしようと思っていましたが、無理でした……。
忘れられないうちに更新しようと思います(-_-;)




