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摩天楼『マテンロウ』

 

 「飛んで火に入る夏の虫……まさにこの事ではないかねノア君?」


 マッケンバウアー大将は不敵な笑みを浮かべ、隣のノア大佐に向けそう言い放った。

 ノア大佐は横目で大将を一瞬見ると「ハッ……」と短く答えた。大将はやれやれ堅苦しい男だといわんばかりに首を振る。

 2人がいる場所はマテンロウ要塞総司令室。

 司令室内では緊急事態を示す赤ランプが各部署で点灯し、常にブザーの音が鳴り響いている。彼らの周囲では約100名のオペレータが、要塞に接近する未確認の敵の対応に追われていた。巨大な部屋の中央にある巨大スクリーンには1つの赤点が表示されている。


 「敵を捕捉中……なんだこの速度は!! マッハを超えてる……」


 部屋のオペレーターがそう報告した。スクリーン画面は天界軍自慢の高性能魔道粒子式レーダーの物である。そこに映し出された赤点は信じられない速度でこの摩天楼『マテンロウ』要塞に接近していた。


 「いやはや、せっかくこちらから出向くところだったの、にわざわざ向こうからこちらに来ちゃうなんて……楽しみだな~」


 大将は顎を手で擦りながら相変わらずの笑顔である。

 (この人は何を考えているんだ……)隣のノア大佐はそのようなことを考えながら大将の表情を確認した。


 「わが軍の配備状況は?」


 その視線に気が付いたのか、大将は大佐に突然そう言った。


 「ハッ、只今の配備状況は、地上の要塞周辺に【モロナイ】戦車1000台を配置。同時に歩兵5千人【エンジェル】800機も配備しています。空は【ケルビム級】戦艦8隻、【パワーズ級】航空イージス艦が15隻配備を終えていつでも戦闘可能な状態です。なお駐屯地から敵迎撃に向かわせた【スローズ級】航空母艦1隻と【ケルビム級】戦艦2隻はこちら合流するように指示をだしました。合流予定は3分後です。また天界本部からもゲートを通して増援が到着する予定です」


 大佐は質問を予期していたかのようにスラスラと答えた。そして他に何か?という表情で大将に視線を送った。


「ほう、ならば小手調べだ。ノア、全【パワーズ級】イージス艦に、対飛龍長距離用高性能追尾式ミサイルを準備させろ」

 

 対飛龍長距離用高性能追尾式ミサイル……これは天界に生息する絶対的な捕食者、飛龍を討伐するために開発された兵器である。(天界に生息している飛龍の皮膚は【ケルビム級】戦艦の3倍の硬さと強度を備えている)


 通常これが飛龍討伐以外に使用されることは無い、何故か?

 それは1発で半径10キロを雑草1本生えない不毛の大地に変える過剰火力兵器だからだ。ノア大佐は少し戸惑いの表情を見せたがすぐさま15人の艦長達に命令を伝えた。

 この人に少しでも逆らってはいけない、大佐の本能がそれを感じ取っていた。



 マテンロウ要塞、その上空に待機していた15隻の【パワーズ級】イージス艦の後部ハッチが一斉に開放される。そしてイージス艦後部からは銀色をしたミサイルがゆっくり頭を出す。対飛龍長距離用高性能追尾式ミサイル別名:銀の槍である。その銀の槍が一斉に敵の接近する東の空に向けられた。


 「1・2・3・4・5・番艦準備完了」

 「10から15番艦も準備完了」

 「6から9番も準備完了しました」


 各オペレータたちが攻撃準備完了の報告をする。


「カウントだ」


 部屋中に大将の声が響き渡り、片手を上に振り上げた。部屋中が赤の非常灯に切り替わりカウントが開始された。


「カウント開始!! 5……4……」

「3……2……」



   ◇   ◇   ◇



【パワーズ級】イージス艦システム制御室。


「……1……カウントゼロ!!」


 ボタンの安全装置が一斉解除された。


「「ファイヤー!!!!!!!」」


 二人の仕官が同時に最後の安全装置を解除し、ミサイル発射スイッチを押した。太陽の光を反射しながら輝く槍は天空に放たれた。周囲の山々を揺るがすかような轟音が響き、各イージス艦から空に向けて15本の白線が伸びていった。


 

   ◇   ◇   ◇ 



 司令室のスクリーンに15の青点が表示され、赤い点に向かっていく。


 「ターゲット接触まであと30秒……20秒……10……9……8……7……6……5……4……3……なっ、馬鹿な!!!」

 「大変です大佐!! ターゲット到達前にミサイル消滅!! 消滅です!! 15発の銀の槍が一斉消滅しました!!」

 「ターゲット健在!! 繰り替えす、ターゲット健在!! あと3分でマテンロウ要塞に到達します」


 司令室内は火事場のごとく大騒ぎになった。


 「ありえない……」


 大佐は心の中でそう言ったつもりだった。しかしそれは言葉として現れていた。ノア大佐は目の前で起きている事態を受け止めることができなかった。

 消滅……しかも15発同時に……いったいあそこで何が起きたのか……。


 「貴様はいつまでそのバカ面をしているのかね?」


 司令室内が一斉に静まり返った。まるで時間が止まったようだ。それまでの一部始終を同じく目撃していた大将は今だ満面の笑みを浮かべていた。


 「なにが「ありえない」のだ?貴様は真実をこの目で目撃した。それはその時点でその「ありない」という可能性は消滅したのだよ、意味分かるか……大佐殿?」


 大将はいっそう声を張り上げ周囲を見渡した。


 「いいですか皆さん今からいくさです。しかし今までような蟻をプチプチするようなつまらない戦ではありません、我々がプチプチされる可能性のある本当の戦。すなわち殺し合いです」


 大将は胸に拳を当て叫んだ。


 「気を引き締ろ諸君。戦争の時間だ!!」


 大将は静寂に包まれた司令室を見渡した。


 「……せいぜいプチプチされないように健闘したまえ……以上……」


 騒ぎの続きをしたまえ、そう付け加え大将は一歩後ろに下がった。その一言で止まった時間は再び動きだした。先ほどより忙しく……そして激しく。


 「大将!!」


 その時だった。一人の兵士が司令室に飛び込んできた。

 マッケンバウアーは無言でその兵士を直視する。


 「大将お電話です」

 「繋げ」


 そう一言言った大将に兵士が耳打ちする。


 「将軍、天皇テンコウ閣下からの直通、白電話です」


 それを聞いた大将は一瞬気だるげな表情をしたが、了解した。と一言いって司令室の中央の白い電話の受話器を取った。

 するとだんだん大将の顔がいつも以上の笑顔に変わっていく、そして1分もたたないうちに受話器をおいた。大将はいつも笑顔である、しかし今の笑顔は違った。その場にいた全員が同じ感情を抱いたのだ。それは「恐怖」大将は人々をかき分け部屋の中心に向かう。

 中心に立つと大将は2,3回手を叩き周囲の注目を集めた。


 大将は叫ぶ。


「全軍今から新しい命令を下す!!」



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