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24 とりあえず、死亡フラグはないらしい?

日が延びた夕方の帰り道、久しぶりに侑吾君と並んで帰っている。顔色の悪いあたしを心配してか、歩調はゆっくり。

寮までの道中、侑吾君は四ツ谷先輩を褒めまくっていた。


「俺、先輩の顔しか知らなかったから、生徒会の人間だしA組だしで良い印象なかったんだ。でも先入観を持って接するのは良くないって分かったよ。菜子のこと本当に心配してくれてたよな。他の生徒会の人達も話してみたら案外気が合うかもしれない」


嬉しそうに話す侑吾君の隣で、あたしはその通りだと頷いていた。


「会長ってさ、どんな人?」

「一条先輩はねぇ……。老若男女が見惚れる美貌を持ちながら、人間としては欠陥部分がある惜しい人」



――一条先輩。

彼はゲームをやっていた時は完璧超人で、隙のない人だと思っていた。多少人間関係を築くのが不器用ではあるが、そのギャップが良い、と。

だけど『実際は?』そう訊かれたらあたしは『残念な人』と答えるだろう。人との付き合いは不器用どころではない。ハッキリ言って欠落している。

人付き合いを「無駄」だの「意味がない」だの言っている様では、マシな人間になれない。一緒に出掛けてからそれが気になって仕方がない。知ってしまったからにはどうにかどうにかしなければ、と言うよく分からない使命感が生まれた。

……まあ、今のところ何もやってないけどさ。



「他は?確か一年にも生徒会役員居たよな?」

「うん、二宮花楓君って言うんだよ。彼はね会長を目標にしているんだって。プチ会長だね」



――二宮君。

ツンデレ属性の彼は努力家だ。たった一人の一年と言うだけでも精神的に疲れそうなのに、それを隠して役員として立派に勤め上げている。

ただ……。実際に間近で見ているとこっちが心労で倒れそうになる。そんなに頑張らなくても良いじゃん、と言いたくなる。でも、それは二宮君に対して失礼だ。だって彼は迫られている訳ではなく、望んで努力しているから。だったら応援するしかないでしょ?



「あと誰が居るんだ?」

「え!?あの人を知らないなんて……。ダメだよ、侑吾君。五嶋悠斗先輩。役職は会計。絶対に覚えて。で、不穏な空気を感じたら速攻で逃げて!」


あたしの必死な物言いに、侑吾君は不思議な顔で頷いていた。



――五嶋先輩。

一言で表すと、怖い。優しい笑顔を振りまきながらサラッと毒舌……。え?歳の功で勝てるだろって?答えはNO!あたしは理解した。子供と侮ってはいけない、あたしなんかただ歳を重ねただけの女だったのよ。

ここぞと言う時に笑顔でゴリ押し。あっぱれとしか言いようが無いね、まったく。

あの四ツ谷先輩に「鬼!」と言われ、一条先輩に対して「しょうがないなぁ」と言えるのはあの人だけだろう。

係わりたくない。でもその口車は是非とも学びたい。なんてったって生徒会の真の支配者だからね!




いつもよりゆっくり歩いていたのに、あっという間に寮に着いてしまった。誰かと一緒に帰ると時間は短く感じるようだ。でもそれは侑吾君だからだよね。苦手な人と一緒に居ると苦痛を感じる事があるけど、安心出来る人とだったら楽しいもの。



共有玄関で「部屋に戻ったら直ぐ連絡して」と言われた。ここは素直に頷く。


「連絡来るまでここで待ってるから、何かあったら戻ってこいよ?」

「え~、それはさすがに……。はい、言う通りにします」


……怖かった。

侑吾君は「病人は口答えするな」とよく言う。それはあたしが病み上がりに無茶して、再びベッドに戻ると言うことを何度か繰り返したからだ。

こうなった時の侑吾君には素直に従うのが吉。じゃないと治った後、過保護に拍車がかかるからだ。




女子寮に入った瞬間、人の気配で溢れかえった廊下に小さな恐怖を覚えた。みんな部屋に居るから、廊下には人は居ないのに気配がする。見えないと言うこと、それが怖かった。いかに人間は視覚に頼っているのかが分かる。

足音を出さないよう気にしながら急いで部屋まで行き、中に入ると鍵を閉めた。ホッと息を吐く。電気を点け、机に鞄を置くと椅子に座った。

一気に力が抜け、机に突っ伏す。


ああ、このまま何も考えないで寝てしまいたい。


そんな衝動を何とか堪え、まず玄関に居る侑吾君にメールする。


[今部屋に戻りました]


すると直ぐ返信が来た。きっと携帯を手に持っていたに違いない。


[ゆっくり休め。何かあったら直ぐ連絡!いいな?]


