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白銀の鬼神

ベンザ卿は侵略をうけている隣国を救うべく、大空に飛び立った。

  

 悪魔は地面に巨大な魔方陣を描いた。契約の儀式に必要らしい。


 「契約する前にお願いがあります」


 地面に魔方陣を描きながら、ふと悪魔が声をかけた。


「ん?」


 腕を組み、魔方陣が描かれるのをしげしげと観察していたベンザ卿は、半ば上の空で返事をした。


「実は私、映画監督になるのが夢なんです」


 少し悪魔は興奮した様子で、ローブの中を探った。


「映画? なんだそれは」

「ええ――――説明が難しいですね。写真はご存知ですか?」

「ああ、あの長い時間じっとしていなければならないやつだろう? 私は嫌いだ」

「悪魔のカメラは技術が進化しておりまして、動いているものを動画として撮影できるのです」

「動いているものを撮影できる!? それはすごい、で動画とはなにか?」

「ああ……まあとりあえず、貴方の勇士を記録として残しておきたいので、その許可をもらえませんか?」

「よく分からんが……まあいいだろう」


 ベンザ卿は首をかしげながら快く撮影を許可した。


「ありがとうございます」


 それを聞いた悪魔は嬉しそうにカメラを取り出しレンズを磨いた。そのカメラはベンザ卿の知っているカメラよりもずっと小型で奇妙な形をしていた。悪魔の技術は進んでいるなと関心しながらもベンザ卿は少しの間カメラの調整を行っていた悪魔をぼんやりと眺める。数分の後、悪魔は自分の目的を思い出したかのように慌てて魔方陣に最後の記号を記入する。


「ところで質問があるのだが?」


 完成した魔方陣を横目にベンザ卿は手を上げた。


「なんでしょう?」

「最強の力というのは、具体的にはどんな力かね?」


 ベンザ卿が疑問に思うのも無理は無い、すべての寿命と引き換えに受け取る力なのだ、少しでも情報がほしい。


「はあ、大体のことができます。14歳ぐらいの少年があこがれている大体の能力が使えます」

「目から光線」


 ベンザ卿はとっさに思いついた能力を言った。


「できます」


 ほう、と頷きながらさらに難題を考える。


「手から火炎弾」

「初期装備です」


 初期装備と聞いて、気分がよくなったベンザ卿は思考をめぐらす。すると昔読んだ鋼で、錬金術な漫画を思い出した。


「指パッチンで炎を出す」

「なめてもらっちゃ困ります」


 これを聞いたベンザ卿は、まさかと思いつつ自分の希望を述べる。


「空を高速で飛行」

「できないと言うとでも?」


 ここまでくればと、ベンザ卿は確信を持って質問した。


「その幻想を左手でぶち壊す」

「右手でも可能です」


 両者は顔を見合わせ、笑みを浮かべた。


「完璧だな」

「ハイ、完璧です」


 そしてベンザ卿は指を切って、血を地面に描かれた魔方陣に1滴落とした。悪魔とベンザ卿は契約を交わした瞬間だった。




     ◇     ◇     ◇




 「もうだめだ……」


 レギア卿はそう呟いた。

 レオパルド王国守備部隊は壊滅寸前だった。隣国のセルべりア王国が滅ぼされたことは伝わっていたが、まさかこんなに早く天界人が進行してくるとは予想もしていなかったのだ。凄まじい光と共に外壁の砲台が1つ1つ蒸発させられていく。敵の機械人形によるビーム攻撃によるものだった。


 「外壁の砲台は全滅です!! もう機械人形に対抗する手段が……」


 兵士の一人が大声で叫んだ。その瞬間外壁に大きな衝撃が伝わり大気を振動させる。


 「卿!! 機械人形が外壁を上ってきます。ここからお逃げください!!」


 兵士がそう警告した時にはすでに遅く、外壁の上に3機の天界兵器が同時に着地した。


 「ばかな!! 16mの外壁を一瞬で!!」


 レギア卿は剣に手をかける。しかしこんなものが彼らに通用しないことは誰の目にも明らかだった。天界兵器は卿や周囲の兵士にビーム砲の銃口を向ける。レギア卿は死を覚悟した。


