『戦闘』――バトル
天界の大部隊に苦戦するベンザ卿。
マラサイの提案でパンツをクンカクンカすることにより力を得る最強の魔人『パンプキンヘッド』を召喚する。
召喚された『パンプキンヘッド』。ベンザ卿に協力する代わりにマラサイの脱ぎたてパンティを所望する。
ちょっぴりSのマラサイに折檻されたパンプキンへッドは喜んでベンザ卿に協力することを誓うのであった。
(内容に嘘を含みます)
『畜生、何が起きている!!』
『ターゲット付近で膨大な魔力干渉を確認!!』
『魔力量測定不能!! 計測機器が振り切れているっ!!』
『魔道術式解析中……これはっ!! 召喚術式です!!』
マテンロウ要塞総司令室は混沌の中にあった。
ファルコンベンザ出現以来、この部屋で警報が鳴り止まなかった時間はない。
しかし今は間違いなく、ファルコンベンザ出現以降最大の混乱が司令室に訪れていた。慌しく動き回る上級士官。各部隊の対応に追われるオペレーター。
そんな中、のん気にあくびをする大男が一人。
「まったく、退屈させんね」
ジョン・マッケンバウアー大将。
一瞥した他だけではただの無能な軍人に見える彼だが、その実力は天界いや、7世界全土に知れ渡るほどの智将である。
そのだらしのない服装と態度から想像できない、獲物に餓えた猛禽類のような瞳は一度見たら誰も忘れる事は出来ないであろう。
『魔力エネルギーさらに増大!! いったいなんなんだ!!』
『莫大な魔力を確認中!! 全部隊、目標から距離をとれ!!』
『攻撃許可!? バカな後退だ。今手を出せば何が起こるかわからんぞ!!』
司令室では突如発生した莫大な魔力干渉を警戒して、戦闘部隊に後退の指示が出される。司令室の巨大スクリーンには巨大な光の柱が映し出され、その柱の根元ではマラサイとベンザの小さな影が映り込んでいる。
「まったく、神でも呼び出すつもりかね」
指令室内の人々が恐怖と焦りの極限のような表情をしているにもかかわらず、マッケンバウアーだけは期待に胸を膨らまし、無邪気な少年のような笑みをスクリーンに向けるのだった。
◇ ◇ ◇
「なんなんだ……」
司令室の上級士官たちと同く、現場の隊長たちもこの状況に同じ悪態をついていた。1列を作り炎巨人に激しい攻撃を加える戦車部隊にも司令部からの後退命令が届く。
「大隊長、攻撃停止命令。後退命令もです」
「なに!? 炎巨人の進撃は止まった訳ではないのだぞ!!」
「上は魔力爆発の危険があるから直ちに砲撃を停止してBラインまで後退せよと」
体中に砲撃を受けて再生中である炎巨人。2体の炎巨人は体をゆっくり再生させながら地面を這いずって前進している。しかしその巨体のためその速度は人間の全力疾走並である。
「長くは離れられんぞ……」
大隊長は苦い顔をして舌を叩くと部隊に後退の合図を出した。
◇ ◇ ◇
『緊急通信!! 緊急通信!!』
各部隊は防衛ラインを一つ下げて、歩兵・戦車・エンジェル部隊共に補給を完了し指示さえあれば再攻撃はいつでも可能な状態にあった。そんな中無線に最優先の緊急通信が舞い込む。
「こちらBライン防衛部隊、本部どうした?」
莫大な魔力反応により慌しい仮設テントの中、職務従事していた若い通信兵はすぐさま無線を取る。
『たっ、大変だっ!!』
どんな状況でも冷静に物事を伝えなければならないオペレーター。彼らは日々の訓練と実戦を通してそれを一番理解しているはずだ。しかし通信兵の耳に届いたそのオペレーターの声は、酷く怯え混乱し、言葉がうまく発音できていない。
「どっ、どうした!?」
尋常ではない気配を察して通信兵にも緊張が走る。
『かっ、神がっ……』
「ん? よく聞こえないぞ。繰り返せ」
