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10 豹変男にご用心。


春の風にはほんの僅かだが、花の香りが混じっている。でもその香りは決して邪魔なものではなく、心を落ちつかせ癒してくれるのもだ。

風が吹けばどこからか香りと共に桜の花びらが舞い幻想的な風景を作り出す。

今だって温かく柔らかい日差しの下、数人の男子生徒がワイシャツの袖を捲り、楽しそうに声を上げながらサッカーをしていた。


のはどうでも良くて……。

居る。居やがるぞあいつが!!

あの寝癖は図書室であった白制服の副会長だ!!


グラウンドでサッカーをしていたのは副会長だった。隣に座る真中さんはまだ気付いた様子はない。このままあたしが何も言わなければやり過ごせるのではないか?

手元にはまだ封を切っていないBLTサンドが一つとペットボトルのお茶が一本。身軽な今なら気付かれることなく簡単に逃げられるが、ここで席を立つと変に目立つ恐れがあった。

真中さんは既に2つ目のパンを手に取っている。


「あれ、食べないの?食欲ない?」

「ううん。食べるよ」


あたしはなるべく顔を隠すように食べた。

いつ気が付かれるかと気が気ではなかったが、何とか食事を終えると真中さんに謝りながら一人で教室に戻ることにした。

今朝の食事といいこの昼食といい、いい加減ゆっくり食べたいんですけど……。



この学園は外履きと中履が一緒なのでいちいち靴を履きかえる手間が無い。正面玄関から入ると一目散に教室に向かった。その途中、トイレに行きたくなり、近くに在った女子トイレに隠れるように入る。少しの油断が危険を招くと知った今、あたしはトイレさえも気にしながら入らなければならない。

個室に入り、用が終わってもボンヤリ蓋の上に座っていると声が聞こえ、女生徒が中に入って来た。声の種類からすると二人のようだ。すると二人は用を済ませる訳でもなく、鏡の前に行き髪がどーした、顔がどーしたと話し始めた。「しまった、出て行くタイミングを逃した」そう思っていると、


「そういえば今朝寮の食堂で一条様と親しげに話している女生徒を見かけたのよね。見たことない顔だったから一年だと思うんだけど、知ってる?」

「私も見た、でも知らないわ。一体誰なのかしら」


「ひぃぃぃぃ」声は上げなかったが、思わずムンクの叫びを体現。

やっぱりダメじゃん!!アウトだったんだよ!!

女子の嫌がらせほど面倒くさいものはないのにぃ!


二人が出て行ったあと、入る時より慎重に周囲を警戒しながら出た。

いつ・どこで・だれが見ているのかわからない。早く黒制服の群れに紛れるのだ!

この日は何とか無事一日を乗り切り、朝食もかなり早くなるが念のため椿と一緒に取ることにした。



しばらく朝食を椿と一緒に取っていた結果、白制服の生徒と顔を合わせることはなかったのでこのまま何もなければ良いと思っていると、放課後先生に手伝いを頼まれてしまった。

授業で使った教材を戻して欲しいと言うことなので、仕方なく請負、早く済ませようと辺りに注意を向けることなく目的の教材室に急いだ。

こまごまとした物が多く、バランスを崩すと落としそうだ。そう思っていた時、案の定人とぶつかり荷物を落としてしまう。壊れ物でなくて良かった。


「はい、これ」

「すみません、ありがとうございます」

「いえいえ。お礼は君の名前で良いよ」

「はい?」


ぶつかった人は親切にも拾うのを手伝ってくれた。渡された物を受け取り、お礼を言うと下手なナンパの様な台詞をかけられ、思わず顔を見るとそこに居たのは副会長だった。相変わらず着崩した制服と寝癖頭をしている。

