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22 やって来た狂気

更新履歴はあったのですが、掲載されていなかったので再UP


上手く書けないのはいつもの事だと諦めました

(._.)

家庭科部に入ってから数日後の夜。すっかり日課になった椿との試験対策中。なかなか集中力の続かない椿に手を焼きながらも、なんとか続けている。


「な~こ~。今日は何?」

「椿リクエストのプチシュウだよ。だから食べたかったら早くそれ、終わらせようね」

「よっし!ヤル気でたぁ!」


椿と一緒にあたしも試験勉強をしている。来学期、A組に入るなら上位10位以内に入らなければならない。勉強ばかりでは精神的に疲れるので、家庭科部でのお菓子作りが良い息抜きになっている。

生徒会の仕事がない日や早く終わった日は家庭科部に顔を出し、作ったお菓子でお茶をしている。

太りそうなので気を付けなくちゃ。


躓きながらもなんとか終わり、ようやくお茶の時間。椿は2・3個口に放り込み、ハムスターの様に頬を膨らませて食べている。

ここまで幸せそうな顔で食べてもらえると、作った方としては嬉しい限りだ。


「う~ん、幸せ……。あ、そうだ!今週末は球技大会でしょ?菜子は種目何にするの?」

「……へ?何それ?」

「忘れたの?体育の時間に説明受けたじゃない。女子は混合ソフト、バレー、バドミントンから。男子は混合ソフト、バスケ、卓球のなかから選ぶんだよ。明日の体育で出場競技決めるんだって」


……すっかり忘れていた。言われて思い出したよ。

前世では頭を使うより体を動かす方が得意だった。でも生まれ変わった今は苦手。頭で考えていることが伝わらない感じ。

あれに近いかな、『子供の運動会で怪我をする親』的な?


体育は3クラス合同での授業。B・C・D組とE・F・G組。A組は一クラスでの授業になる。男女別なので侑吾君とは授業で会うことはないが、椿とは一緒だ。

「あたしは勿論バレー!」とバレー部の椿は言った。クラス人数の少ないA組の為に、個人で出場出来るバドミントンと卓球がある。運動部の人は椿のように所属している競技に出るのが通例らしい。運動が苦手なあたしは、どうしよう……。

チームプレーだと迷惑かけてしまいそうだし、バドミントンにしようかな。早く負ければその分自由時間増えるし。


「あたしはバドミントンにする。らくそうだし」

「あ~、確かに楽だね。どうせ菜子の事だから早く負けよう、とか思ってんでしょ?」


……図星。さすがルームメイトだわ。よく分かってらっしゃる。


「応援に来てよ、あたしの雄姿を見に来て!」

「うん、面白そう。そういえば椿の部活姿って見たこと無かったものね。美穂誘って応援に行くよ」

「ついでに差し入れなんかもあると非常に嬉しいのですが」

「じゃあ、ベタにレモンの蜂蜜着漬けね」




次の日、美穂に球技大会のことを伝えると、「それ良い!」と言って一緒にバドミントンを選択することにした。選択したバドミントンはシングルス・ダブルスを選べる。あたしはシングルス。美穂もシングルスで出場だ。

どうやら美穂も運動は苦手で、早く終わらせてサボりたいと言うのが本音らしい。

体力測定に始まり、球技大会、体育祭なんてものを楽しむのは、運動部や体育会系の皆様だけだ。あたしのような運動嫌いにとってはその日一日、苦行に他ならない。





球技大会3日前。生徒会室に行くと、宛がわれたあたしの机に大量の紙が積み重なって置かれていた。そのあまりの量に暫し呆然と立ち尽くす。

指先で触れただけで雪崩の如く崩れ落ちてしまいそうだ。


「あの~。五嶋先輩?これは何でしょうか?」

「今日の君の仕事だよ。明後日球技大会でしょ?トーナメントは毎年、体育の先生と相談して生徒会が決めてるんだ。それ競技ごとに分けてあるから、早速それ持って四ツ谷と一緒に一階の進路相談室行って。あそこの相談室は職員室に近いから便利なんだ」


え?ここ三階ですよね?一階までこの量を運べと……?

