表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/102

93 違和感は増していく

よろしくお願いします。

だからと言って直ぐに会えるわけがない。さんざん傷つけておいて、どの面下げて会うのか。放課後になるのを待つしかなかった。

普段の授業もまとも受けていないが、今日は特に酷かった。何度も五嶋が注意報してきたが、それすら耳に入らなくて、高天まで体調不良だと心配していたほどだ。


「うわっ、授業終わってる!」


いつの間にか寝ていた俺が起きたときには、既に放課後になっていた。顔を上げると白い物が視界を遮る。額に貼られたそれを取って見ると、『良く寝ている様なので置いていくよ。10分遅れる毎に仕事倍だから』と五嶋直筆のメモだった。


「起こせよ!」


五嶋が倍にすると言って倍になった試しがない。3倍は覚悟が必要だ。ただでさえデスクワークが苦手な俺に、そんな量の仕事が出来るはずがない。五嶋は分かっていて書き残して行ったのだろう。あの腹黒男がやりそうなことだ。

鞄を肩にかけ、急いで生徒会室に向かった。学園祭準備中の校内は浮き足だっているようで、笑い声や走り回る音が絶えず聞こえてくる。

生徒会室のドアの前、ノブに手を掛けるのも躊躇する。こんなに緊張したのは初めてだ。


「悪い、遅れた」


中に入るとみんな机に向かってペンを走らせ、電卓を叩いていた。俺の机には今まで見たことも無いくらいの紙の束……。やっぱり倍じゃないな、あの量は。


「やっと来たね。ほら、四ッ谷のために仕事を残しておいてあげたよ」

「はいはい、ありがとうございます」


席に着いて紙の束を作業しやすいように整理し、早速取り掛かった。中には俺の管轄外の物まである。後は纏めるだけのようだから俺でも出来るが、本当に五嶋は容赦ないな。


「一条先輩、これお願いします」

「ありがとう、そこに置いてくれ」


高天の後ろには付き人のように菜子が立っていた。その顔に泣いていた跡は見られない。良かったと思う反面、高天の近くに菜子が居る。自分が望んだ事なのに、酷く不快な感情が沸き上がった。


俺以外の奴らは今日の分の仕事が終わり、一休みしてから帰るらしい。ソファに座ってお茶を飲み始めた。その隣には、当然のように菜子が座っている。しかも、寄り添うように……。

何故だか違和感を覚えた。菜子はこんなふうに高天の近くに座ったことがあっただろうか。俺の記憶に間違いがなければ仕方なく隣に座るときも、少し離れて座っていたはずだ。

その証拠に笑顔だから分かりづらいが、五嶋が不機嫌になっている。笑いながら静かに怒るとは、五嶋は器用だな。


「今度何か作ってきますね、一条先輩は何が良いですか?」

「いや、俺は菓子については良く分からないからな、何でも良い」

「僕は菜子ちゃんが作ってくれるなら何でも嬉しいな。本当は僕の為だけに作って欲しいけれど」


五嶋の歯の浮くような台詞に、菜子は笑って誤魔化している。普段だったら反応して言い返すはずなのに……。やっぱり、まだ本調子じゃないのかもしれない。


夏期講習が終わり、実力テストも終わった。生徒会の仕事もようやく落ち着いて来たが、学園祭準備はこれからが本番だ。机に向かう時間より、校内を走り回る時間が多くなった。

それに比例するように、俺の中の菜子への違和感も増していく。高天も五嶋も二宮も気付いていない。でも確かに変なんだ。どこがと言われると答えられないが、俺の中の何かが違うと告げていた。


「あれ、二宮は?」

「クラスの手伝いに行ったよ、終わったらそのまま帰るってさ。そう言えば四ッ谷、菅谷のこと学園祭に誘ったのかい?」

「俺が知るかよ、大道寺に聞け」

「冷たいねぇ、菜子ちゃんはどう思う?」


学園祭はチケット制だ、制限はあるが外部の者を誘う事が出来る。体育祭以降、菅谷とはたまに連絡を取っている。仕事は大変だが、認めてもらえることが嬉しいと言っていた。

大道寺の仲はまだギクシャクしているが、前よりはましだ。照れもあるが、俺と大道寺が仲良く肩を組むとか想像出来ない。怖すぎる。今の関係で充分だ。


「大道寺先輩が誘っているんじゃやないですか?」

「……それだけか、菜子」

「四ッ谷?」


菜子は五嶋に話を向けられ、素っ気なく答えた。俺達に隠れて動き回っていた菜子が、菅谷の話が出たのに食い付いてこないのはおかしい。俺達の中にあった誤解が解けたことを喜び、涙した菜子の反応とは思えない。


「どうした、海?」


座っていた高天が空気が変わったことを不審に思い、諌めるように俺の肩に手を置く。

ずっとおかしいと思ってた。菜子は笑うとき、ちょっと顔を伏せるんだ。話しかけられれば照れたり嫌そうな顔したり、感情が表情に出るんだ。なのに今の目の前に居る菜子は人の好意を素直に受け止め、人との距離を取ろうともいない。

そうだ、何でこんな簡単なこと、気付かなかったんだ。そもそも菜子は俺が高天を選べと言ったからといって、素直に高天を選ぶはずがない。まず第一に俺を怒るはずだ「ふざけないでください!」と、「人の気持ちが簡単に移ろう訳がないじゃないですか!」と。


「……悪い、何でもない。あ、そうだ菜子。悪いけど残りの仕事手伝ってくれ、あと少しで終るからそんなに時間は掛からないと思う。高天と五嶋は先に帰っていてくれ。帰りはちゃんと送るから心配するな」


渋る二人を先に帰した。今、生徒会室に居るのは俺と菜子の二人。「どれを手伝えば良いですか?」と言う菜子を制した。


「無いよ、仕事。お前に確認したいこどがあったんだ。……菜子、お前は誰だ?」


俺の言葉に菜子は静かに微笑んだ。

次回もよろしければお付き合いくださいm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