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28 VS!!

軽い暴力描写があります。

苦手な方、嫌悪感を持たれる方はバックしてください。

「ほんとーに自分で落ちたんだな?」

「本当ですってば!足を踏み外して落ちたんです」


治療が終わると今度は四ツ谷先輩から尋問開始。

怪我は軽く、テーピングで固定すれば歩けるので、十字先生に巻き方を教えてもらった。今は湿布で治療中。

なんとか一条先輩の腕から脱出したのち、四ツ谷先輩に捕まったという訳。

二宮君は一緒に倒れ込んだ時、頭も打ったらしくまだ起きない。でも十字先生が問題ないと言ったので今は落ち着いた。


「菜子、嘘ついてないな?」

「はい、誓って」


本当はあの時背中を押された。そして助けてくれた二宮君を巻き込んでしまった。あたし一人が傷つくのは別に良いのよ。傷はいずれ治るし。

だからね、先輩たちが制裁を下そうとしているのは分かっているけれど、それじゃあたしの気が治まらない。なんとしても自分の手で鉄槌を下してやる。


強い決意を人知れず固めていた時、ぐにゅっと両頬を四ツ谷先輩の手で挟まれた。

向かい合って座っていたので逃げるタイミングを失った。と言うか、自分の世界にトリップしていて気付くのが遅れた。

じっと見つめてくる四ツ谷先輩に対し、不穏な空気を察知。

恐る恐る「なんでしょうか?」と訊くと。さらにずいっと顔が近づいた。


「菜子……。嘘ついたら、キスするぞ!」

「っ………!いやー!!本当に自分で転んだんです!!」


先輩との距離、わずか20㎝あるかどうか。

もう、何でゲームの登場人物ってこうも整った顔してんのよ!?

心臓持たんわ!!

なんとか引きはがそうと必死に抵抗するが、先輩も負けじと反発する。

その時、スパーン!と気持ちの良い音がしたかと思うと、四ツ谷先輩が横に倒れた。その後ろには静かに笑う五嶋先輩の姿があった。

前に居た四ツ谷先輩が倒れたせいで、冷酷な微笑みを直で見る羽目になり、思わず固まる。


「四ツ谷?君は今、どんな状況か分かっていてふざけているのか?それとも僕に構って欲しくてそんな馬鹿な行動を取ったのか?」

「いや、わりぃ。必死な顔見ていたら、…つい?」


疑問符付けんな!!あんたは「つい」で乙女の唇を奪うのか!?

この変態!!似非おしゃれヘアー野郎!!


五嶋先輩はそのまま四ツ谷先輩を膝詰で説教。あたしは一条先輩に触れられてもいない唇を何やら熱心にティッシュで拭かれ、若干ヒリヒリするはめになった。


「少年が寝てんだから静かにせんか!馬鹿者!!」


男前に声を上げた十字先生に保健室を追い出され、疲労困憊のまま保健室を出た。

椿と美穂は先に教室で待っていると聞き、左足を庇いながら向かう。

そんなに痛くはないけど、違和感があるから歩きづらい。

ドアからひょっこり顔を出すと二人はお昼を食べずに待っていてくれた。

合流を見届けた先輩たちと別れ、三人でお昼を取った。怪我の具合を訊いてきたので軽い捻挫だと答えると、安心したみたい。捻挫は癖になるから気を付けるようにと、椿に忠告され、素直に頷く。





殆どの生徒が会場に戻り、校舎は平日の昼間だと言うのに異様な静けさに包まれていた。

椿の午後の試合が始まるので、あたし達も移動し始める。


「…………」

「ん?菜子、どうした?」


教室からそんなに離れていない廊下の途中、突然止まったあたしに椿が不思議そうに訊いた。美穂も首を傾げている。


「あ、もしかして足、痛くなった?」

「ううん、違うの。タオル忘れちゃったみたいで」

「も~。なちはとろいんだから」


「とろいとは失礼な!」と軽口を飛ばし、一緒に戻ろうかと言ってくれる二人に一人で大丈夫だから先に行ってと言った。

二人が歩き出すのを見送り、教室とは反対に足を進める。不規則な足音が一つ、廊下に響いていた。





普通校舎の奥、LL教室は広い。その教室の前まで進んであたしは待っていた。

「カチャ」ドアが開く。


「こんにちは、佐々木先輩?なんの御用ですか?ここには四ツ谷先輩は居ませんよ」


初めて対面する佐々木先輩は、大人しそうな女の子だった。でもその顔は嫉妬に歪み、暗い。余程あたしが憎いのだろう、強く握りしめられた拳が震えている。


「ず~っと見ていましたよね。昨日も今日も…。階段で押したの、先輩でしょ?ダメですよ、分かりやす過ぎます。もっとばれない様にやらなくちゃ」


黙ったまま睨みつけている先輩に、あたしは淡々と喋り続ける。

そう、本当は気付いていた。佐々木先輩の視線に。

五嶋先輩の目論見通り、佐々木先輩は喰い付いたの。あたしと言う餌に。

目を吊り上げ、歯を噛みしめている。「ふー、ふーっ」と歯の隙間から漏れる息で、辛うじて跳びかかるのを我慢しているのが分かった。

そんな先輩に対して微笑みかける。優しく、穏やかに。

自制心を煽るように……。


「どうしたんですか?せっかく邪魔が入らない様にとここまでお誘いしたのに、何故黙っているんです?」

「……うるさい。…うるさい。うるさい!!」


頭を掻きむしりそうな勢いで叫びだした。釣り上がった目は、まるで蛇でも憑りついているんじゃないかと思う程、人間離れして見える。

『狂っている』そう、この人は嫉妬と言う醜い感情に憑りつかれ、自制心を失い、狂い始めている。


「なんなのよ、…アンタ、何なの!?四ツ谷君はねぇ、私の恋人なの!私の優しい恋人なのよ!?あの人はいつも言ってくれるわ、「おはよう」って。何かあると「大丈夫?」って気にかけてくれるのよ?あの人はあたしにだけ優しければいいの……。アンタなんか邪魔なのよ!消えなさいよ!!」