 その時だった。


 軽快な指パッチンの音と共に、卿の目の前にいた天界兵器が炎上をはじめた。そして同時に、空から銀色に輝く、全身に銀の甲冑を身に着けた騎士が外壁に降り立ったのだ。


 「お久しぶりですな、レギア卿」


 銀に輝く騎士は、唖然と佇むレギア卿に向かってそう言った。


 「その声は……ベンザ卿!! 生きておられたのですか!?」


 ベンザ卿は両手を体の正面に突き出し同時に両手の指をパッチンさせる。のこり2機の天界兵器も同時に炎上した。


 「ベンザ卿……どうなっているんです!?」


 レギア卿はかなり混乱している様子でベンザ卿に駆け寄った。無理も無いだろう死んだと思っていた友人が空から現れ、天界兵器を指パッチンで破壊したのだから。


 「レギア卿、私は悪魔と契約を結んだのです」

 「なん……ですと」


 驚くと同時にレギア卿は腰の剣に手をかけた。この世界では悪魔契約は禁忌中の禁忌。もし悪魔契約が発覚すれば即斬首刑が一般的だったのだ。


 「やめてくださいレギア卿、これしか方法が無かったのです。私は自分の残りの寿命約68年と引き換えに、この力を手に入れました。しかしこの力を使えるのはあと50分なのです」


 「たったの50分!?」

 「はい、私はその50分の間にマテンロウを陥落さるつもりです」

 「正気ですかベンザ卿!?」


 レギア卿は大声を上げた。マテンロウ……人間界最大の天界軍基地があり、天界と人間界を唯一結ぶ橋がある場所。それを50分で陥落させるとベンザ卿は自信に満ちた声で言い切った。


 「いいですかベンザ卿!! あなたはマテンロウの戦力をご存じない!! 50分でマテンロウを陥落させるのは不可能です自殺行為です!!」


 「可能かどうかは問題じゃないのです!! どうせ私はあと50分……いや49分しか生きられない、私は自分の人生に悔いがないように死にたい!! すべての人間を天界人という呪縛から解放させたい!! 私は一度何も守れなかった、しかし今なら力がある!! これは最後のチャンスなんですよ……」


 ベンザ卿は言葉を止めた……その言葉を聴いてレギア卿は唇を噛締め、言おうとしていた言葉を飲み込こんだ。ベンザ卿の決心は揺るがないと悟ったのだろう。


 「すまないレギア卿、もう少し話して居たかったが私には時間がない」


 そう言って外壁の外に向かうベンザ卿。レギア卿は腰の剣をベンザ卿に向かって投げた。


 「武運を祈ります」


 剣を受け取ったベンザ卿は足を止めた、しかし振り返ることなく、そのまま外壁の外に飛び降りたのだった。



 一方天界軍はパニック状態に陥っていた。


 「本部!! 本部!! 応答してください!! こちら【ラミエル1】、先行していた【ウリエル1,2,3】が大破、繰り返す【ウリエル1,2,3】大破!!」


 「【ラミエル1】面白くない冗談だ」


 慌てた様子のパイロットの声を聞き、驚いた様子で司令部のオペレーターが応答した。本部のオペレーターが疑うのは無理もなかった。天界人が操る『二足歩行型天界兵器(エンジェル)』は天界最高技術の結晶である。人間が使用する大砲では撃破どころか傷すら付けられたことがないのだ。


 「冗談じゃない!! 何だあいつは……こっちに来るぞ!! 【ラミエル2,3】攻撃、攻撃だ……うああああああああっっっ……」


 「どうした【ラミエル1】、応答しろ!! 【ラミエル1】応答しろ!!」


 オペレータは無線に向けて怒鳴り声に近い怒声を上げたが、本部のメインモニターに映る赤い印が【ラミエル1】が撃墜されたことを示していた。現地で戦闘中の別機から撃墜が目視で確認された通信が入る。


 「本部【ラミエル】チーム全滅!! 繰り返す【ラミエル】全滅!!」


 「そんな馬鹿なことが……」


 この前代未聞の事態にオペレーターは思考が停止する。天界人からすれば相手は数千年技術力が劣る原始人である。それらにエンジェルが撃墜されるなど、彼の想定の範囲外であった。


