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少年日記 side~四ッ谷~

お気に入り登録ありがとうございますm(__)m

気軽に読んでいただければ幸いです(^-^)v

球技大会が行われる今日、数日前から菜子の周りに不穏な空気を感じ、守るために行動してきた。だが昼休憩の時間、第二体育館から戻る途中、第一体育館の入り口が騒がしい事に気付く。急いで向かうと気を失った二宮と、顔色を失った菜子が騒ぎの中心に居た。

俺は先に二宮を保健室に連れて行くことにし、高天達に後を任せた。心配そうに二宮を見る菜子。状況から見て階段から落ちたのを庇ったのだろう。だから自分の所為で、と責任を感じているのかもしれない。

俺は「気を失っているだけだから」と言って、保健室に急いだ。



菜子は捻挫で済んだ。もしかしたらもっと大きな怪我をしていたかもしれない。

絶対に違うと、自分で落ちたと言い張る菜子を、ここは信じるしかなかった。それが嘘だと分かっていても、問い詰めたところで真実を簡単に言う女じゃない。



昼休憩が終わり会場に向かう途中、人込みの中に菜子の友人を見つけ、その中に菜子本人が居ないことに動揺した。トイレかと思ったが、一人タオルを取に戻ったのだと言う。

あれほど一人になるなと言ったのに!


「そう言えば、ちょっと遅いね」


なに騙されてんだ!だいたいあいつは捻挫してるんだぞ!?何で着いて行ってやらなかった!!


怒鳴りそうになった俺を止めたのは五嶋で、でも五嶋も動揺しているのが分かる。いつも似非臭い笑顔は消え失せ、真剣な顔でどこで別れたのか訊いていた。


「教室から一番近い階段です」


それを聞いて真っ先に走り出したのは高天だった。確かに最近の高天の様子はおかしかった。必要以上に菜子に触れるし、まるで傍に寄り添うように見守っている。俺がそうなるように仕向けたはずなのに、何故か葛藤している自分が居た。高天の後ろ姿を見て、出遅れたと焦り、俺も急いで後を追った。五嶋は菜子の友人にいつも通りの声色で「ちょっと探してくるね」と言っていたのが聞こえて来た。



「待て高天!闇雲に探し回るつもりか!?」


やっと追いついた高天を必死に止める。

――こいつ、相変わらず足速いな。

上がった息を整えるように声を絞り出した。「……悪い」そう零す高天は酷く小さく見えた。

守ると言った相手をまた守れなかったと自分を責めているに違いない。

でもな、それは俺達だって一緒なんだよ!俺だって五嶋だって菜子を本気で守ると決めていたんだ!だが結果はどうだ?菜子は一人でケリを付けようとしている。なんでそんな危なっかしい事を!?今すぐ本人に問い詰めたいが、その相手を探している最中だ。落ち着け。そう自分に言い聞かせる。


そうだ、三橋だ。あいつなら菜子の行きそうな場所が分かるはず。

俺はズボンから携帯を取り出し、三橋に電話を掛けた。菜子が佐々木に襲われそうになった日、いつでも携帯を持つように言ってある。

――繋がってくれ!


結果、三橋は直ぐに出た。この球技大会の日でも肌身離さず持ち歩いていたようで助かった。さすが三歳からの菜子の騎士ナイトだな。

掻い摘んで事情を説明すると、機械越しでも三橋が苛立っているのが分かった。それと同時に移動しているのも。


〈事情は分かりました。菜子の事だから人目に付かない場所に相手を誘い出しているはずです。あいつは自分が危なくても、例え危害を加えようとしている相手でも、守ろうとする馬鹿ですから。教室の近くで別れたのならきっとLL教室です〉


電話を切ると、静かに待っていた高天が待ちきれないと言わんばかりに説明を求めてくる。丁度、五嶋とも合流出来たので三橋の意見を伝えると納得していた。


「そうだね、あの教室は滅多に使わない。外からも見られることはまずない。おまけに音が漏れにくい構造だ。三橋君の言う通りだと思う。急ごう」



俺達が急いで向かうと、反対の階段から三橋が駈け上がって来た。

やけに速いなと感心していると、「こっちの階段の方が近かったんです」と残りの階段を上りながら言った。

確かに第二体育館からはこちらの階段の方がLL教室には近いが、それでも先に来ていた俺達と合流出来るとは。訊かなくてもどれ程、菜子を大切にしているかが手に取るように分かった。



教室の前に着くと中から小さいが、確かに物音が聞こえて来た。先陣を切って三橋が乗り込むと、続くように俺達も中に入る。立っているのは菜子でパッと見無事に見えたが、あの綺麗だった栗色の髪は半分が切られ、白く滑らかな頬からは血が滴っている。それが分かった時、全身の血液が勢いよく体を廻ったような感覚がし、耳鳴りが襲った。動揺し、怒りに震える心。

――誰に?

訊かなくても分かる。自分自身にだ!



