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戦場での再会


ノアの挨拶はそれで終わりではなかった。悶絶するベンザ卿を目の前に。間隔をあけずに脇腹に踵落としが炸裂し、抵抗することもできすベンザ卿は地面に向かって真っ逆さまに落下した。

 

 ピシュン――。


 そんな風切音が聞こえ、ノアはベンザ卿の落下位置に一瞬で先回りした。そして落ちてきたベンザ卿を空中で捕まえると、勢いに任せてベンザ卿の顔面に膝をめり込ませる。兜の隙間から血煙が吹き出し、飛び立った元の大地に、勢いのまま背中から地面に叩き付けられた。背後からの衝撃が体を突き刺し、ベンザ卿は血反吐を宙にぶちまけ、薄れた意識が一瞬消えかけた。ノアは追撃をかけけるべくこちらに肉薄してくる。ぼろぼろの体が身を守るべく無意識に防衛の呪文を呟く。


 「クソッ頼む!!《絶対防御領域ベンザ・カバー》」


 ベンザ卿の願いが神にでも通じたのか、それともただの偶然か、《絶対防御領域ベンザ・カバー》がベンザ卿の周囲に展開された。ノアは直接攻撃を諦め、体を反転させて上空へ駆け上がった。


 「すでに対策済みだ」


 地面で踏ん張るベンザ卿の耳にそのような声聞こえた。同時に、頭上を深紅の≪アークエンジェル≫が高速で飛行する。数は12機と非常に少ないがその動きは通常の≪アークエンジェル≫の3倍近く素早く、機敏でもある。


 「親衛隊の力を見せつけろ、一斉攻撃だ 」

 「無駄だ!! 」

 

 ベンザ卿とノアの怒声が重なり合い。互いを睨み付ける。≪アークエンジェル≫は素早くベンザ卿を取り囲んだ。深紅の機体の両肩が開き、そこからミサイルが一斉に射出される。ミサイルは緩やかな弧を描きながら薄い光を帯びた正20面体に突っ込んで行った。


 衝撃が来ることを予想しベンザ卿は身構えたがその予想は裏切られた。《絶対防御領域ベンザ・カバー》に衝突したミサイルは爆発する事無く、ひしゃげて白い煙をまき散らしただけだった。


 スーーーッ――そんな気の抜けた音と共に吹き出す白いガスが、にらみ合う両者の間を隔てた。


 (なんだこれは……毒ガスか?)


 そんな考えが一瞬頭を過った。それなら問題ないはずだ。ベンザ卿は砲撃を受けた時、爆粉や爆炎で汚れた空気を自分は吸わなかった経験から《絶対防御領域ベンザ・カバー》は毒ガスに対しても効果があると踏んでいた。


 突然の突風が戦場を駆け抜けた。白いガスのカーテンが揺れて上空で待機するノアとベンザ卿の視線を再び結び合わせた。ベンザ卿はその時考えを改めた。ノアは笑っているのだ。奴は何かを企んでいる。そしてその効果に絶対的な自信があるのだ。さもなくば笑うことなどできまい。そのようなことを考えたベンザ卿の背筋に突如悪寒が走った。気が付けば意識が朦朧として、目もかすむ。自分の吐く息が白く……色づいており……。


 「なんだこれは!!」


 ベンザ卿が気が付いた時にはすでに手遅れだった。《絶対防御領域ベンザ・カバー》には白い霜が降りており、手先の感覚が失われつつあった。これはあの白いガスのせいだ。


 「どうだ瞬間で摂氏-200℃に達する冷凍ミサイルのお味は? 普通の生物なら1秒もたないのに面白い体じゃないか?」


 寒さを感じたのは最初の数秒、ほんの数秒だけだ。ベンザ卿は「しまった!!」と大きく舌を鳴らした。《絶対防御領域ベンザ・カバー》に完全な断熱効果は無いのだ。ベンザ卿は寒さを感じることなく一瞬で体の自由を奪われてしまった。ベンザ卿は。≪ 炎の指パッチンフレイム・フィンガースナップ≫を使おうと、腕に力を込めたが返事がない。それに呂律も回らない。