 「本部、増援を……このままでは全滅です。増援を、ぎゃぁぁぁぁ」

 「この野郎よくも隊長を……なんだこいつ、ビームが効かな……」


 2機の通信が同時に受信されたかと思うと、同時に機体が消滅する。


 「どうした【ラジエル】、【ラジエル】チーム応答しろ!! ……クソっ!!」


 パイロットたちに適切な指示を送れぬまま、絶句するオペレーター。このままでは全滅が近いことを悟った彼は迷うことなく、ガラスケースに覆われた赤いボタンを叩き割った。


 天界軍駐屯基地に緊急事態を示すサイレンが鳴り響いた。

 基地内の滑走路では天界軍主力兵器である【エンジェル】の改良型【アークエンジェル】が、航空空母【スローンズ】に大急ぎで積み込まれていく。

 空母内のブリーフィングルームには、エリート中のエリートパイロットばかりが集められた。滑走路には【スローンズ】の他に【ケルビム】級空中戦艦が二隻、出撃準備をすませて待機している。このような前代未聞の大規模出撃に、兵士たちは皆首を傾げるばかりだった。


     ◇     ◇     ◇


 ビームセイバーを装備した【エンジェル】は、背中の高機動ブースターを使い高速でベンザ卿に斬りかかった。パイロットは勝利を確信し笑みを浮かべた。しかしその表情は一瞬で恐怖に変わった。ベンザ卿はビームセイバーを左手の人差し指と中指で挟んで受け止めていたのだ。


 「そんな……在りえん!!」


 ベンザ卿は残った右手で【エンジェル】の頭部装甲にデコピンを食らわす。

 金属の引き裂かれる音がした刹那【エンジェル】の頭部から胸部までの装甲が一気に消し飛び、中のパイロットの姿があらわになっていた。パイロットはなにが起きたのかを理解するのに時間がかかった。なにせ突然目の前のモニターが消えて、白銀の騎士が現れたのだから。


 「ひぃぃぃ……おっ、お願い、こっ、殺さないで!! 娘がいるんだ」

 「貴様たちがあざ笑いながら殺した人たちの中にも、娘がいた奴は大勢いただろうに!!」


 ベンザ卿は怒りで声を震わせた。

 パイロットは突如目の前に現れた化け物に恐怖し、奥歯をガタガタ震わせている。ベンザ卿は邪魔だと言い放つと、パイロットをつまみ出し、胸から下だけになった【エンジェル】を、はるか後方で様子を見ていた別の【エンジェル】に向かって投げつけた。


 「なっ!!」


 5tの塊を投げつけられる予想をしていなかったパイロットは、回避をすることが出来ずそのまま塊にぶつかり、彼の【エンジェル】は後方に20m近く吹っ飛んだ。


 「この野郎!!」


友軍機の仇とばかりに粒子砲をフルチャージでベンザ卿めがけて発射する。衝撃波が一帯を包み込んだ。しかしベンザ卿は、その幻想をぶち壊す自慢の右手で空間ごとビームを捻じ曲げ、粒子砲の光線を地面に叩き付けた。


 「化け物め……」

 「私が化け物なら……人々を虫けらのように殺す貴様らは何だ!!」


 ベンザ卿は口笛を吹く、するとその音は振動として大気に伝わり、エアカッターとなり先ほどの【エンジェル】の両足を切り落とし行動不能にした。


 「このっ!! 砕け散りなさい!!」


 頭上から最後の一機が巨大な拳を振り上げベンザ卿を殴りつけた。金属の砕ける音が周囲に響いた。だが砕け散ったのはベンザ卿ではなく【エンジェル】拳の方だった。ベンザ卿は驚愕して立ち尽くす最後の【エンジェル】に対して、頭突きを喰らわせ戦闘不能にした。

 気がつけばベンザ卿の周囲は鉄屑の山になっていた。


(ここは地獄だろうか……)

 

 ベンザ卿はそう呟いた。

 ベンザ卿は自分の力を信じる事ができなかった。

 神にも等しいこの力。

 ベンザ卿は背筋を奮わせる。力に対する恐怖が胸のそこからヒシヒシと湧き出してくる。この力で人々を救える希望。そして虫けらのように命を刈り取ってしまう絶望。ベンザ卿はその二つの可能性を同時に感じ取り奥歯をかみ締める。


