6 ゲームの流れはかなり強い②
学校名は適当です。
三橋家に行くと、お母さんは恵さんとダイニングテーブルで優雅にお茶を楽しんでいた。
そこに侑吾君の姿はない。
今は中学3年の秋。自室で受験勉の追い込みでもしているのだろう。
一方、普段から勉強をしているあたしに“追い込み”という言葉はない。
前世では受験時、担任の先生にコテンパに言われたことが良い反省材料になりました。
もう会うこともありませんが、お礼申し上げます。
「あ、来たわね」
「うん、こっちに呼ぶ用ってなに?こちらと関わること?」
「う~ん……。関わる、かな」
はっきりしません。
仕方なく恵さんが淹れてくれたアイスティを飲みながら雑談に加わることにしました。
お母さんは何度も口を開いてはため息を吐いています。
言いたいのに言えない内容とは…。
何があるのか怖いですね。
彰君は恵さんの隣に座り、オレンジジュースを美味しそうに飲んでいます。
秋と言ってもまだまだ暑く、残暑が残る午後は冷たい飲み物が体に染み渡ります。
「さて、友希ちゃん。いつまでも伸ばせる話じゃないわ。いい加減腹決めて菜子ちゃんに言いなさい」
「そうね、そうよね」
友希とはあたしのお母さんの名前です。二人はすっかり仲良くなり、「恵さん」「友希ちゃん」と呼ぶ仲になりました。今ではお互いの家の情報は筒抜けです。
どちらかの親の帰りが遅くなった時は、夕食などお互いの子供の面倒をみるほどです。
「あのね、なっちゃんは高校はどこに進学するつもりかしら?」
「緑南高校だよ。3年になってから言ったじゃない」
緑南高校は自宅から一番近い公立の進学高校です。
ゲームの中の菜子は平均的な学力しかなく、両親の母校ということで黒白学園に通うことになりましたが、そうはいきません。それを回避するために勉強に励んだのですから。
お母さんは「そうよね」と言いながら困った顔をした。
何か問題があるのだろうか……?
「実はね、お父さんが来年の4月から海外に赴任することになったの」
「!そうなんだ。……それは、急だね」
吃驚しました。だってゲームのシナリオにはお父さんの赴任はなかったのですから。
……嫌な予感がします。
ゲームを基にした現実世界では、どんなに抗ってもシナリオ通りに進まざるを得ないのかもしれません。
それが神の意思であり、自然な流れなのでしょう。
「それでね、お母さんも着いていこうと思うの。家は日本にいつ帰ってくるかまだ決まっていないから人には貸さないで、恵さんに管理して頂くことにしたの」
「管理って言っても掃除と何かあったら連絡するくらいだけどね」
「それでも充分助かるわよ」
頭が痛くなってきました。
このままの流れで行くと、全寮制の黒白学園に行くことになりそうです。
家族はいつも一緒がモットーの両親ですが、受験を控えたこの時期に進路を海外に変えろとは言えないでしょう。
そもそもそんなことは考えていないかもしれませんが。
「じゃあ、あたしは日本に残ることになるのね?」
「そうなの。ごめんね」
「いいよ、お母さんとお父さんには一緒に居てほしいから」
申し訳なさそうに笑うお母さんに言いました。
万年新婚のように仲睦ましい夫婦です。離れるのはお互いに辛いでしょう。
なら、あたしの将来のためにも寮に入って生活するほうが断然良い。
でも黒白学園は嫌。ますます回避しづらくなってしまう。
そこで思い付きました。同じく寮のある高校に進路を変えましょう。
「じゃあ、寮がある高校が良いよね。あたし光都高校にする」
光都高校は黒白学園よりも遠く、電車で1時間以上もかかります。
でも学力面では光都の方が若干上だし、学校設備は同等です。
しかしお母さんは納得いかないらしく、渋い顔をしていました。
「……ううん。高校は黒白学園にして。あそこならお母さんたちの母校だし、なっちゃんを置いて行っても他よりは安心できるもの。お願い、お母さんたちのためにも黒白を選んで」
「菜子ちゃん、友希ちゃんは本当に悩んだんだよ。でも親の仕事の都合で振り回すのは可哀想だから、心配でも離れることにしたんだ。ご両親を安心させてあげて」
「…………わかりました」
「ありがとう、なっちゃん!恵さんもありがとう」
お母さんの潤んだ瞳と美人の説得に負けました。
このあと、勉強の休憩に自室から出てきた侑吾君が話を聞き、俺も行くといいだし、恵さんが強く賛成したこともあって、自宅から通える商業高校に行く予定だった侑吾君まで黒白学園に進路変更してしまったのです。
ゲームのシナリオでは元から黒白学園に進学予定だったあたしにくっついて侑吾君は同じ進路を希望していた訳ですから、また流れが戻ったことになります。
まだ本編が始まっていないにも関わらず流れの強いこと……。
これは高校生活、油断できません。
仕方ない、まずは受験に受からなければ。目標はB組です。
その前に……。
「なんでこの問題がわからないの?」
「だって俺、今やっと勉強の内容が中3に入ったところなんだよ」
「遅い!数学は公式をしっかり覚えて。あとは過去5年分の入試過去問題を100回解くの!」
「そんなにできねぇよ」
「四の五の言わずにやりなさい!」
侑吾君の家庭教師です。
一体どうやって黒白に入学出来たのか不思議な学力でした。
恵さんに勉強を見るように頼まれたからには手は抜きません。
悲鳴あげてもしごきます!
受験本番まであと数ヶ月……。
とばします!!
子供時代はこれでおわり。
次から高校生になります。
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