菜子を見ると自分勝手に責めてしまいそうになった俺は、近くで泣きながら蹲る佐々木の元へ。「ごめんなさい」と何度も謝りながら涙している。

赤くなった頬。その顔を見て、俺が佐々木に何か言うのは違うと分かった。もう既に菜子がケリを付けたのだ。



高天達と別れ、俺はケアルームと呼ばれる部屋に居た。一緒に連れて来た女教師は泣きながら謝る佐々木を宥めるばかりだ。傷つけられたのは菜子なのに、何故こいつが守られる?感情に任せて怒りをぶつけそうになるのを押さえ、何とか話す事が出来た。


「佐々木さん。どうしてこんなことしたの?」


出た声は自分でも驚くほど低く、固いもので、佐々木の肩がビクリと震えた。俺を止めようと女教師が動いたが、それを止めたのは意外な事に佐々木本人だった。

責められても良い。その覚悟が伝わって来る。もう、充分に分かっているんだ。自分がした事の大変さを。


「ごめんなさい。ほんと、どうかしていたわ……。あの子にビンタされて目が覚めた。……『妄想に憑りつかれる暇があったら、自分の気持ちを伝えろ』」

「それ、菜子が言ったの?」

「うん。……その通りよね。あたし今まで上手くいかないのは自分の所為じゃなく、誰かの所為なんだって思ってた。……そんなことないのにね、いつだって真実は自分の中にあるのに……。いつの間にか見失っていたのね」


女が女の頬を腫れるほどの力でビンタして、その上『妄想に憑りつかれる暇があったら』とは……。

だが泣き腫らし顔の佐々木はまだ笑顔はないものの晴れやかだ。それはきっと、菜子が全身でぶつかって行ったからだろう。


「あいつさ、きっとわざと佐々木さんを追い詰めるようなことを言ったんだと思うよ。本音を引き出したかったんじゃないかな。その結果も見越して、あの部屋に呼び込んだんだ。佐々木さんが誰かに見られないようにね」

「……あたしが見られない様に?」

「うん。もし誰かに見られたら、佐々木さん、君は立ち直れたと思う?」


佐々木さんは目を瞑って考えたあと、「思わないわ」と言った。

廊下で狂気に狂った目で暴れる姿を見られたら、元の生活には戻りたくても戻れなくなっていただろう。それを考えて人目に付かない場所に誘い込み、内に溜めた声を全部聞き出した。

こんな褒め言葉、本人は嫌がるかもしれないが。ほんと、誰よりもおとこだな。菜子は。

「あたしは女です!」菜子の反応が容易に想像できて、思わず苦笑いが漏れた。


「菜子は謝罪を望んでない。菜子が望むのは佐々木さんが笑って、今度こそ楽しいと思える恋愛をすることだと思う。俺もそれを望んでいるよ」


「俺って本当は嫌な人間だからさ」軽く言うと、目を見開き、小さく笑った。まだぎこちないが大きな一歩だ。


「俺達、佐々木さんには、また立ち上がる強さがあると信じでも良いよね?」


普段のおちゃらけた自分を引込め、真剣に向かい合う俺の言葉を真摯に受け止める佐々木さんは、今度はしっかり頷いた。


「ええ、約束するわ。せっかく助けてもらったんだもの、無駄にはしない……。ねぇ、あの子…、桜川さんにお礼を言っておいて。『ありがとう、貴女のおかげで目が覚めた』って」

「だ~め。それは自分で言わないと意味が無いからなぁ。向かい合う勇気がでたら菜子に言ってあげて。絶対喜ぶから」



話しを終え、保健室に行くと菜子の姿は無く、養護教諭の十字先生が隣の小会議室に居ると教えてくれた。二宮はまだ寝ているようだ。あいつも今回は頑張ったと思う。高天以外の人間の為に動いたのは初めてじゃないか?後輩の思わぬ成長に、嬉しくなった。



静かにドアを開け、中に入ると菜子は怪我のためだろう、座っていて、その前に身を屈めた五嶋が居た。菜子が気付かない程一瞬俺に視線を走らせ、再び菜子に戻した。こちらに背をむけて座っている菜子は俺が来たことに気付いていない。それを分かっていて教えない五嶋はやっぱり腹黒い男だと思う。

ま、いい。話が終わるまで待つか。だが、聞こえてくる台詞は普段なら口にしないだろう甘い言葉のオンパレード。我慢できなくなってきたのに気づき、嫌味に笑って「お疲れ」と言う。

あー、なんで俺こいつと友人やってんだろ?不毛な疑問が浮かんだのは忘れよう。



案の定と言うかなんというか、菜子は自分を傷つけた佐々木の心配を真っ先にした。近づいて膝を落とす。固く握られた拳に手を置くと、小さく震えていた。菜子もまた、恐怖で追い詰められていた一人だ。でもそれは傷つけられたことによるものではなく、傷つけてしまった事への恐怖に違いない。

『危害を加える相手も守る馬鹿』と三橋は言った。確かにそうだ。でもそこが菜子の良い所だよな。



ケアルームでの事を話すと、俺の手の下の小さな拳の震えは止まり、温かさが戻って来た。最初に触れた時は冷たくなっていて、緊張していたんだと分かった。


保健室に戻ろうと言う話になったが、五嶋が「忘れていた」と何かを思い出す。なんだ?すると菜子の髪に口付けているではないか。

おいおい、マジかよ?

信じられないと言った顔でその光景を見ていた俺に、挑発的な目を向ける五嶋。

誘ってんのか?この野郎。

ま、今回頑張ったご褒美と言うことで。

そして俺は傷の無い右頬にキスをした。唇から伝わる柔らかさと、菜子の体温に思わず抱きしめたくなる。

俺は野獣か?

名残惜しいが体を放すと、短くなってしまった髪からは甘い香りがして、それに口付けた五嶋を羨ましく思った。

呆気に取られた顔が可愛かったから今はそれで我慢してやるよ。



騒ぎながら保健室に戻ると十字先生の雷が落ちた。思わず竦みあがる。普段との差が激しすぎんだよ、先生は。



何故か書きやすい四ッ谷先輩。


これで球技大会は終了です。

次はテストかな(・・;)

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