『奴はか、か、か神の右腕を………があっ、っ、っ』
「奴? 何らに動きがあったのか? 神の? どういう意味だ!!」
『神の右腕っ!! パンプキンヘッドがこの世に解き放たれたっ!!』
「なっ!!!!」
通信兵は絶句した。驚きのあまり手に持った無線機を取り落としてしまう。無線機からはまくし立てるようなオペレーターの声が続く。
『奴はそっちに向かってる!! 迎撃っ迎撃をっ!! うっ、アアアアアーーーー……』
「どどど、どうした!? ぉい、パンプキンへッドがっ……」
「あん? 俺を呼んだか?」
彼はそこにいた。まるで空気がこの世に存在しているかの如く彼がその場所に居るのが当たり前のように存在した。
「えっ」
通信兵は反射的に振り向く。
そしてそこで目の当たりにしたのは信じられない光景だった。同じテントの中で作業をしていた同僚の兵士たちの姿がない。そしてその代わりに、白い布一枚だけ身に着けた美女たちが数え切れぬほど横たわっているのだ。
「!?」
通信兵は言葉を失いヘッドホンをはずす。それまで慌しく聞こえていたであろう兵士たちの怒声やざわめきが一切聞こえない。耳に入ってくるのは乙女たちの柔らかな寝息だけ。鉄と油の入り混じった戦場の臭いは消え去り、鼻腔をくすぐる様な野花の香りがテントを満たしている。
「おんにゃの子の香りって、最高だよね」
「ひぃぃぃぃぃ!!」
突如誰かに耳元で囁かれ、若い通信兵は腰を抜かしてしまう。
そして慌てて辺りを見渡すが寝息を立てる乙女たちが視界に写るのみだ。
「なんなんだっ、なんなんだよっ!!」
若い通信兵は泣きべそをかきながらテントの外へ飛び出だす。
そして絶句した。
全てが変わっていたのだ。
敵を迎え撃つために並べられていた無骨な戦車の列は、直径3mにも及ぶウサギさんのぬいぐるみの列に変わっており、また簡易ハンガーに収められていた鋼鉄の天使の一団が、超リラックスできそうな熊さん人形に置き換わっていたのだ。
そして、テントの中と同じく寝息を立てて地に横たわるほぼ裸の美女たち。
通信兵は天を仰ぎ、両膝を地に着いた。
「そう絶望することはない、すぐに貴様も『おんにゃのこ♪』になる」
「へっ」
気の抜けたバカのような返事をする通信兵。声のほうを振り返ると突如手が伸びてきて通信兵の頭を鷲づかみにする。
「ひやあぁぁぁ、助けてっ! たすけてええええぇぇ!!」
『女体化の秘儀!!』
刹那眩い光が通信兵を包み込む。
そして2秒と立たないうちに光の中から現れた通信兵はスタイルの良いボブカットの美少女に代わっていた。美少女は意識を失ってぐったりしているが命に別状は無いようだ。
「可愛い女の子完了!!」
そう叫んだのは諸悪の根源。
すなわちパンプキンヘッドその変態だ。彼は満足そうに微笑むと少女を地面に寝かせる。
「さて、次の獲物(意味深)はどこかな?」
不敵に笑ったパンプキンヘッドは新たなる獲物を求めて戦場を駆ける。
◇ ◇ ◇
「B防衛ライン陥落、繰り返します。B防衛ライン陥落!」
「来たっ!! パンプキンヘッドだっ、敵正面! 攻撃開始!!」
敵陣地に正面から突撃するパンプキンヘッド、無数の弾丸と砲弾が嵐の如く降り注ぐ。轟音に爆音、無限とも思える鋼の暴力がパンプキンヘッドを包む。
しかしパンプキンヘッドは瞬間移動で弾丸の雨を脱すると、ミサイルの如く敵陣地の中心に突っ込む。灰色の爆煙と暴風のような衝撃波。兵士たちは眼を背け口の中に飛び込んでくる砂利の味を噛み締めた。砂の霧が晴れる、そこには戦車の上で堂々と両腕組むオレンジ色の人影があった。
屈強な兵士たちの顔に影が差す。
誰に命令されるわけでも無く兵士たちは一斉に銃を向けた。
「進入されたぞー!!」