成程、この人の中で先輩はいつの間にか恋人に昇格していたのね。


「優しい恋人…?ばっかじゃないの?「おはよう」くらい誰にでも言うわよ。近所のおじさんが挨拶したら恋人になる訳?転んだ人に「大丈夫?」って聞かない人の方が少ないわよ?こんな事で恋人になるなら今頃パニックよ。恋人が出来なくて悩む人なんて居なくなるわね」


あ~、ホント頭くるわ。こういうの相手にすると……。

あたしは「はぁ~~」と長く、大きな溜め息を吐いた。


「あのさぁ、現実見ましょう?先輩は貴女の恋人じゃないんです。………妄想に憑りつかれる暇があったら、自分の気持ちを伝える努力をしてください。勝手に盛り上がって嫉妬して、良い迷惑」

「なによ……、アンタが悪いのよ。全部、全部。アンタが!!」

「第三者を巻き込んだ時点で自分を正当化する権利なんて貴女に無いわ。罪も認めず嫉妬に狂い、妄想の産物のまま行動する貴女は、四ツ谷先輩に近付く邪魔な女に成り下がったのよ!」


「あーーーー!!」


佐々木先輩はスカートから鋏を取り出し、こちらに向かって突進してきた。

しきりにポケットを気にしていたから何か持っているだろうとは思っていたけど……。

机の間を走り抜け、一直線に向かってくる。避ける為に体重を掛けると捻挫した足首が痛んだが、無視して交わす。


「アンタが、アンタがぁ!」


無茶苦茶に鋏を振り回し、追いかけて来た。痛みに気を取られもたつき、壁に追い詰められてしまった。

先輩の目は血走り真っ赤に染まっている。

こんな状況なのに冷静な自分に吃驚しつつ、どうしようかと考えた。

すると先輩が口を開き、ぼそりと言葉を紡ぎ出した。


「アンタに言われなくても分かっているのよ。四ツ谷君は皆に優しい。挨拶だって私だけにしている訳じゃない。そんなの知ってるわ。でも平等だったから、特別が居なかったから良かったの。……なのに!」


先輩も分かっていた。自分がしていることの愚かしさに。でも認められなかった、“桜川菜子”を。

赤い目に涙を溜め、縋るように睨みつけてくる。

まるで「止めてくれ」とでも言いたそうに。


「いつもアンタを目で追っているの。五嶋君との会話には良くアンタの名前が出るようになった。……知らない間に生徒会室にも招き入れて……。悔しかった。ねぇ、何で?何でアンタなの?何で私じゃないの?」

「何でと訊いている時点でダメですね。簡単だったんですよ。ただ遠くから見て満足するだけじゃなく、近くに行きたいと願ったなら声を掛けて、友人になる努力をするべきだった。自分の気持ちも伝えないままで相手が気付いてくれると甘えたから、今、先輩は自分で自分を追い詰めて苦しんでいるんです」

「う……。ふ、うぅ…」


大粒の涙が零れ落ちる。

素直になれば良かったのに。でもそれが途轍もなく勇気の要ることで、どれほど大変な覚悟が要るかは分かるつもり。

ただ、佐々木先輩は選択を間違えただけ。



声を掛けようとした瞬間、弱り切っていた目に凶暴な光が戻り、咄嗟に身を引くと頬を刃が通り過ぎた。

焼けるような細い痛みと共に生暖かい滴が頬を伝う。

二つに縛っていた左側の風通しが良くなった。「パサリ」と軽い音がして、目を向けるとそこには見慣れた栗色の柔らかな髪が落ちていた。

顔を上げると、佐々木先輩は鋏を落とし、泣きながら震えていた。

その姿を見た時、今度はあたしの内で凶暴な感情が生まれる。

「バチーン!」と張り手一発。体全体を使って繰り出した力は思ったより強かったらしく、先輩は横に吹き飛び、倒れ込んだ。


「貴女ねぇ……。自分の行動に責任が取れないようなこと、してんじゃないわよ!!」


自分のした事が恐ろしくなって、震えるなんて……。

ばっかじゃないの!?

あー、アホらしいったらないわ。

怒りで鬼の形相のあたしを泣きながら見上げてくる佐々木先輩。


「確かに貴女は可哀想かもしれないけどねぇ。こっちは捻挫して頬切られて、おまけに大切にしていた髪を切られたのよ?同情の余地無しね!自分で自分の悲恋に酔ってろ!!いつまでも甘えられる歳だと思うなよ!」


そう怒鳴りつけた時、廊下から慌ただしい足音が幾つも聞こえて来た。

と、同時に恐怖する。


うん、これは泣くまで説教コースだな。と。


本当は佐々木先輩の内情や、菜子の言葉をもっとしっかり書きたかったのですが、……限界でした。


佐々木先輩のように純粋な気持ちが狂うのには様々な要因があると思っています。

親・兄弟・友人。

ですが、どんな事でも暴力はいけません。

今回はお話なので言い方は悪いですが、大袈裟に書きました。

嫌悪感を持たれた方にはお詫び致しますm(__)m

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