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46 大澤先生と保健室の魔女③

いつもありがとうございますm(__)m

今回は***で切り替わります。

「ふぁ~……。だいぶ楽になったな」


チャイムと同時に目を覚ました大澤先生は欠伸をしながらベッドから出て来た。そして「終わったか?」と首に手を当て左右に傾けながら訊いてきた。コキコキと音がして気持ち良さそうに背伸びをする。

あたしはむすっとしながら「終わりましたよ」と答えた。


「ん、なんだ。機嫌わりぃな」

「ええ、お陰様で課題が終わりませんでしたので」


そう、結局自習時間は封筒の作業で終わってしまい、学生の本分である勉強の方にまで手が回らなかったのだ。

大澤先生は「気にすんな」と軽く言い、「それ、次の授業で提出だから」と言ってのける。


「……それを早く言って欲しかったです」


具合が悪くて珍しい行動を取ったとしても、根本は変わらない手本を示した先生だった。

十字先生に礼を言い、保健室を後にしたあたしは真っ直ぐ教室に帰ることにした。


「あ、なんで保健室だったのか訊くの忘れちゃった。……まぁいっか」


廊下を歩きながらふと思い出したが、既にどうでも良くなっていた。



******



「あの子、真面目すぎて損するタイプね」


菜子が出て行った後、ドアを見ながら誰に言うでもなく呟いた。だがしっかりと大澤はそれに答える。


「まぁな。でも良いじゃねぇか。真面目にやっている奴のところは自然と人間が集まるもんだ」

「そうね。だから大澤ちゃんの周りには人が居ないんだもんね」

「……。じゃあお前はどうなんだよ?俺に付き合っているってことは同類か?」


十字は目をパチクリさせ、「やぁね~」と高らかに笑った。

「同類じゃなく、変人よ」堂々と言う友人に頭が痛くなる。


「……それ、自分で言う言葉じゃないと思うが」

「失礼ね。自分を分かっているって言って欲しいわ」


心外だと言いたげに頬を膨らませる二十代後半の綺麗な男を見て、大澤は深く重い溜め息を吐いた。「これが俺の友人……」そう思うとちょっと複雑な気分になる。

授業に戻る前に熱を計るため体温計を取に立ち上がった時、ずっと自分を見ていた十字に気付いた。その顔はまるで子供を見守る母親のよう。その顔を見て顔が自然に歪む。


「あら。ブサイクな顔」

「お前が変な顔してっからだろ」


体温計を受け取り熱を計る。ピピっと音が鳴り、計り終えたことを知らせた。体温は平熱よりはやはり高めだが、寝る前と比べると数段楽になった体に安堵した。その一連の動作すら微笑ましく見ている友人にいい加減無視することも出来ず、何故見ているのかと訊くと「ふふ」と小さく笑った。


「やっぱり気付いてないのねぇ。でも、そんな大澤ちゃん、好きよ」

「……。気色悪いこと言ってんなよ。意味なく笑うと皺増えるぞ」

「私が普段どれだけ気合入れてケアしていると思ってるの?これくらいじゃビクともしないわ」


「小娘どもには負けないわよ~」と自信満々に宣言する。そんな十字に思わず余計なひと言を言うのが腐れ縁というやつだ。


「ああ、なるほど。だから面の皮が厚いんだな」

「はあ゛!?」


これ以上ここに居るとまた余計な事を言うのは必至。大澤は「世話になったな」と言い残して退散していった。

一人残った十字。この保健室には魔女が居ると生徒間で噂されるようになって早数年。最初は失礼な事を言う奴らだとしか思っていなかったが、怪我や病気以外でも来る生徒が増え、喜んでいる自分に気付いた時から魔女と呼ばれるのも良いかと思い始めた。