メールの文面まで過保護……。

苦笑いしながら[分かった]と返信した。



次は四ツ谷先輩だ。ただの報告でも初めての相手に初メールとは、いささか緊張する。内容を簡潔に、分かりやすく纏めて伝えなければ……!


[今日はありがとうございました。寮に着き、今は部屋に一人ですがドアには鍵、掛けてます。心配しないでください]


うん、これで良い。

送信ボタンを押し、送信完了を確認してから制服を脱ぐ。部屋着のTシャツとスエットに着替えてロフトベッドによじ登った。

締め付けの無い服に着替えると一気に疲労感が全身を襲う。あたしは布団にうつ伏せで倒れ込んだ。

ヴ-・ヴー。

ポケットに入れた携帯が振動した。メールが届いたみたい。

ゆっくり起き上がり、だらしなくあひる座りで届いたメールを読む。


[無事着いたみたいで良かった。今日はゆっくり休め。解っていると思うが、ルームメイトが帰って来るまで鍵は開けるなよ?それと明日の登校、一人は絶対止めろ。三橋でも良いし、俺でも良い。誰かと一緒に行け。遠慮して連絡しないとかはナシだ。どういう状況が他人に負担を掛けるか、お前なら分かるだろ?]


文面を見てぼーっとする。

「どういう状況が他人に負担を掛けるか、お前なら分かるだろ?」

これは、何があったか知っている俺に連絡しないと、余計心配になるだろうが!と言いたいのだろうな。もう少し素直に言えば良いのに……。天邪鬼め。


あたしは返信画面を開き、


[分かりました。あたしを心配してくれるのは嬉しいですが、心配し過ぎてハゲないでくださいね]


と返信した。すると直ぐに[ハゲるかボケ!]と返ってきた。

「あはは!」誰も居ないのに一人で声を出して笑ってしまった。打てば響く人って面白い。






「もっしも~し」


――この声は!!


「は~い。シュラでーす。元気ぃ?」


――良いとこで会ったわ。ねぇ、あなた神様なのよね?あたしにあなたの姿を見えるように出来ない?


「ごめんね、それは出来ないんだ」


……ちっ!一目見てぶん殴ってやろうと思ったのに。


「ん?今怖いこと考えなかった?」


――何のこと?それよりあたし結構危ない状況なんだけど、……何で?


「だから、言ったでしょ?君次第で変わるって。君の行動が引き寄せた結果だよ」


――あたしが悪いって言うの!?


「そうは言ってないでしょ?でも君がその人に影響を与えたのは間違いないんだ。それは分かるよね?どうするかは君が決めなきゃならない。僕は見守ることしか出来ないから」


――………一つ訊いても良い?最初に「寿命まで生きられるはず」って言ったわよね?あれはどういう意味?あたし、また死ぬの……?


「君は以前、不慮の事故で死に、転生した。ここはゲームを現実にした世界だ。だからゲームとしては死ぬことは無い。けれど事故など予期せぬことは回避できない」


――成程。あのゲームにバッドエンディングは無かったものね。……でも現実の世界でもあるから“事故”は起こる可能性があるってことか……。一つスッキリしたわ、ありがと。


「うん。……ごめんね、僕勝手なことしちゃったのかも……。以前の君は見て居られないくらいいつも悲しい顔をしていた。僕の方が辛くなるくらいだったんだ。でも、今の君は笑顔が多くなった。それが嬉しいよ。…………もう起きるね。また会おう」





「なこぉーーーー!!」


意識が浮上するのと同時に鍵を開け、あたしの名前を叫びながら椿が帰ってきた。

シュラに会ったのだから寝ていたのは間違いないけど、いつの間に寝ていたのかな?

ロフトベッドから身を乗り出し、「おかえり」と声をかけると降りて来いと言う。

言う通り下りると抱きしめられた。

おお!顔が胸に埋まってる!羨ましい。けど息苦しいぞ、コレ……。

なんとか顔を上げることに成功した。

ふぅ、苦しかった。


「おかえり、椿。どうして慌ててるの?」

「三橋からメール来たんだよ。菜子が倒れたって!もう、心配したんだからね!全く、…何て虚弱なんだろう。今度からもっと食べられるようにあたしが口に食い物突っ込んでやろうか?」

「いえ、マジで勘弁してください。ちゃんと食べるよ。だから着替えたら一緒にご飯食べに行かない?」


「直ぐ用意する!」と椿は制服を脱ぎ、惜しげも無く均整のとれた下着姿を披露する。

ホント、羨ましいたらないわね。

ジャージーに着替えた椿と一緒に食堂に行き夕飯を食べたが、横から「少ない」だの「もっと食べなきゃ」と煩かった。想ってくれるのは嬉しいけど、自分の大盛り定食からちょっとずつあたしの方に混入するのは止めて。


い、…胃が……痛い。


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