55 騎馬戦は一回希望。
左を見ても、右を見ても女生徒ばっかり……。
当たり前なんだけどさ。でも、周りを女性に囲まれるのってちょっと怖い。この中にあたしを嫌っている人は何人いるのだろう。一人二人ではないよなぁ、きっと。
「どうした、菜子?」
「ううん。何でもないよ」
ビクビクしながら周りを窺っていたら椿に気付かれてしまった。失敗。
騎馬戦は四回行われる。一回目が赤対青。二回目が白対黒。三回目が赤対白。四回目が青対黒。
インターバルにはダンス部と有志によるチアリーディングがあって、それも見せ場のひとつらしい。
短いスカートなんて下に穿いているとしても絶対穿けない……。
菜子の体が女子高生で、尚且つ細くても無理。制服で妥協してやってる、って気分。
私服のスカートは膝丈しか持っていないしね。これでも進歩、ですよ?
蓮の時なんて制服とスーツでしか穿いたことなかったし。
あの布の頼りなさが心配で……。風が吹いて、Ohモーレツぅ!ってなことになったら誰か責任とってくれんの?
くだらないことを考えていると、競技の始まる時間になっていた。
赤と青の男子生徒が並んでいる。騎手の額には各組の色の鉢巻が巻かれ、離れて見ているこちらにも熱気が伝わって来た。
赤には四ツ谷先輩。青には五嶋先輩が居る。二人ともどうやら大将のようだ。列の中央で旗を持ち、立っていた。
「ねぇ、椿。あの旗なに?」
「ん?ああ、あれは象徴の翼って言って。赤は剣、青は薔薇、白はクロス、黒はスカルが描かれた旗を持つの。大将は後方で構えて、最後に一騎打ちをするんだよ」
「本当は本物の馬でやりたかったけど、さすがに許可が下りなかったのよ」
いつの間にか後ろに居た新波先輩が残念そうに言った。
本物の馬って……。
どこまで自分色に染め上げようとしていたんですか、あなた……。
それはさて置き。男子生徒は腕まくり派が多かった。
うむ。眼福。
もっと近くで見たいけど、さすがに危ないので遠目から筋肉を見学させて頂く。
各自騎馬を組み、スターターピストルの合図で一斉に走り出した。
砂埃が舞いあがる。女生徒の黄色い歓声とは真逆の唸るような、地響きに似た声がこだまする。
再びの合図でスタート位置に戻り、鉢巻を取った者はその手を大将向かって頭上高くに掲げた。
大将の四ツ谷先輩と五嶋先輩が騎馬を組む。旗をお互いに向けあい、傍に控えていた人に渡した。
「ここの学校の騎馬戦って独特だね」
「そっか。なちは初めてだったね。面白いでしょ?」
「面白いけど、長い」
あたしは正直に感想を言った。すると新波先輩が「これは見せる為の競技だから」そう言う。
「誰にです?」
「それは勿論、群れをなして熱い視線と黄色い歓声を送っている女の子達に」
成程。一種のご褒美か。
と言うことは、インターバル中のチアは男子生徒へのご褒美……?
大将戦ではスターターピストルの合図は無く、掲げた旗を下げることで始まった。
結果は意外にも五嶋先輩の勝利。身体的には四ツ谷先輩の方が上だと思っていたので驚きだ。
全ての騎馬戦を終えた生徒が退場門から出て来た。
戦いを終え、皆一様に興奮している。
「姫!」
走り寄って来たのは大道寺先輩で、初めて見せる満面の笑顔。余程大将戦で勝ったのが嬉しかったようだ。
白は大道寺先輩が、黒は一条先輩が大将を務めた。これは各組の男子生徒の投票で決まるらしい。
汗で濡れた髪が輝いている。
うわぁ、爽やかだ……。
「おめでとうございます。強いですね」
「取り柄はこれくらいだからな。もうカーニバルの準備か?」
「そうです。今からです……」
あれに着替えるのか……。奇跡が起きて雨、降らないかなぁ。
そう思って空を見上げるも、曇天なのに降る気配なし。
チラリと先輩を見る。未だに腕まくりをしたままなので、健康的な肌が丸見え。そしてその筋肉も。
……触りたい。
「大道寺先輩。お願いがあるんですけど」
「何だ?俺に出来る事なら聴いてやる」
「腕、触らせて下さい」
「は?腕?良いけど……」
生筋触って良いんですね!?
では、遠慮なく。
節操なしに触りまくりました。しかもお願いした腕では満足できず、腹筋や背筋まで。
うん、完璧変態だね。
でも後悔は無いよ。
満足!
「ありがとうございました。これで苦行にも耐えられそうです」
「本当に姫って面白いな。変わってるっていうか……。まぁ、そうじゃなきゃ、あいつらと一緒には居られないか」
「確かに。並みの神経じゃ直ぐやられますからね」
話しの途中で新波先輩に人さらいの様に連行されました。
あぁ~。筋肉ぅ!!
「子猫ちゃん、ダメじゃない。男は狼なのよ!?」
「確か、そんな歌ありましたよね。と言うことは、二宮君も狼になるんでしょうか?」
「あれは小型犬が精々でしょ」
可哀想に、二宮君。でも、小型犬は可愛いから良いよね。
『さ~、皆さん!本日のメインイベントであるカーニバルの時間がやってまいりました!!盛り上がってますねぇ!!』
煩い寺本!マジ黙れ!!
白は三番目。控え場所に居ても喧しい実況は聞こえてくる。
あたしは山車に乗り込んだ。校庭を一周する間に終わらせなければいけないので、親指姫の話を通してやると間に合わない。だからヒキガエルに誘拐されるところから始まる。
なんと、ヒキガエルはあのバカ王子。
最初は文句ばかりだったけど、新波先輩が決めたことなので拒否出来なかったようで、「君にはその役がお似合いだ」なんて言われて泣きそうになっていた。
誘導の係りが来た。
いよいよだ。緊張よりも、逃げたい気持ちで一杯。
青い顔をしていたのだろうか、心配そうに二宮君が話しかけてきた。
「大丈夫だよ。ただ、このコスプレを披露しなきゃいけないのかと思うと、頭が痛くなりそう」
「それは僕もだ。だが、ここまで来ては逃げる訳にもいかない。腹を括れ」
「は~い。王子様」
からかい半分で返事をすると、安心したように笑みを浮かべた二宮君が、あたしの頭に手を優しく置いた。
「その調子だ」
そう言って持ち場に戻った。王子様の登場は最後だからだ。
一瞬、二宮君が男に見えた。決して今まで女の子と見ていたわけではなく、男の子だったのに急に成長して、男になったように感じたから。
ここはキュンっとなるのが正解なのでしょうけど、思考が見守るおばさんと化したあたしは、「大人になって……」と感動してしまいました。
騎馬戦、書かなきゃよかったとちょっと後悔……。
赤対黒、青対白は大将戦だけやった。ということにしてください。
忘れてました……。テヘ(^^
五嶋先輩がなぜ四ツ谷に勝ったかというと、腹黒だから。それで通じる気がするのはあたしだけでしょうか?
一条は勝ち負けにこだわらなそう。
四ツ谷はどーでもいい派。
五嶋は意外と負けるの嫌いな気がする。
大道寺は三橋と類友。何事も全力投球。
二宮は早く終わってほしいと思ってるのではないかなぁ。