未だ紙の束を見たまま動かないあたしに、部屋の外に出るときに持たされる通称『五嶋ボード』を首に掛けられ、机の上の紙を紙袋に入れ、それを持たされた。

隣では四ツ谷先輩が慣れた手つきでせっせと詰め込んでいる。


「分からないことは四ツ谷に訊いてね。中等部の頃からこれは四ツ谷の仕事なんだ。まぁ、言いかえればこれしかないとも言える」

「五嶋ぁ…、言い換えなくていい。それに、他にも仕事してるだろ?」

「うん?どれの事を言っているのか分からないな。僕に分かるように仕事内容を教えてくれないか?」

「さぁ!行くぞ菜子!!」


五嶋先輩の黒笑顔に、とっとと退散を決め込んだ四ツ谷先輩に急かされ部屋を出た。

歩く度に揺れるボードが邪魔でしょうがない。そう言えば、生徒会に見習いとして入ってからこうやって誰かと一緒に歩くのは初めてだ。

何時だったか、初めて生徒会室に並んで向かった時同様、薄く鼻歌を歌っている。




「菜子はどの競技に出るんだ?」

「バドミントンです」


進路相談室に着くと早速仕分け作業を始めた。バランス良くトーナメントを組むために、その競技経験者と未経験者に分ける作業だ。

成程、この単調作業はいつもやっている仕事と同じだ。ただ、字を追っているので目が痛くなる。程よく休みながら終わる頃、先輩に訊かれた。


「バドかぁ、おれバスケなんだよな。会場違うじゃん。つまらん。ちなみに高天と五嶋もバスケだ。応援したくなったろ?」

「いえ、全く。それに先約があるのでそちらには行けません。先輩、仕分け終わりましたよ。次は何をすればいいんですか?」

「菜子つれない……。次わぁ、それぞれに番号振ってくじ引き。あ、先に経験者はトーナメントに入れとけよ。残りの枠にくじで入れて」


つれなくて結構。約束は先約優先。そもそも応援する気など一切無い。

言われた通り番号を振り、くじを作る。誰が引くのか問えば答えは「俺」。先輩が作ったくじを引くのはあたし。製作者ではない者が引く決まりらしい。

トーナメント表を作って、そこに予め経験者をバランス良く入れていく。これで作業の半分は終わった。あとは先輩にひたすらくじを引いてもらうだけ。

番号を書いた紙を紙袋に入れ(本当にこんな雑でいいのだろうか……)それを先輩に差し出す。だけど先輩は立ち上がって背伸びを始めた。


「んあ~。体固まったぁ。ちょっと休憩しよう。って言っても、この部屋何にもないんだよなぁ」

「そうですね。生徒会室に一旦戻りますか?」

「いや、俺が荷物取って来るよ。菜子のもな。すぐ戻って来るけど用心の為に鍵、掛けとけ」


そう言って先輩は荷物を取に行ってしまった。部屋には一人きり……。おっと、鍵かけなきゃね。しかし、何で鍵?ここは職員室に近いから安全なはずなのに……。

鍵を掛け、戻ろうとすると人が近づいてくる気配がした。


先輩?……のはずない。3階まで行って戻って来るのは結構時間が掛かる。じゃあ先生?


そっとドアに耳を付け、漏れ聞こえる音を伺う。

だんだんと近づいていた足音はコツと音を切り、この部屋の前で止まった。


いやぁ~!!なに!?何なの??学園七不思議ぃ!!?

あたしホラー映画は大好きだけど、本物はダメなのよぉー!

コンコン。とノックされ、あたしは悲鳴を飲み込んで後ろに飛び退いた。


「四ツ谷君?居るんでしょ……?ねぇ、開けて?」


ヤバイ、めっちゃ怖い。

落ち着いた女性の声。だけどその落ち着き方が怖かった。まるで割れる寸前の風船のような緊張が伝わってくる。

あたしは声が出ないように両手で口を押さえた。


「……ねぇ、なんで?なんで開けてくれないの……?」


10秒ほど声が止み、居なくなったか?そう思った時、「ガチャガチャ!!」と激しくノブを回す音が響いた。

女性は「開けてよ…、開けて!!」そう言いながらドアを叩き、ノブを回す。


「もしかして…、あの女と一緒なの?最近入った一年生……。……許さない……許さないわよ……!」


それはもしかしなくてもあたしの事ですかね?