勉強に疲れた。友人と、親と喧嘩した。ただ暇だったから話し相手になって欲しくて。

そんな内容で来る生徒達。でもそれは十字が生徒に受け入れられている証拠。大澤も暇な時に訪ねて来る一人だ。

そして大澤本人が気付いていない事に長年の友人である十字が気付いていることがある。それは……


「相変わらず具合が悪くなると無意識に私をたよるのよね~。……可愛いったらないわね」


高校生の頃から具合が悪い時、普段誰にも見せない弱った姿を十字だけに見せていた。それは信用している証し。

今まで十字意外に見せた事の無い姿を、弱った自分を見せても良いと思える相手が生徒と言うことに不安は残るが人嫌いの大澤には良い傾向だと思う。


「それにしてもちんくしゃ……。大人の表情をしたかと思ったら小娘のような言動に態度……。まるで恋に慣れない女性のようだわ」


大澤を見送った保健室でそう口にした。

再びチャイムが鳴り、授業が始まる。

十字もまた仕事に取り掛かった。



******



十字先生から新波先輩に訊いてみるようアドバイスを貰った。

さて、ようやく放課後になった訳だが……。

どう切り出したものか。それが問題だ。取りあえず講堂へと急いだ。さすがに校内は騒がしい。体育祭まであと二週間を切った。その間にあのカーニバルという名の新波先輩考案のイベントを成功させる準備をしなくてはならない。

本番で失敗したら放送部のマイクを取り上げて抗議するに違いない。

あたしは足りない頭でゲームの内容を思い出そうと必死だった。

球技大会は競技場所の選択をすると対象者の好感度とスチルを獲得できる。体育祭では競技を選ぶことで同様のイベントが発生する。……はず。

今回あたしはフェルスティンをやるので選択競技はない。と、言う事はイベント回避?でもそう上手くはいかない予感がプンプンしている。



「桜川来ました~」


講堂に入るといつもより人が少なくなっていた。

おかしいな、なにか間違えたか?

見回すと朝、機嫌の悪かった大道寺先輩の姿が無い。これはチャンスかも!

さっそく新波先輩と本田先輩も元へ向かったが、先輩たちは台本を見ながら打ち合わせしており、近くで二宮くんが騎士役の人達と話していた。

今先輩に話を聞くのは無理そうだと判断し、二宮君達に合流する。


「来たか」

「みんな早いね。……それに少なくない?」

「今日から山車の作成に入ったからな、ほとんどの生徒はそちらに行っている。僕達は台本の確認に入るぞ」


うわ、自分でやると言ったけどやっぱり面倒くさい。台詞が無いのが救いだね。

みんな一通り台本の確認を各々でしているので、本を持ちながら一度動いてみようと言うことになった。



なんとか終えると今度は本田先輩のチェックが入りながら細かい箇所の直し。終わるころには思わず膝を着きたくなるくらい疲れていた。

い、意外と辛い。普段の運動不足がこんなところで出るとは……!

明日からこの放課後はこの繰り返しだ。体育祭前二日間は全校生徒で会場の準備をするので、こうやって練習する回数は多くない。だがカーニバルの練習、生徒会としての活動、クラス別の準備とやるとこは多い。

この体がついていけるかちょっと心配だ。

今日の練習はここまでと新波先輩が告げると、みんな疲れたと言いながら帰って行った。二宮君は生徒会室に顔を出してから帰るらしい。本田先輩は改善点があるからと一番に帰った。

最後の戸締りをすると言う新波先輩に付き合い最後まで残った。

訊くなら今だ!あたしは訊きたい事がありますと先輩を引き留める。


「どうしたの?子猫ちゃんから私に用なんて珍しいわね」

「……あの、探る様で悪いのですが、生徒会の先輩達と大道寺先輩って喧嘩しているんですか?」

「それは誰かに聞いたの?」

「いえ。大道寺先輩と同じ組になったと知った先輩たちがいつも以上にピリピリして、同じように大道寺先輩もちょっと不安定になっている気がして」


先輩はあたしの目をじっと見た。そして「まだやっているのかあいつらは」と困った顔をした。やっぱり先輩はどうしてあんなに険悪な関係になったのか知っている様だ。

あたしは頭を下げて経緯を教えてくれるようお願いした。先輩は渋ったが「あなたも生徒会の仲間だものね」と話してくれた。


次は生徒会と大道寺の関係が明らかになります。

でも男の子って喧嘩も仲直りもさっぱりしてそうだなぁ。

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