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35 初?デート。

お久しぶりです。

よろしくお願いしますm(__)m

お昼前の11時、時間通りに待ち合わせ場所に到着。白木戸駅の改札近く。休日と言うこともあって、家族連れが目立つ。全員の顔を知っている訳ではないが、学園の生徒らしき姿は見えない。本当に寮で寝て過ごしている様だ。


「お待たせしました」

「大丈夫、待ってないよ」


壁に寄りかかるようにして待っていた先輩に声を掛けるとそう言った。

そりゃそうでしょう。だって歩きながら貴男の後姿を見ていましたから。

電車を降りて改札を出ると直ぐ五嶋先輩を見つけた。いつもは後ろに流している髪を、今日は下ろしている。普段どれだけ老けて見えるのかが対比で分かるなぁ。今日の先輩は歳相応だ。落ち着いている雰囲気はそのままだけど、少年らしさが出ている。服装は一条先輩の様にシンプルだ。

背丈もあるし、顔も良いから何を着ても似合うんだろうなぁ。


五嶋先輩は上から下まで舐めるように見た後、「うん、可愛いね」と言ったのであたしは「先輩は若く見えます」と言うと笑っていた。


「僕そんなに普段老けて見える?」

「老ける、と言うより、落ち着き過ぎているから年上に見えるんですよね。たまに教育実習生かと思いますから。前髪、下ろしている方があたしは好きです。でも……、う~ん。ちょっと長いですかね」


言いながら背伸びをして先輩の前髪を触った。思っていたより柔らかく、さらっとしている。

摘まんだ髪を上下させながら似合う位置を見つけようとして見るが、腕が疲れたので断念。上げっぱなしはきつい。

先輩は珍しく黙ったままされるが儘だ。


「前髪って一番難しいですよね。さて、どうするんですか?」

「……菜子ちゃん。君はもう少し男の機微を理解する必要があるね」

「何のことか分かりかねます。で、どこ行きますか?」

「勉強で凝り固まった頭にご褒美をあげようと思ってさ。切符は買ってあるから行こう」


そう言うと、どこに行くのかも説明が無いまま歩き出してしまった。あたしは一瞬ポカンと口を開け、固まってしまったが、気が付くと慌てて後を追った。

後ろから着いて来ているのを確認すると、嬉しそうに笑って歩調を緩めてくれる。

なら最初から待っていてくれても良いのに……。


先輩は切符代を払うと言う主張を見事な笑顔で突っ撥ね、結局ご好意に甘えさせていただく事になった。

売られた喧嘩は負けそうでも買うのがモットーとしているあたしだが、例外はある。そもそも喧嘩じゃないしね。

電車は海に向かう路線だった。学園からそう遠くない距離には色々揃っている。

ショッピングモール、映画館、遊園地、水族館、海など等。これはゲームの美味しい設定だろう。大いに活用させていただいておりますとも。


「靴、大丈夫?女の子って男から見ると痛そうな靴履いてるよね」

「大丈夫です、履きなれたぺたんこサンダルですから」

「服も可愛いよね。良く似合ってる」

「……ありがとうございます」


乗車すると、中はそれ程混んでいなかった。空席が在ったので二人並んで座る。先輩は気遣うように訊いてきた。あたしは曖昧に答えながら苦笑い。

言えない。何着て行こうか考えるのが馬鹿らしくなって、部活に行く前の椿に適当に選んだ服を見せて、OKと言われたからこれにしたなんて。まったく先輩のことを考えていなかったなんて……、言えない。

今日の服は花柄ふんわりフレアのキャミワンピにデニム地のボレロだ。上から被るだけと言う魅力に惹かれ、ワンピースは良く着ている。髪だって梳かしてピンで留めただけ。長い時は縛っていたけれど、今はそのままが多い。

ハッキリ言って手抜き。でも、先輩は満足している様だし、充分でしょ!



車内での会話は他愛のないものだった。

テストの出来に始まり、お礼であげたクッキーの作り方。四ツ谷先輩の最近の失敗談。

知らない人では勿論ないけれど、初めて二人で出かけると言う緊張は有った。会話だって続かないんじゃないだろうかとかと思っていた。でも思っていたより疲れない。

それは先輩の気の使い方が上手いからかもしれないけど……。


少しすると後ろから射しこむ光が変化した。窓の外を見ると白波揺れる海が広がっていた。砂浜には犬の散歩をする人や、サーフィンを楽しむ人が思い思いに過ごしている。遠くの空には鳥が飛んでいた。

近くには公園が見え、その奥に水族館がある。

頭にご褒美……。なるほど、確かに癒されそうだ。


駅を出ると雰囲気が変わった。風には塩の香りが混じり、海が近いことを告げている。

もう直ぐ梅雨だけど今日は快晴。日差しが強い。あたし達は木陰のある公園を通って水族館へ向かうことにした。遊具では小さい子たちが暑さに負けず、楽しそうに笑いながら遊んでいる。大人たちはやんちゃな子を追いかけたり、日陰で休んでいた。

「フフっ」そんな光景を見て、思わず笑顔が出た。先輩はどうしたのかと訊いてくる。


「思いだし笑いです。侑吾君と侑吾君の弟の彰君とたまに公園で遊ぶんですけど、走り回る彰君を侑吾君が追いかけるんですよ。ほら、あんなふうに」


あたしが指差す先には、笑い声を上げながら芝生の上を走り回る男の子を「待ちなさーい!」と叫びながら追いかける母親の姿があった。その微笑ましい光景を見て思わず笑ってしまったのだ。

先輩は「あれも癒されるなぁ」と言いながら微笑ましそうに見ていた。


「三橋君とはよく出かけるの?」

「高校に入ってからはあまり……。以前は三人で出かけることが多かったですね」

「二人では?」

「……あった、かな?」

「それって、デート?」

「……さぁ」


観たい映画が有ると付き合ってもらったり、買い物の荷物持ちに来てくれたりしたことはあったけれど、それって何に分類するべき?デートって言って良いの?

