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32 心臓に悪いお礼はお断り!

テストの追い込み期間に入り、教室内は静かな焦りが生まれ始めた。でもそれは成績上位クラスに限ったことで、下位のクラスは実にのほほんとしている。

「今の成績をキープすればいいんだしぃ」と言うのが下位クラス。「もっと勉強して順位を上げないと!」と言うのが上位クラス。

あたしは元々の性格が人と競うのを苦手としているため、今のクラスの空気はハッキリ言って居心地が悪いです。

休み時間まで机に向かうなんて、頭可笑しいんじゃない?とか、つい言ってしまいそうになる。だから廊下やベランダに出ては溜め息の嵐。昼休みになれば逃げるように美穂と外のウッドベンチに向かう日々。放課後は四階の自習室か、寮に戻って勉強する生徒が大半なので図書室は意外な穴場と化している。



「あ~も~。こっちの頭が可笑しくなりそうだよ」


放課後、勉強の息抜きで家庭科室に来ていた。各学年の部員代表者に鍵が渡されているので、いつでも使用できる。勿論、一年はあたしだけなので鍵はあたしの物です。

先輩たちは此処で作って自習室に持ち込み、勉強している。あたしもそうしようと思ったけど、皆の勉強ペースがあるだろうと思い、止めた。

今作っているのはジンジャークッキー。甘さ控えめです。

粗熱が取れるのを待って袋に詰めた。





佐々木先輩の事件後、一人で歩くことを許可された。何でと訊けば「本当かよ!?」と、思わず突っ込みたくなる理由でした。


「菜子ちゃんが階段から落ちた時、二宮が庇ったでしょ?しかもその後一条がお姫様抱っこで保健室に運んだ。それで手を出してはいけない人物、と認識されたようだね。二宮はともかく、一条に逆らおうとする人間は滅多に居ないから。居たら途轍もない変人だよ。……例えば、新波先輩とかね」


新波先輩の名前を言う時、声が震えていた。間があったしね。一条先輩に突っかかる新波先輩を想像して笑ってしまったに違いない。この上戸め!

それにしても、と思う。「あ~、あれ。やっぱり見られていたんだ」と。

運ばれている時あまりの恥ずかしさで目を瞑っていたから、周りの様子を見ていなかったのよねぇ。あ~、恥ずかしい。でもまぁ、雨降って地固まる、だよね。


「ところで五嶋先輩。いつの間に名前呼びになったんですか?」

「ん?そりゃキスした相手をいつまでも他人行儀に名字呼びは変でしょ?」


……今思い出しても赤面物です。なにサラッと大変なこと言っちゃ.てるのさ!あたしは貴男みたいにポーカーフェイスが出来ないんですよ!

思うんだけど、五嶋先輩って絶対ポーカーの博打、得意だと思うんだよね。


「お前、キス魔だったのか!?」


五嶋先輩の「キス」発言で近くに居た二宮君が反応した。あたしが勝手に頬にキスしたこと、意外と根に持っていたらしい。「キス魔」と言う言葉に思わず「はぁ!?」と過剰反応。

失礼な!あたしはそんな痴女じゃない。新波先輩じゃあるまいし!