はぁ、ついに来た。裏で本気で想う女。厄介なうえ、狂気を孕んでいてドアを挟んでいても背筋が寒くなる。

先輩、早く帰って来て!あなたをこんなに待ち望んだのは初めてです!

祈りが通じたのか、女性とは違った重い足音が響いて来た。

やっと来た!早く、早く何とかして!!


「あれ~、佐々木さん?こんなことろで何やってるの?」

「四ツ谷君……。ううん、何でもないの。生徒会の仕事、頑張ってね」

「は~い。ありがとね~」


会話が止み、軽い足音が遠ざかる。

やっと帰った。分かった途端に力が抜け、その場にへたり込んでしまった。目に見えない狂気ってこんなに怖いんだ……。

先輩が「菜子、大丈夫か?」と声を掛けてくれるけど力が入らない。どうにか四つん這いでドアまで近付き、鍵を開けた。

この時に先輩が「鍵を掛けろ」と言った意味が分かった。

廊下では人目があるから五嶋先輩から渡されたボードで虫除けになっているが、こうして個室に一人きりになったところを狙っている生徒も居るんだ。

あの人はあたしが一人だと分かってこの部屋に来た……。

ドアを開け、へたり込んだあたしを見た先輩は、静かにドアを閉めて目線を合わせるようにしゃがんだ。


「大丈夫か?悪かった、一人にして。職員室が近いから大丈夫だと思ったんだが……。立てるか?」


まだ心臓がパニックを起こしたかのように、早く大きく鼓動を刻んでいる。紙が飛ばないようにと締め切られた部屋は、生温い空気で包まれ、息がしづらい。うっすらとかいた汗が恐怖で冷たくなった体から、更に体温を奪おうとする。

深く、ゆっくり深呼吸をした。指先から徐々に感覚が戻って来た。


「……大丈夫です。荷物、ありがとうございます。……先輩のファンて過激ですね?」

「あんなのは稀だ。それより本当に大丈夫か?立てないなら手、貸すぞ」


先輩は手を差し伸べたまま待ってくれた。戸惑いながらもその手を取ると、自分以外の人の温もりに漸く人心地がついた。

のろのろ動くあたしに先輩は合わせて動き、椅子に座らせてくれた。


――ああ、この人は本当はこんなにも優しい人なんだ。


先輩は「おごりだ」と言って、机に自販機で売られているレモネードをくれた。お礼を言い、ゆっくり飲む。喉を通ると、全身に染み渡るかのように甘い酸味が広がった。


「今日はもう終わりにしよう。俺はコレ終わらせなきゃいけないから、送れない。誰か一緒に帰ってくれる友人はいるか?」

「……いえ、大丈夫です。やれます」

「ダメだ!そんな青い顔した奴は残らせられない。誰か呼ぶまでどこにも行かせないからな」


先輩は本気だった。仕方なくあたしは侑吾君を呼ぶことにした。最初、椿を呼ぼうと思ったけど、今は部活中だ。美穂も思い浮かんだけど、あの子は今日、買い物に行くと言っていた。なら勉強の邪魔になってしまうけど侑吾君しかいない。

ワンコールで出た侑吾君は「直ぐに行く」と電話を切った。


「連絡着いたか?」

「はい、直ぐ来てくれるそうです。……すみません、先輩。仕事途中にしてしまって」

「気にしなくて良いって、俺にも非はあるし」


俺にも非はある?先輩は悪くないのに、それなのに自分が傷つけたかのような顔をして、自分を責めている。

話題を変えるかのように「誰が来るんだ?」と訊いてきた。


「三橋侑吾君です」

「……男?」

「はい、幼馴染なんです」

「へ~、幼馴染…ねぇ。ま、いいや。今日は寮に帰ったらルームメイトが帰ってくるまで鍵は開けるな。登下校は誰でもいいから一緒に居ろ。校内でも一人にはなるなよ?」

怒涛の約束事に、今から来る人物と重なった。「分かりました」と返事をすると同時に、息を弾ませた侑吾君がやって来た。


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