う~ん、と考え込んでいるとスッっと手を取られた。驚いて先輩を見るといつもの笑顔にほんの少し朱を差した顔で「これはデート、でしょ?」と言う。

照れるのならやらないでほしい、うつるから。あたしまで顔が熱くなってきちゃったじゃない!

手を繋いだまま歩くと口数が減った。お互い恥ずかしいのさ。



「男の人と出かけるのは三橋君以外で経験あるの?」

「以前、成り行きで一条先輩と出かけたことがあります。でも二人きりじゃなく、椿も一緒でしたけど」

「へぇ、一条が……。珍しいね」

「そうなんでしょうね。誰かと出かけた経験が無いから連れて行け、って感じで無理やりでしたから」


「良かったら一条先輩に付き合ってあげてください」と最後に付け足した。

あの時の事を思い出し、思わずため息。あたしゃ子守担当じゃないってーの!

横に居る先輩は上戸に入ったらしく、体を震えさせながら声を殺して笑っている。さすがに外で笑い転げる訳にはいかないもんね。

公園には子供の笑い声と、小さく波の音が届いて来ていた。



手を繋いだまま水族館に到着。なんでここにしたのか訊くと、券を貰ったからだと言った。「証拠だよ」と言いながら財布から券を二枚取り出し、自慢げにあたしに見せる。

「別に疑っていませんよ」と笑いながら言うと「知ってる」と答えた。

なんだか今日の先輩は子供っぽい。

さすがに繋いだまま中に入るのは恥ずかしい。今更何言ってんのと言われても、恥ずかしいものは恥ずかしいの!

広い空間ならではの解放感でさほど人の目は気にならなかったが、館内は閉じられた空間だ。……ムリ。


入ってまず目に入って来たのは大きな水槽の中で泳ぐ大小様々な魚達。小魚は群れで泳ぎ、捕食者に大きく見せている。鮫や大型の魚が近づくと、「ぶわっ」と散らばり、形を変える。

見惚れているあたしに先輩が声を掛けて来た。まずは腹ごしらえをしようとのこと。

確かにお腹空いた。素直に頷き、フードコートに向かった。



フードコードには屋外テラスもあり、天気も良いのでそこで食べることにした。あたしはせっかく海の近くに来ているので海鮮丼を、先輩はお寿司とカニ汁をそれぞれ頼んだ。お値段は良心的。

さすがに鮮度が良い。とても美味しく頂きました。

パンフレットを見るとこの施設には外に干潟が在ったり、イルカなどのショーが行われるゾーンがあるようだ。

お腹も満たされたので早速館内を見て回ることに。まずは……、


「クラゲが見たいです!」

「クラゲ?良いけど、魚じゃなくてクラゲが好きなの?」

「綺麗なんですよ、クラゲ。早く行きましょう」



証明を暗く落として、水槽の中をライトアップしてある。透明な体にライトの色が通り抜け、その色に染まって神秘的な美しさを映し出していた。沈んでは上がり、沈んでは体を窄め、膨らませて上へと昇っていく。

同じことを繰り返しているだけなのに、飽きずに見ることが出来る魅力がある。


「小さいね、これは何て種類かな?」

「ミズクラゲの幼生です、可愛いですよね。クラゲって90%以上水分で構成されているから、死んだあと、水に溶けることもあるそうですよ。海で産まれて海に溶けていくなんて、面白いですよね」

「へ~、良く知ってるね」

「ドキュメンタリー番組とか好きで良く観るんです。あとノンフィクションとかエジプトの歴史番組なんかも観ます。もちろん動物番組も」

「そうなんだ、僕も好きだよ。でも女の子って恋愛番組ばかりなんだと思ってた」

「好みですからね。見た目通りだと思ったら大違いです」


何気なく突き放したように言うと、先輩は面白そうに笑っていた。

そこは苦笑いが正解じゃないの?



興味のある物を片っ端から観て回った。先輩は全てあたしに合わせてくれ、文句一つ言わない。

順番に見て回ると最後に人気の無い展示エリアに来ていた。目立つ物は見るけれど、地味な物は興味が無いらしい。でも今は好都合だ。

あたしは訊きたかった事を訊くことにした。きっと今が最大のチャンス。


「デートに誘ったのはお礼なんかじゃないですよね?本当はどんな理由なんですか?」


すると先輩は一瞬驚いたように目を開いたが、直ぐ含みのある顔になった。

あたしたちの顔の横では綺麗に造られた小さな珊瑚が照らされている。


「やっぱり菜子ちゃんは鋭いね。……今日はね、3つの目的があって君を誘ったんだ」


菜子、五嶋先輩の『服“も”可愛い』と言う台詞を気付かずスルー……。

それでこそ菜子です。

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