 その時だった。


 先ほど頭突きで仕留めた【エンジェル】の中からパイロットが脱出してきた。

 ベンザ卿は驚いた。出てきたのは美しい金髪・金色の瞳・紛れも無い天界人だ。しかしベンザ卿が驚いたのはそこではなかった。パイロット少女だったのだ。しかも外見から察するにまだ14歳・15歳くらいだろう。

 そしてベンザ卿は彼女の言い放った一言に驚愕した。


 「クソッ!! よくも家畜(人間)の分際で私たちの仲間を……」

 「なん……だと……」


 ベンザ卿は一歩、また一歩と怒りで肩を震わせながら少女に向かって歩いていった。少女は近づいてくるベンザ卿に気づくと、急いで逃げ出そうとしたが、腰を抜かしているらしく一瞬で追いつかれてしまった。


 「貴様、さきほど何といった?」


 ベンザ卿は感情の無い声で言い放つ。


 「だっ、黙れ、家畜(人間)!! おっ、女だと思ってなめるなよ!! 私は貴様らにどんな辱め(はずかしめ)や尋問を受けても何も喋らな……」


 轟音が少女の声を掻き消した。ベンザ卿が空間を殴りつけたのだ。ベンザ卿が放ったその拳は空間と時空を巻き込み、少女のはるか後ろにあった2千メートル級の山々を粉砕した。


 「今、何と言ったか聞いている?」


 ベンザ卿からすると少し力を解放し、脅しをかけただけだった。しかし少女はあまりの恐怖に失禁し地面に世界地図を描いていた。


 「かっ、かっ、家畜……ですぅ……」


 彼女は目に涙を浮べながら聞き取るのも困難な小さな声で答える。ベンザ卿はそんな彼女の襟首を掴んで顔を引き寄せる。


 「何故私たちを家畜と呼ぶ!! 何故そこまで残酷になれる!! 貴様らと私たちの違いは、目と髪の色くらいだろうに!!」

 「だっ、だって皆が……隊長…………うああああああっ、ママあっっっん」


 ついに少女は赤子のように大粒の涙を流しながら泣き叫び始めた。

 ベンザ卿は自分が愚かな質問をしたこを後悔した。彼らにとって我々を家畜と呼ぶのは我々が牛や豚をそう呼ぶのと同じなのだ。昔からそれが当たり前なのだ、それが彼らの歴史。価値観が決定的に異なるのだ。

 ベンザ卿もいきなり牛に「何故私を家畜と呼ぶのだ?」と質問されたら、答えられないだろう。ベンザ卿は少女から手を放してやった。彼女は地面にへたり込むとそのまま大声で泣き続けた。


 「殺さないのですか?」


 どこに隠れていたのか、気配も無く悪魔は突然現れた。


 「殺してどうなる、あと武器をもたんものは殺さん。これでもまだ騎士なものでな」


 ベンザ卿は力なくそう言った。


 「いいのですか? 彼女、もしくはその仲間はあなたの仲間を皆殺しにしたのですよ」

 「彼女をバラバラにしてこの罪を償わせようとでも? 確かに私はこいつらが憎い、だがそれでどうなる? 私の気分が良くなるとでも? いいか、何も変わらないんだ」


 その言葉に悪魔は驚いた表情を見せた


 「戦場で戦った兵士に、娘を愛した親がいた。親を思った子がいた。人は力を持つと周囲がなにも見えなくなる、彼らは技術という名の力で身を固めここにやってきた。しかしどうだ、その力を剥がされた彼らは我々と何が違うというのだ……」


 ベンザ卿がそういい終わるとほぼ同時だっただろうか周囲に散らばっている【エンジェル】の残骸から次々と天界人が這い出してきた。


 「ベンザ卿……まさか急所を外……」

 「私はこの力で人を殺さない」


 悪魔がその言葉を言い終える前にベンザ卿は宣言した。その低い声からは固い決意が感じ取れた。悪魔の表情が一瞬で怒りを帯びる。


 「今更なにを!! あなたは力を手に入れる前から戦士として、すでに何人もの人を殺めていたはずだ!! 」


 悪魔は声を荒げた。それに応じてか、ベンザ卿が吼えた。


 「それは戦での死だ。互いに命を賭け、大切なもののため戦い命を殺めた。しかしこの力は違う。ただ圧倒し、捻り潰す、そこには何も無い。この力は人に使ってはならない闇の力だ。彼らも同じ人なのだ!! この力で人を殺めたら、私は人じゃなくなってしまう……いやもう私は人ではない、だかこの力で人を殺めたら、私が私ファルコンベンザで無くなってしまう……そんな気がするのだ」


