4 第一攻略対象者との遭遇。
2回目の人生は思ったよりも良いもののようだ。
なにより“乙女ゲームの主人公”という立場上、容姿に恵まれている。
前世では道を歩いていても特に目を引く容姿ではなかった。
だが今は“幼い”という加点ポイントを抜いても中々のぷりちーフェイスです。
大きく円らな瞳。
筋の通った鼻。
唇ぷっくり、口角上向きの小さなお口。
そして一番のお気に入りはなんと言っても髪の毛。
これはもう、…絶品です!
飯島蓮で在っときのあたしの髪は黒髪ストレート。髪質はさらっとしていて、癖が付きにくいという美容師さんのお墨付き。これは全く嬉しくありませんでした。
癖毛の人がストレートに憧れるように、あたしもゆるふわな、パーマを当てたように見える癖毛に憧れていました。
そして今まさにその憧れのヘアーがあたしの頭にあるのです。しかも栗色の柔らかな髪質というおまけつきけつき。
感動しました。髪を伸ばして大切に手入れをしたいと思います。
さて、あたしも3歳、来年は4歳になります。幼稚園入園です。
その前に気を引き締めなくてはいけないイベントが待っています。
このゲーム世界“黒白学園~真実の愛を探し出せ~”では、攻略対象者の中に幼馴染みが居たはず。
ええ、とてつもなくベタだが、それが乙女ゲームってやつですよ。
その幼馴染みが幼稚園入園に合わせてお隣に引っ越ししてくることになっているのです。
第一攻略対象者との遭遇……。
一番恋愛フラグを折るのに苦労しそうな相手です。
どんな相手だろと恋愛感情を生ませてはいけません。攻略対象者がどんな人物だったか思い出せれば回避しやすくなるのですが……。
まぁ、顔を見れば思い出すでしょう。
今日がその引っ越しの日。
外からは引っ越し業者の声や作業の音が聞こえてきます。この分ではご近所への挨拶は夕方か、明日になるはず。
第一次遭遇での失敗は許されません。
次の日の午後、お隣さんがご挨拶に来ました。
平日ということもあり、母親と息子の二人での挨拶のようです。
母親は綺麗系の女性でした。高い背に短髪が似合います。確か女性で短髪は真正の美人でなければ似合わないはずです。
う~ん。見事に似合います。羨ましいです。ワンダフォですね。
「初めまして、この度隣に引っ越してきました三橋と申します。よろしくお願いします」
挨拶も丁寧で好印象です。
お母さんも見とれているようです。
分かります、その気持ち。
「さ、あんたも」母親に促され、後ろに隠れていた男の子が出てきました。
顔を見て思い出した。この子は確か、
「みはしゆうご、3さいです!よろしくな!」
子供らしい元気はつらつな挨拶をしたこの子はそうです、三橋侑吾君でした。
オレンジ色に近い茶色の短髪はこの頃から健在のようですね。
それにしても……。
こんなに可愛らしいのに、高校生になる頃にはでかくなるなんて…。このまま成長とまらないかな。前世だったら弟にしたいキャラだわ。
この子の好きなタイプは確か『小さくて守ってあげたくなるような可愛い女の子』だったはず。
しかし攻略対象キャラが出てくるたびに性格を変えていたらこちらが混乱すること必死。
う~ん。どうすっかなぁ……。
よし、決めた!
「……さくらがわなこ、です。…よろしくおねがいします」
“礼儀正しいけど引っ込み思案で他人と関わることが苦手な女の子”を演じることにしました。表情はなるべく出さない方が良いかな。
これなら色々なパターンに対応できるはずです。追々試していくことにしましょう。
「おう!よろしくな!」
再びニカッと笑う侑吾君。なかなか手強そうだ。
隣に住む以上、接触は避けられないでしょう。
私生活でも、幼稚園でも一緒…。
ここはなるべく共有時間を少なくするため、未だに果たせていない英会話教室に通う許可を貰わなければならないようですね。
「あら、侑吾君は3歳なのね。うちの菜子と一緒だわ。仲良くしてね」
「おれ、いっぱいあそぶぜ!」
「うふふ。頼もしいわ」
なんてことだ。すでに遊ぶことが決定してしまった。
落ち着くのよ、まだ遊ぶ仲になりそうなだけじゃない。
問題は高校生になってから。時間はたっぷりあるわ。大丈夫。
ふと視線を感じ見上げると、侑吾君の母親と目が
合いました。やっぱり綺麗です。
「菜子ちゃん?おばさんは侑吾のお母さんで恵って言います。仲良くしてね」
恵さんはわざわざしゃがんで、あたしの目線に合わせてくれました。
綺麗な人が微笑むと同性でもドキッとしてしまいます。
美しいです。
「侑吾のお友達になってくれるかな?」
「……はい」
思わず頷いてしまいました。
どうやらあたしは美人に弱いようです。
ベタな王道乙女ゲームです。
菜子は上手く回避できるんでしょうかねぇ。
読んでいただきありがとうございますm(__)m
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