「囲め囲め!!」
怯みながらも兵士たちはパンプキンヘッドを囲む。
その数ざっと数百人。単純な計算では変態に勝ち目など無い。しかし彼はそんな計算が通じぬ雲の上の存在。かつては神の右腕と称され神とも互角に戦った地上最強の魔人パンプキンヘッド。
「おいおい、まだ俺様に刃向かう奴がこんなにいるのかよ。俺の『2つ名』、知ってるか?」
パンプキンヘッドは周りを囲む兵士たちを嘲笑う。魔人の光臨で恐怖のどん底に突き落とされたであろう兵士達。
怯えろ。
竦め。
恐怖で何も出来ぬまま女体化してゆくがいい。
そんな事を考えて不気味に笑うパンプキンヘッド。
しかし兵士達のリアクションはパンプキンヘッドが考えていたものと違った。
「おい、『変態』が何か言ってるぞ」
「くそっ『変態』め。よくも同僚を美女に変えてくれたな」
「気を付けろ、相手は地上最強の『変態』だぞ」
「…………」
パンプキンヘッドが神の右腕だったという事は天界世界の高校の授業で習うことだ。
しかし、10万着以上の女性用下着を窃盗したあげく、天界、冥界、7世界すべての公共の場において露出や変態行為を行ったという伝説が、彼の『神の右腕』という2つ名を空気に変えて『変態』という新しい2つ名が6世界共通で広がっている事を、800年近い独房暮らしの彼は知らない。
「舐めやがって……変態の底力見せ付けてやる!!」
心の底から開き直ったパンプキンヘッドは両腕に力を集中させる。
「ロング黒髪ボイン撫子!!」
パンプキンヘッドが右手を大きく振り払うと、衝撃で30人近い兵士が中に吹き飛ぶ。そして兵士達の体が女体化を始めて、美しく長い黒髪で胸の大きな女性へと変化してゆく。
「パツキン、色黒、まな板ギャル!!」
今度は左手を力を入れて振り払う。衝撃波で飛ばされた40人近い兵士が、金髪で浅黒い肌をした、控えめの胸のセクシーな女性へと変身する。
「時にロリっ!!」
パンプキンヘッドは両腕に全力を溜めて前方に放出する。
すさまじい衝撃波で50人近い兵士が吹き飛ばされて、スクール水着を着用したかわいらしい少女へと変えられてしまう。女体化した兵士達は眠らされており、美女たちの気持ちのよさそうな寝息だけが戦場に響く。
「正面の敵は俺が一掃する、お前たちは空と側面をまかせる」
敵兵を一掃して『俺すごいだろ?』とドヤ顔を向けるパンプキンヘッド。その視線の先には額に手を当てて複雑そうにうな垂れるベンザ卿と、心の底からドン引きしているマラサイの姿があった。
「立派に仕事してるのに……何故2人そろって俺を生ゴミを見るように見る!!」
パンプキンヘッドが唾を撒き散らしながら怒鳴ると、酷薄な表情をしたマラサイがゆっくりと口を開く。
「今すぐ生ゴミにあやまってください」
「生ゴミに頭下げるとか俺は生ゴミ以下の存在か? できるかそんなことっ!!」
「じゃあ舌噛んで死んでください」
「その『じゃあ』はどこからやってきた!? 第一に男を半裸の女神に変えて視姦しただけで死ねとか、いったい俺は何回死んだらいいんだよ!!」
「考え方の根本から間違っているぞパンプキンヘッド」
怒ってた声で怒鳴り返すパンプキンヘッドにベンザ卿の冷静な突っ込み。しかし変態の怒りはベンザ卿へ飛び火する。
「おいベンザ、お前が呼び出したんだぞ!! 擁護しろ擁護!! 俺は役にたってるだろ!!」
「お前はどう思う?」
「その重要な質問を質問で返すんじゃねーよバカ。言葉のドッヂボールかよ!!」
ベンザ卿は咳払いをしながら一度だけマラサイに視線を送る。その後を追ってパンプキンヘッドも不機嫌の極みといった表情を浮かべるマラサイに目を向ける。
「察しろ」とベンザ卿の一言。そして「察した」とパンプキンヘッドは背を向ける。一方マラサイは。