 悪魔は黙り込みただベンザ卿を見つめている。


 「こんなのものは言い訳だな。その力と向き合う度胸が、だからといって、この世界をこのままにはしない、彼らには自分達の世界にお引取り願う」


 銀と赤、2人は黙り込み、それぞれお互いを見つめ合った。


 「あと何分だ?」


 先に口を開いたのはベンザ卿だった。


 「残り25分です」

 「マテンロウまでどれくらいだ? 」

 「今のあなたなら5分あれば到着します」

 「5分か……時間が惜しい、出発する」


 そう言ってベンザ卿は両足の膝を曲げて跳躍の体制をとる。


 「待ってください!!」


 悪魔がベンザ卿を呼びとめ、ベンザ卿は無言で悪魔の顔を見つめた。


 「あなたの時間を私に少しください。話しておかなければいけないことができました」 


 悪魔の額には汗がにじみ出ており、拳は固く握られていた。悪魔の表情からは事の重大さが感じ取れた。


 「5分だ」


 ベンザ卿はただ一言そう言った。すると悪魔は無言で頭を下げて大声でこう言った。



 「実は私は悪魔ではありません。冥界人なのです」


 「そうか」


 その言葉を聞いてベンザ卿は一言呟いた。


 「驚かないのですね……」


 悪魔は少し驚いた表情をみせる。


「私は悪魔や幽霊の類を信じないものでね、ましてやこんな時代だ。そんな奇怪な格好をしていたら、奴らと同じ異世界からやって来たと思うのが当然だろ」


  ベンザ卿は冷静に答えた。それを見て悪魔は「そうですか」と天を仰いだ。


 「天界では機械技術が発達し、私たちの冥界では魔法術が発達しました。今、私がしているこの悪魔の格好は、変装術式の一つです」


 突如悪魔の体が光に包まれたかと思うと、一瞬にしてその場に一人の女性が現れた。腰までサラリ伸びた紅蓮の髪、真紅の瞳、気品の漂う口元は赤の口紅で彩られており。肌の色は真珠のような白い肌をしている。そのあまりの美しさにベンザ卿も声を漏らした。


 「いま驚かされた」


 美しい顔立ちをした冥界人は柔らかい笑みを浮かべた。


 「どうでしたか? 私の悪魔の変装は完璧でしたでしょう?」

 「いや、ずっとシャ○ザクのコスプレだと思っていました」

 「シャ○ザク……? コスプレ……?」


 冥界人は軽く首を傾げた。


 「いや、ちょっとした冗談だ」


 少し困った顔をした冥界人に、ベンザ卿はそう付け加えた。


 「そういえば名前を名乗っていませんでしたね。私の名前は、シャル・ディアロ・マラサイです。気軽にマラサイとお呼びください」

 「そっちだったか……」

 「先ほどから何をおっしゃっているのですか?」


 本当に困った顔をするマラサイにベンザ卿は笑い声を投げかけた。


 「いや、独り言だ。それよりあなたが悪魔じゃないと言うのなら、私の寿命もあと23分というのも嘘だと言って欲しいのだが?」


 ここにきて始めてベンザ卿は真面目な表情をみせた。


 「いえ、それは本当です」


 その問いにマラサイは申し訳なさそうな声で告げた。


 「そうか……」


 ベンザ卿は手を顎に添え、少し俯いた。


 「私は貴方に、悪魔契約と偽って、貴方の血に【カオス】を混入させました」

 「【カオス】?」


 ベンザ卿は頭に疑問符を浮かべた様な顔をしてマラサイを見つめた。


 「はい、冥界で開発させた身体強化薬、それが【カオス】です。冥界の地下でおよ千年かけて魔力蓄積された魔石をさらに濃縮、精製させ出来る液体です。これを人体に投与すると」