 「貴様のその力無理に破ろうとは思わん。殻に籠りたければ好きなだけ籠ればいい。しかし貴様、もうすぐ寿命だそうじゃないか? なら待とう、私は確実に任務を遂行する」


 ノアは懐から砂時計を取り出しで、それを逆さに向けた。赤く色付された砂が重力に従い下の小瓶に積もってゆく。


 「貴様の命は約2分だ」


 ベンザ卿の頭上で高らかにそう宣言したノアは腕を組んでベンザ卿を見下ろした。どうやらベンザ卿が死んで行く様をこの場所で見学するらしい。ベンザ卿は必死に抵抗を試みた。しかしどこも自分の命令を聞かない。まるで自分がただの屍のような気分になりベンザ卿は吐き気を催したが、それすらも許されなかった。そのうちにベンザ卿を猛烈な睡魔が襲った。ベンザ卿は以前冒険家から話を聞いたことがあった。雪山で暖をとらずに睡眠をとると、体が凍り付いて睡眠と共に死んでしまうと。しかし今の自分に逆らえそうにない。このまま私は死んで行くのだとベンザ卿は心の片隅でそのようなことを考えた。まぶたが鉛のように重く、まぶたがその重みに耐えきれず、ゆっくりと視界が薄れていった。


 そして――ベンザ卿の意識が途絶えた……。


 (来るぞ)


 再び男の声だ。その声は神のお告げのように、自分の心に直接語りかけてくるようだった。


 (彼女がくる)

 (彼女?)


 ベンザ卿は素で疑問符を浮かべた。


 (ああ、貴様を愛する人が貴様を助けに来るぞ)

 (それはいったい……それにお前は……)

 (鈍いやつめ、それに先ほど言ったはずだ、私は貴様自身だと。急いだほうがいいぞファルコン・ベンザ、貴様が私になる前に……)


 言葉の最後はかすれて、ベンザ卿は全てを聞き取ることができなかった。しかしその言葉が途切れたと同時に突如体に異変が起きた。尻が痒いのだ。


 しかしこれはおかしな話である。今の自分は人間氷像状態で、痒いなどという感覚は感じるはずがない。しかしベンザ卿は猛烈に尻が痒かったし、頬も熱いと感じた。いや、熱いのは頬だけではない。頭も、顔も、胸も、腕も、足も、体全身が熱い。そして嬉しいことにそれを全身で感じている。感覚が体に戻りつつある。そんな喜びを胸に、ベンザ卿は目を開こうと努力した。最初は抵抗していたまぶたも、ベンザ卿の意思に負けて、素直に命令に従った。その時のまぶたは羽毛のように軽かった。


「お目覚めですか?」


 太陽のような笑顔がベンザ卿を出迎えた。真珠色の肌と炎のような髪が眩しい、長い髪は動きやすくするためかポニーテル状にまとめれており、肩から流れた尻尾の先端がベンザ卿の顔をくすぐった。身に着けているものは最後に別れた時と同じ、胸元を少し強調した深紅のバトルドレスだ。彼女が少し首を動かしたと時、形の良い小ぶりの胸が弾んだ。まったく……いいおっぱいだ……。


 「膝枕とは、何年振りだろうか……」


 小さく囁いたベンザ卿の頬に深紅の皮手に覆われた右手が添えられる。ルビー色の瞳が自分を見下ろして、ベンザ卿は心の奥を見透かされるような気分になった。


 「助太刀に参りましたベンザ卿。次からはもっとましな嘘を考えておいてくださいね」

 「まったく私は嘘が下手だ」


 子供を叱りつけるようにベンザ卿にピシャリと言いつけた彼女はにっこりと笑みを浮かべた。それを見てベンザ卿は苦笑した。彼女は先ほどの幻影の姿とは異なり、しっかりとした生命力に満ち溢れている。


「あと変な目で私を見ないでください」


 少し頬を染めた彼女に睨まれてしまったベンザ卿はバツの悪そうに顔をポリポリ掻いた。本当に心を見透かされているとは……。


 語る立場からフォローを入れさせていだくとこれは完全にベンザ卿は無実である。悪いのはいいおっぱいの方だ。あんないいおっぱいが眼前にあれば見ない方が失礼であると個人的に……。


 よりあえず、そんな中ふとベンザ卿は膝から頭を上げるとキョロキョロと自分の周りを見渡した。何故なら先ほどまで戦闘をしていたはずだ。先ほどから敵の攻撃の気配が無いのだ。ならどうやって彼女は自分を助け出したのか、その方法が気になったのだ。


 今ベンザ卿達の周囲は炎のカーテン、いや壁と言ったほうが正しいだろう物に囲まれ熱気が立ち込めている。壁の近くははただならぬ熱さに違いない。体を包んだ氷が解けたのも納得である。さらに周囲をよく見ると、大量の白色の破片とそれに交じって赤色の破片が散乱している。


 「少々力押しをさせていただきました」


 ベンザ卿の目線に淑やかに答える彼女は笑顔だ。


 「ただエンジェルが少々五月蠅かったので、鉄くずにしておきました」

 「それは世間ではゴリ押しと呼ばれていて、「少々の力押し」ではないぞ……」


 少し照れながら戦火を自慢する彼女。ベンザ卿は彼女の戦闘能力に驚きつつも冷静にボケを処理した。もし彼女の少々の使い方が正しければ、素手で戦艦3隻沈めても多少という言葉で許されるはずだ。