「彼方たちの無意味なコミュニケーショーン能力に少し腹が立ちます」
と、ベンザ卿に対しても冷たい視線を向ける。
「君が彼を嫌悪するのは十分に理解できる。しかし今は彼の力が必要だ」
「頭では理解しています。でも……でも……体があいつを殺したいって!!」
「お前は体に刻み込まれたDNAレベルで俺が嫌いなのか……」
涙ながらにそう訴えるマラサイとかぼちゃ頭なのに冷や汗まみれのパンプキンヘッド。
「我慢してくれマラサイ、この戦いが終われば奴を好きにしていい ただ今は制圧前進あるのみだ」
「オイ!!」
「悔しいですが……ベンザ卿……了解しました。」
その時だ。大気を切り裂くようなジェット音。
突如飛来した6機のアークエンジェルがガトリング砲と電磁砲による遠距離攻撃を加えてくる。マラサイは炎の盾で弾丸を防ぎ、ベンザ卿は慣れた動きで弾幕をかわすと相手に急接近。すれ違いざまに≪ 炎の指パッチン《フレイム・フィンガースナップ》≫を叩き込む。軽快なパッチンという音と共に、アークエンジェルのジェットスラスターが爆発して一瞬で6機のアークエンジェルを撃墜する。
「そう簡単に近づけさせてはくれないか」
「しかしパンプキンヘッドの猛攻により敵陣はガタガタです。我々と同時にカクリコンとジェリドを突撃させましょう。戦車の攻撃が止んでいたので本来の力を取り戻しています。今なら一気に敵陣を突破出来るはずです」
マラサイは指でマテンロウを指し示し、2体の炎巨人に突撃指示を下す。しかしその瞬間、パンプキンヘッドの口から紫色の光線が発せられて2体の炎巨人を蒸発させてしまう。
「パッ……『変態』何をするのです!!」
「正解していたのに言い直すな!!」
怒りをあらわにするマラサイにパンプキンヘッドの突っ込みは完全無視される。
パンプキンヘッドは咳払い一つした後、ふざけたような声色をこの世の物とは思えないほど残忍な物へと変えた。
「そんな危なっかしいものを突撃させて、俺が生み出した天使達(女の子)が傷ついたらどうするんだ?」
パンプキンヘッドの冷酷な視線を受けて、マラサイの背筋に悪寒が走る。
「何をいきなり……」
動揺を隠し切れないマラサイ。変態行為ばかりで忘れがちになるが、これでも神を殺した魔人なのだ。今はその力を全力で変態行為に注いでいるが、彼の秘めている本当の力など想像も付かない。
「俺の仕事は俺のやり方で行う。邪魔はしないでもらおうと言っているんだ。俺達の関係はあくまで対等、俺の指示に従えないのなら俺は降りる。せいぜい2人でこの大群を相手にすることだ」
パンプキンヘッドの気迫に押されて思わず黙ってしまうマラサイ。
「俺の楽しみはむさ苦しい男共を全員美少女に変えて、後から『グヘヘヘヘ』と追い回す事だ。1人も殺すんじゃねえ」
「非殺を貫く理由が変態ですね。本当に死んでください」
今までのシリアスな雰囲気はどこへやら、妄想でグヘグヘ笑うパンプキンヘッドにマラサイは地に這う蟲を見るような目線を向ける。
ベンザ卿はため息交じりに対立する2人の間に体を入れて、交互に視線を飛ばした。
「次の防衛線に進もう。摩天楼は決して遠くない」
パンプキンヘッドは静かに天を貫く巨塔を眺め、マラサイも何か言いたい事を飲み込んだ様子であった。そんな2人を横目で眺めらながらベンザ卿は自分がうまく緩衝材にならなければと心で呟く。
「美少女が俺を待っている。行くぞお前ら!!」
そんなベンザ卿の気持ちを知ってか知らずか。パンプキンへッドはいつもの不真面目な態度で飛び去ってしまう。マラサイは何度目かわからぬ大きなため息をついて、ベンザ卿は肩をすくめてパンプキンヘッドの後に続いた。