 マラサイは言葉を詰まらせる。


 「どのような力があるというのは、貴方が一番理解しているはずです」


 マラサイは右手を前に突き出した。すると手の平から【カオス】の物と思われる情報が次々と空中に投影されていく。


 「なぜ、ここまで強力な薬を製造する必要があった?」

 「それも貴方が一番ご存知なはずです」


 ベンザ卿は腕を組み、思考をめぐらせる。少し間をおいて静かにベンザ卿が答えた。


「天界人による、人間界侵略か……」


 この答えに満足したのかマラサイは少し笑顔をみせた。


 「察しがいいですね、我々冥界政府はこの事態を非常に重く受け止めました。人間界を征服した後、彼らは果たして人間界だけで満足するのだろうか?」


 「君たちは、天界人の次の目標は冥界……そう考えた訳だな」


 「ええ、冥界およびその傘下の世界と考えたわけです。それにあの強力な天界兵器を目の当たりにした私たちは、まだ実験段階であった【カオス】を急いで実戦で使用できる状態に完成させる必要があったのです。そこで私たちは……」


 マラサイはそこで言葉を切った。ベンザ卿、マラサイ、一瞬の沈黙が2人を包み込んだ


 「人間界での、人体実験に踏み切ったのです」


 静かにそう言ったマラサイの表情は少し悲しそうに見える。


 「私たちは、人間界に潜入し、貴方のような絶望して力を欲するものに、片っ端から声をかけて回りました。そしてあなたと同じように体内に【カオス】を投与したのです」


 「それはおかしな話だ。そんなことをして回ったら、噂にところか大騒ぎにだなるろうに」

 「皆投与した瞬間すぐに死んでしまったんです。体が強力な魔力に耐えられなかったのです。貴方が現れるまで、人間の最高生存時間は47秒、冥界人でも2分半が最高でした」


 先ほどとは違いマラサイの表情にしっかり悲しみが表れていた。


 「無理やり実験をしたのではありません。命の危険があることは事前に説明していました……それでも彼らは首を縦に振ったのです」

 「そうだとしても酷い事を……ビデオカメラとやらで記録を残すのはその兵器の実験データを撮るためか」


 マラサイはベンザ卿を無言で見つめた後、静かに頷き話を続けた。


 「初めて貴方と出会い計測機器で貴方を計った時、私は驚愕しました。なにせ【カオス】投与後1時間以上の生存が可能という結果が出たのですから、まだ実験段階の【カオス】でここまでの適合率がでるなんて……」


 「何故だ?」

 「分かりません。何故あなたがここまでの時間……」

 「そうか……話は変わるがあの時私が時間を値切るのに付き合ったのは何故だ?」

 「簡単に契約してしまえば怪しいではありませんか。こちらが弱みを見せたように見せかけて、相手を信用させる。交渉のテクニックの1つですよ」


 なるほど。ベンザ卿は感心した様子で頷く。一連の話を聞き終えたベンザ卿はマラサイに鋭い視線を向けた。


 「最後に一つだけ聞かせてくれ、何故私にこの話をした? 本来本人に話してはいけないことだろう?」


 最後の質問にマラサイはベンザ卿から視線を逸らし黙り込んだ。少しの沈黙の後、マラサイはその小さな口を開いた。


 「貴方に真実を知っていてほしかったのです」


 その声はあまりにも小さくベンザ卿には聞き取ることができなかった。


 「今なんと?」

 「貴方の真っ直ぐな気持ちに,いえその……誠意に、好感を持ちました。その……彼方に戦ってもらうには、全てを知った上で」


 初めは小声で話していたマラサイしかしなにやら覚悟を決めた様子で、大量の空気を肺に送り込んだ。


 「貴方には全てを知った上で戦う決断して欲しかったのです!!」


 今度は周囲に響くほどの大声で叫んだ。いきなりの大声に驚き後退りするベンザ卿。


 「もう時間ですね。話は以上です。私はただ貴方がモルモットであることを教えたかっただけです」


 そう言って彼女は強引に話を切り上げ、そっぽを向いてしまった。大声を出したせいなのか、はたまた別の理由なのか、その時のマラサイの頬は少し朱色に染まって見えた。



ごめんなさい ファンタジー初挑戦でグダグダになってしまいました。


ファンタジーファンの方本当にすいません。

この作品はファンタジー王道というよりも邪道のような気がします。


自分にもっと文章力があればもっと皆様に楽しんでもらえたのに・・・


感想お待ちしています。

面白くない

私と結婚して

なんでも結構です。自由に書いてください。

作者の力になります。

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