 「立てますか」の一言をベンザ卿は右手を挙げて制した。彼女は自分の命を危険に晒してまでも自分を助けにきてくれたのだ。そんな彼女に肩を借りて無様によろよろと立ち上がる。そんな無様な姿は見せられなかった。これは単純にプライドの問題だ。足を大地に突き立てベンザ卿はゆっくりと立ち上がり……たかったのだが。


 ベンザ卿のその行動を邪魔するかのように炎の壁が十字に切り裂かれ、壁の内側にノアが単騎突入してきた。ノアは左半身を煤まみれにして、かなり憤激している様子だ。そしてマラサイを視界に捉えるなり噛みついた。


 「不意打ちを受けたとはいえ、貴様を過小評価していたようだ」

 「天界で鬼神と呼ばれた大佐殿とお聞きして楽しみにしていたのに、少し残念でしたわ」


 マラサイは妖艶に微笑みを向けたがそれは火に油を注いだようだ。


 「まったくその強気がいつまで保てるかな?このまま女にやられたまま終わっては、私のプライドが許さないんだ。小娘、貴様は生け捕りにして大将、いや変態に引き渡す。そうすれば私の評価も大きく上がるはずだ」


 「変態の上官をもつと大変そうですね」


 ノアは腰のホルスターから拳銃を抜き、怒りに満ち溢れた銃口をマサライに向けた。素早く引き金を絞り拳銃を連射する。同時にマラサイは地面を手で仰ぐような動作を見せた。


 「≪赤壁レッドクリフ≫」

 

 とたんに地面から溶岩が吹き出し紅蓮に燃え盛る壁を作り上げた。拳銃から放たれた弾は、虚しく赤壁に吸い込まれる。マラサイは壁の向こうでノアが舌打ちをする姿を安易に想像し、思わず笑みが浮かんだ。しかし赤壁が一文字に切り裂かれる。赤く煌々しい光を放つレーザー・ソードを振りかざしながらノアがマラサイに迫った。背中の機械の羽を大きく広げ、背後にいくつもの陽炎をまとい雷撃の如く突撃する。手から数発の火球をはなち牽制を試みたマラサイだが、桁外れの軌道にまったく追いつかない。マラサイの20m手前まで接近した後、ノアが一瞬消えた。そして敵を見失い動揺するマラサイの背後に瞬間移動し、ノアはレーザー・ソードの刃筋を腰まで落とし右足で踏み込みを入れた。強化外骨格で覆われた重い体が地面に沈む。体重を前にかけ刃筋を地面と平行に構えて突き出す。


 マラサイがその三段突きを察知いた時には剣先は目と鼻の先まで迫っていた。マラサイは本能的に目をつぶり顔を手で守る。耳を塞ぎたくなるような肉の焼ける音と同時に、熱い液体が全身にかかった。マラサイは恐怖で身を震わせると鼻に肉の焼ける臭いが忍び込んできた。今の自分の体を想像すると吐き気を催した。マラサイは昔大学で読んだどこかの知識書を思い出した。戦闘時人はアドレナリンが放出されたとえ体の一部が欠損しようとも痛みを感じることが無い場合が多いこと。そして人は体を切断されても数秒は意識があるのだという論文も思い出した。今の自分はどんな醜い姿なのかと、マラサイは今の自分を想像するのが怖かった。


 「大丈夫かマラサイ!? 」


 ベンザ卿の声だった。その低い声に安心感を覚えたマラサイは目を開けて、自分の艶やかかな体を見下げた。切り刻まれている箇所も。焼け爛れている痕も無い。しかし全身が血まみれだった。ここで一つ単純に疑問が浮かぶ。自分が無傷ならこの血は誰の物なのかと。マラサイは恐る恐る、視線を声の聞こえた方に向けた。

 

 赤い光線がベンザ卿の左肩を貫いていた。ノアは両手を突き出しベンザ卿に光の刃を突き立て。ベンザ卿はノアの手を両手でしっかりと掴みそれ以上の刃の侵攻を防いでいた。今両者は互いの息がかかるまでの近距離で目線を交わしている。


 マラサイは声すら出せずにただ唖然と佇んでいた。あの時油断した自分をいくら責めても責めきれなかった。


 「まずは腕一本だ」


 ノアは嘲笑を浮かべ刃を返した。ベンザの肉が抉れて、痛々しい音が響く。ノアはのそのままベンザ卿の手をふりほどき、刃を振り切った。ベンザ卿の左腕が消えた




今週はこれで最後になります。

次の投稿は書き溜めてからになりますので2,3週間お待ちください。


誤字指摘・評価・感想お待ちしています。

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