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9 春は出会いの季節です。②


会長に会った次の日、朝食を取るため食堂に一人で向かう。

椿は部活の朝練があるので時間が噛み合わない。6時半過ぎに寮を出るのでそれを見送ってから食事に行く。その時間に行くと人がまばらになり、席が確保しやすい。これより前に行くと部活に行く生徒で溢れ、後に行くと行儀の良い学校のくせに騒がしいのだ。

朝食は基本和食で、前の日の夜7時までに申請すればトーストに変えてもらえる。和食好きのあたしはそのまま頂くことにした。と言うか、朝から洋食はちょっと無理。体が小さいせいかあまり入らないので、胃もたれしない食事がありがたい。



半分くらい食べたところで前の席の椅子が引かれた。誰が来たのだろうと顔を上げれば制服姿の生徒会長だった。食事を取に行っておらず、手元にはコーヒー一杯。慌てて下を向き、急いで残りを掻き込んだ。

会長はまたもや無表情で、眠気をほんの少し纏った顔が綺麗だった。マネキンにして服着せればかなり客引きが出来そうだ。

食事を口に運ぶ間、前からのプレッシャーが凄い。それだけじゃなく、居合わせた女生徒からの視線も刺さり、なにを食べても味がしない。


うえ~ん。なんなのよ~。

昨日のことで怒っているのならさっさと用件言ってよ、これじゃ針のむしろじゃない。

あとで変な勘違いしたあんたのファンから嫌がらせされたらどうするのさ!


最後の一口をお茶で流し込み急いで席を立つと、昨日とまた同じことが…。再び手を取られた。

今度はしっかり掴まれ、女のあたしじゃ簡単には逃げられない。

どうしたものか、これはあたしから何か言った方が良いのだろうか?

徐々に食堂の中は騒がしくなり、人が多くなってきた。早いところ何とかしないと余計な問題が本当に起こりそうだ。

みんな近くに座ればいいのに遠巻きに見ている。

おかしい、こんなはずでは……。これじゃ傍目には二人の世界に見えるじゃないか。


「……おはようございます、会長。朝食はしっかり取った方が良いですよ」

「しらじらしい。昨日の勢いはどうした?」

「何のことか分かりません」


お互い表情を出さず、あまりにも寒々とした会話をしていたので、近くにいた人はあたしが会長に喧嘩を売ったと思ったようだ。

実際にはあたしが売られた訳ですが、そんなこと言えません。


「おま…」

「おはよー高天。今日も相変わらず形状記憶合金顔だね」


会長の言葉を切って、男子生徒が眠そうに目を擦りながら話しかけてきました。この人も白制服です。会長に気楽に話しかけているところを見ると友人なのでしょう。


「ん~~。ん?どうしたんだそれ?」

「……何でもない。ほら、早く行け」


視線の先は掴まれた腕です。

気をそがれたのか、会長はあっさり手を放した。

ちょっと……いや、かなり納得いかないが今は早くこの場を去りたい。

白制服二人と黒制服一人ではどうしても目立ってしまう。


「では、失礼します。先輩、おはようございます。会長にご飯食べさせた方が良いですよ。血糖値上げないとイライラしますからね」

「あはは、そうだね~。任せておいて」


どうやら嫌味は通じたようです。

食器を戻し、足早に部屋に戻ると思わず大きなため息が出た。ドアを背にしてその場にしゃがみ込む。

椿が居なくて良かった。また何事かと驚かれるところだった。

辛かったぁ。あんな食事は人生で初めてだよ。



携帯で時間を確認すると登校時間まで余裕がありました。

本当ならもう少しゆっくり食事する予定だったのに、とんだ計算違いです。

テレビなら多目的ホールに設置されていますが使うのは上級生で、一年で使う人はあまりいません。

時間を有効に使うため、買い出しに必要な物を書きだすことにしました。整理しながらやっているといつの間にか時間が経ち、現在7時40分。寮から学園までゆっくり歩くと15分。始業時間は8時30分でしたが早く行って図書室で時間を潰そうと思い、身支度を整えて学園に向かうことにしました。


寮監のおじさんに挨拶していると、「きゃー」と女生徒の色めき立つ声が響き渡り、吃驚して見ると白制服が集団でこちらに向かってくるところでした。

その中に会長と、食堂で会った先輩を見つけ、あたしが気付いたことに先輩が気付くと指をさし、「あっ!」と声を上げたので一目散に逃げました。


でもあの騒ぎで昨日会長が言っていた意味が分かりました。

――「お前は騒がないんだな」

あれはそういう意味だったのでしょう。

と言うことは、あたしは昨日騒ぐべきだった……?