「違うもん。された方だよ!それに髪だし!」

「俺もしてやっただろ?」

「勝手にしたんじゃないですか!」


固まってやいのやいのやっていたら、いつの間にか一条先輩が近づいてきていた。先輩のいきなりの登場に騒ぎは一旦終わる。

何も言っていないのに何で黙ったかと言うと、一条先輩が凄く難しい顔していたから。

あたしと二宮君は顔を見合わせ、四ツ谷先輩に任せることにした。一番の友人なら友の悩みに乗ってあげなさいな。ということで。


「どうした、高天?」

「……海と五嶋にはされた。なら、二宮には?」

「……えっと、僕は……」


そんなこと真剣に考えていたの!?難しい顔の理由がそれだったので力が抜ける。

二宮君はとても言い辛そうに「あ、…えっと…。その」を繰り返していた。

ごめんねぇ、尊敬する先輩のこんな顔見たら言い辛いよねぇ。原因はあたしだからちょっと罪悪感。


「二宮君にはあたしからしました。反応が見たかったので!でも、頬ですよ?唇は奪っていませんから。さすがにそこまで酷くないです」


偉いでしょ?的な顔で言ったら「何言ってんの?」って顔されました。

その後がちょっと大変だった。五嶋先輩は一人椅子に座ってニヤニヤ笑いながら様子を見ていて、四ツ谷先輩は呆れ顔。二宮君は口を鯉みたいに開け閉めしてた。

で、一番の問題は一条先輩。ますます考え込んじゃったんだよね。しかも機嫌最悪……。

その日はそのまま解散になった。というか、居たたまれなくなって一足先に帰った。





寮に帰ってから椿と夕食を取り、部屋で携帯片手にメールを打つ。相手は四ツ谷先輩。だって生徒会の人間で知っているのは四ツ谷先輩だけだから。


[渡したいものが有るんですが、明日生徒会の活動ありますか?]

確認して送信すると、直ぐに返信が来た。

[活動は無い。でも生徒会室には行く]

二宮君が行くか訊き忘れたが、自習室に連行した時、「僕は生徒会室で勉強する!」と叫んでいたのできっと行くのだろう。



次の日の放課後、生徒会室に行くとやっぱり全員居た。みんな真面目に勉強中。いつもはやる気のない四ツ谷先輩まで勉強していることにちょっと驚いた。

つい忘れちゃうけど、A組のエリートなんだよね。

あたしは鞄から昨日作ったジンジャークッキーを取り出し、一人ひとりの机に置いて行く。全員に配り終わってから深く一礼した。


「この間はお世話になりました。勉強の息抜きに食べてください」


甘さ控えめに作ったのは苦手な人も居るだろうと思ってだった。個人個人の好みはまだ把握していない。ゲームのデータに載っていたら分かったんだけど、そんな詳細なデータは書いていなかった。ゲーム内でもそんな場面は出てこなかったし。


「わざわざ悪いね。有難く頂くよ」

「昨日のメールの意味はこれだったのか」

「また作ったのか。マメだな」


三人が感想を述べる中、一人袋を見つめる一条先輩。何かあると一々固まるのは癖なのだろうか……。

あ、もしかして何かアレルギーがあるとか!?

慌てて先輩に駆け寄り、渡した袋を返してもらおうと手を伸ばした。だが先輩は「何をする」とそれを拒否した。


「だって先輩ずっと見てるから、アレルギーでもあるんじゃないかと思って……」

「アレルギーは無い。見事なものだと思って見ていただけだ」


なんだよ、ややこしいなぁ。でも良かった。また押してダメなら作戦、使わないとダメかと思ったよ。

一人満足していると、一条先輩は「貰うのはこれで二度目だな」と言い、そっとあたしの右手を取り、まるで騎士がそうするように指先にキスをした。柔らかい唇が離れる瞬間、「ちゅっ」と耳に突き刺さるようなリップ音が聞こえる。

ピキッっと固まったあたしはされるがまま。手はまだ先輩の物だ。そして手の甲、手首と続けて唇を落としていく。流れるような動きを他人事のように見ている自分が居た。

だってこれ、現実じゃないよね?


顔を上げた先輩と目が合うと、熱情的な瞳に思わず先輩の物になっていた手を取り返し、よろよろと二三歩後退した。


「礼だ」

「れ、礼~~~!?」

「そうだ。それに俺だけしていなかったからな。……だからだ」

「な、何、言って…!」


しれっと言うことか?

なんて迷惑な礼の仕方だ!日本人なら感謝は言葉でお願いします!!

あなたは国際的な交際があるかもしれないけど、人生通して純日本人なあたしには刺激が強すぎます!

固まっていた体が動きだし、今頃になって心臓がバクバクしだした。


「いや~。凄いの見ちゃったね」

「俺、五嶋、二宮で三回分か……。あれ、高天自分の分、して無くね?」


余計な事言うんじゃない!!

ギッっと顔を向けると二宮君は真っ赤な顔で固まっていた。どうやら彼にはあたし以上に強すぎる刺激だったみたいです。


「……そうか、俺の分をしていなかったな」

「いえ、結構です!充分感謝の気持ちは伝わりましたから!てか限界です!!」


なんかもう色々と限界なのですよ、あたしは!!

主に心とか心臓とか精神が!


キスの意味

頬  →親愛

指先 →賞賛

手の甲→敬愛

手首 →欲望

だそうです。

まだ無自覚な一条先輩。いつ自覚させようか考え中…(゜_゜)

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