しまった、またもや油断した。

これはアレだ、『廊下であたしが落とした荷物を拾う』イベントだ。

先に図書室で会っていたので、もう無いだろうと思っていたのがいけなかった。

先輩は「約束だったよね」と言い張り、まだ落ちていた荷物を人質(物質?)にし、名乗るまで渡さない覚悟のようだ。


「……桜川菜子です。手伝っていただきありがとうございます」

「どういたしまして。前見て無かった俺も悪いしね、お互い様だよ。俺は四ツよつやかい、生徒会の副会長です。“うみ”って書いてかいね。ナコちゃんはどんな字?」

「菜の花の“菜”に子供の“子”で菜子です」

「ああ、菜の花ね。あれって集団で咲いていると綺麗だけど匂いがきついよねぇ」

「……そうですね」


あたしはあなたの菜の花の感想についてどう答えればいいのか分かりません。

四ツ谷先輩は教材の一つを持ったまま何か思いついたのか、『にたぁ』と気味の悪い笑みを見せた。

ああ、これは絶対ロクな事じゃないなと思った。

先輩の口から出た言葉は「俺も手伝うよ」。いいえ、本気でお断りします。


「とんでもないです、副会長にそんなことさせられません。お気持ちだけありがたく頂きます、ので、それを返してください」

「だぁいじょうぶだって。俺力あるし、何より紳士だしぃ。可愛い後輩がまた荷物落とさないか心配だしね」

「いえ、教材室は直ぐそこなので大丈夫です」

「直ぐそこなら尚更だよ。ちょっと行けば終わる、簡単だ。俺の手を煩わせたなんて思う必要もない」


もしかして彼は日本語が通じない日本人なのでしょうか……?

なんだか疲れました。それにこのままではまた生徒会のファンの誰かに目撃される恐れがあります。それこそ避けるべき事柄ですね。

あたしは諦めて先輩の嬉しくない申し出を受けました。

教材室は本当に直ぐそこ、教室二部屋分先に在ります。先生には適当に置いてくれれば良いと言われていたので、空いている机に置き、先輩に向き直りました。


「ありがとうございました。助かりました。では、あたしは寮に帰ります」

「いえいえ、どういたしまして。次は俺に付き合って」

「いやです。さようなら」

「あはは、やっばい。ほんと面白いね。ますます連れて行きたくなった」


無視して帰ろうと思い頭を下げ、ドアに向かう。しかしそれより早く先輩がドアの前に立ちふさがった。

さっきまで人の良さそうな笑顔を絶やさなかった先輩の顔からスッと笑みが消える。途端、人を見下したような目をして笑った。笑っているのは口だけで目は一切笑っていない。それがとても怖かった。

逃げようと後ろに下がると大きな手で二の腕を掴まれ、引き寄せらせる。前世でも今生でも、こんなに危険な空気を感じたことはない。

引き寄せた先輩の顔が近づき、耳元で囁かれた。


「俺が付き合えって言ったんだ、大人しく着いて来いよ。あんたに拒否権があると思ってんのか?」

「……。あると思っていますが、何か?」


完全なる虚勢だった。本当は何をされるのか分からなくて怖い。でもそれ以上に負けたくなかった。

今は違うけど本当はコイツよりあたしの方が年上だし!

ガキに負けてたまるかってーのよ!!

あたしは無理やり体を引き、断固とした姿勢で睨みつけた。

目をそらしたら負けだ!


先輩は手を放し、少し後ろに下がると両手を上げた。

ようやく解放されたあたしは更に距離を取る。


「おっけ~い。分かった、無理やりは諦める」

「……理解頂き光栄です」

「だけどさぁ。今俺のお願い聞かなくて良いのかな?もしかしたらお前のクラスに言って呼び出しちゃうかも。それとも毎朝毎晩一緒に食事するか?」

「先輩……、とても素敵な性格していますね」

「まぁな。結構気に入ってる。ほら、行くのか?行かないのか?」

「ご一緒させていただきます。不本意ながら!」


これほどまで四ツ谷海の性格がねじれているとは知りませんでした。

脅して、すかして、強迫?

ゲームをやっているとストーリー上の事なので気になりませんでしたが、実際体験すると思った以上に大変です。 あたしはまたしても間違えたようですね……。

*四ッ谷 海

 黒白学園生徒会副会長

 ちょっと裏表の激しい男の子

 好きなものは『楽しませてくれる人間』



こんな性格になるとは思ってませんでした……。

でも気に入ってます♪

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