ああ!!やってしまった!!

自分から興味持たせるような発言をしてしまった!?



大人しい子を演じる予定だったのに、全く達成されていない現状……。

これはもう諦めろということなのだろうか…。

とりあえず、逃げることだけは止めないで続けようと思いました。




学園に着いて教室に鞄を置くと真っ直ぐ図書室に向かった。

入学したての新入生が使うのは多少肩身が狭いが、利用する権利は全校生徒にあるのでそんなの知ったこっちゃない。

中には誰も居なくて、遠くに生徒の声がする。どの学校でも図書室は他の教室と違って独特の空気があり、それを感じることが面白い。

あたしは文庫コーナーに行き、背表紙を見て適当に読む本を決めた。教室に持って行く気はない、これは時間までの暇つぶし。

室内にはあたしの息遣いと、本を捲る小さな音がしていた。



始業時間まで10分を切ったので本を戻し、手を組んで背伸びをする。

「ん~~~」声を出して背伸びをすると、どこからか忍び笑いが聞こえて来た。


「誰か居るんですか?」

「ごめん、俺。君、今朝食堂で高天に絡まれてたでしょ?」

「そう見えたのならそうなんじゃないですか。教室に戻りますので失礼します」


顔を出したのは会長に話しかけて来た先輩でした。確か彼は副会長で攻略対象者です。しかし、この人との出会いは『廊下であたしが落とした荷物を拾う』のはず。

シナリオがずれている?と言うか前倒しになっていると言った方が近いですね。

副会長はネクタイを緩め、制服を着崩していました。生徒の基本となるべき生徒会副会長のやっていいことではないです。髪の毛も無造作ヘアーと言えば聞こえが良いかもしれませんが、完璧寝癖でした。


「待って待って。へ~、確かに変わってるね。俺のこと知ってる?」

「すみません、知りません。高校からの入学なので」

「あ、そうなんだ。なるほど……。でもそれを引いても変わってるね」

「それなら個性と言うことで納得してください。HRに遅れるので失礼します」


内心ドキドキしながら出口に向かった。

後ろから声をかけられ、振り返ると先輩は手を振っている。


「次は名前教えてねぇ。俺も教えるし」

「機会があれば、と言うことで。先輩も戻った方が良いですよ」



図書室を出ると最初はゆっくり、徐々に競歩に近い速さで人の気配がある場所まで急いだ。

人よ!人の波に紛れれば黒制服の多い学園では目駄々ないわ!

気を隠すなら森の中。真理よね、これ!


呼吸を整えて教室に戻るとすぐ担任の先生が来た。ぎりぎりセーフ。

担任が伝える連絡事項を聞きながら『教室から出なきゃ会わなくてすむじゃ~ん。あたし頭良い♪』と思っていたが問題は昼休みだった。昼食はお弁当を持って来ていないので学食か、正面玄関近くの購買で買うしかない。どちらにしても教室から出なければならなかった。


「ねぇ、真中さんって上がり組だよね」

「うん、そ~だよ」

「学食ってどんな感じかな」


あたしは隣の席の真中まなか美穂みほさんに訊いた。真中さんは中学部時代に椿と仲が良かったらしく、同室のあたしに良く話しかけてくる。知り合いの居ない中ではありがたい存在だった。

その真中さんは少し大げさと言うか、素直と言うか……。今もあたしの質問に腕を組んで首を傾げながらどう答えるべきか悩んでいる。


「中学部の時は目立つ先輩目的に行く子が多くて騒がしかったよ。生徒会の人達ってだいたいいつも一緒に居るから」

「へ~、そうなんだ。じゃあ、購買のが良いかな」

「そうした方が良いかも。ちょっとでも生徒会の人と係わるとあの人たちのファンが煩いんだぁ。本人たちは気にしてないし、丸っきり無視してるけどねぇ」

「怖そうだね……」

「係わらなきゃ大丈夫だよ。でも風紀委員に選ばれたら覚悟した方が良いかも」


真中さんと話しながらあたしは『今朝のあれ、アウトじゃね!?』と落ち着かなくなった。

購買で昼食を済ますと言う真中さんと一緒に購買でパンを買い、外のウッドベンチで食べることにした。ベンチの上には木の葉が生い茂り、影を作っている。ここなら夏でも使えそうだ。

ベンチから見えるグラウンドでは男子生徒がサッカーをして遊んでいた。みんな上のジャケットは脱いでいるが下は制服のままだ。その黒の中に一つだけ白が見え隠れしていた。


いつも読んでいただきありがとうございますm(__)m


キャラの名前は後で出します。

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