『変態』――パンプキン・ヘッド
1年近く放置した事をお詫びいたします。
まことに申し訳ありまでした。
1年近く放置したので、読者の方も内容を忘れてしまっておられると思います。最近矛盾していた部分や、不適切な表現を1話から修正いたしましたので多少は読み直しやすくなっていると思います。
これからは最悪月1のペースで何とか更新していきたいと思っております。
「ベンザ卿……貴方は、あなたはとんでもない怪物を呼び寄せてしまったようです……」
青い顔をしたマラサイがベンザ卿にしがみついた。普段から冷静であるマラサイの呼吸は乱れ、額には大粒の汗が浮かんでいる。
天まで続く光の柱。冷え切った神々しい空気がその場一帯を支配する。光の中にシルエットが徐々に浮かび上がる。
「なんだあれは……」
ベンザ卿は目を細めた。
その姿はどう見てもドラゴンやジャイアントのそれとは異なる。しかし人間かといえばそれも少し違う。頭だけ不釣り合いに大きく、見間違いではなければその頭部はカボチャに酷似して見えた。
「彼はさまざまな呪術に長け、かつては創世の神に仕え『神の右腕』と呼ばれた男……」
「神の右腕!?」
驚愕するくベンザ卿。マラサイは静かに語り始めた。
「彼は『神の右腕』と呼ばれた神側近。しかし7世界創世の時、世界の行く末について神と対立することになり、やがて彼は自らが神になるべく反乱を起こして神との決戦に臨みました。結果は彼の敗北――――反逆の罪で捕らえた彼は強力な呪術でその顔を焼かれて煉獄に突き落とされます。しかしまた神も、この戦いで寿命を削る強力な呪いを受けて、数十年後、その呪いが原因でお亡くなりにりました」
そう語ったマラサイの手に力がこめられる。
「『神への反逆者』その肉体と魂は永久に『煉獄』の炎の海をさまようかに思われました。しかし……神が亡くなってから100年後、彼は煉獄から自力で這い上がってきたのです。焼かれた顔を隠すため南瓜の面を被り、魔人と変わり果てて」
マラサイはそこで一度言葉を区切ると額の汗を拭った。先ほどから淡々と説明しているようでその声は震えている。
「この世に戻った彼は世界を飛び回り暴虐の限りを尽くしました。そして最後には一人の冥界人。私のひいおばあ様の手によって捕らえられて、最悪の大監獄『ウェルナヤバ』に投獄され今まで封印されていたのですが……ベンザ卿はどうやら彼を召還してしまったようですね。彼には数百の名前があり本当の名前はアースによって歴史から消し去れてしまいました。しかし煉獄から復活した彼は自らをこう呼びます、魔人《かぼちゃ頭》と」
輝かしい光の柱から、カボチャの被り物をした奇妙な男、『パンプキン・ヘッド』が肩で風を切りゆっくりと姿を現した。
好奇心に満ち溢れた赤子のように、外の風景をぐるりと見渡したパンプキンヘッドは、ベンザ卿とマラサイの姿を見止めると、親しい友人のように片手を上げて手を振った。
「チャ~~オ」
耳に残る特徴的で甲高い声が響く。
両手でピースサインを作りパンプキンヘッドは跳躍した。パンプキンヘッドは空中で3回転を決めると2人の前に降り立つ。左手を右手の肘に当て、右手で額を抑えるという決めポーズをとった。
「初めましての恥まして、朝から晩までパンプキン!! 夜ベットでパンパンプキン。呼ばれて飛び出てカボチャ~オ!! どうも、わが名は赤子もガチ泣き『パンプキン・ヘッド』だぞえ!!」
2人にドヤ顔を向けるパンプキンヘッド。
本人はかっこいいとでも思っているのだろうが、相当痛々しい姿だ。ベンザ卿とマラサイは無言で顔を見合わせる。
「ベンザ卿、クーリングオフです」
「よし、クーリングオフだな」
とっさにマラサイが叫び、ベンザ卿も勢いよくそれに答えた。
「俺は通販のダイエット器具か!? クーリングオフできるかアホがっ!!」
パンプキンヘッドは慌てて決めポーズを解き、勢いのまま突っ込みを入れる。
「ベンザ卿、早くこの汚れた存在を受け取り拒否してください。送り返すのです」
「てめぇ、どこかで会った……ってCカップ冥界小娘!! 呼び出しておきながらカエレ、カエレと俺に何の恨みがある」
眉間を釣り上げて怒るパンプキンヘッドに対してマラサイは両手を腰に当てて強気な態度をとる。
「そんなことは自分の胸に手を当てて考えればすぐわかるはずですこの『変態』!! あと今は寄せて上げるブラを使用してるのでDカップです、わたしは頭脳明晰スタイル抜群の巨乳です!!」
「虚乳の間違いだろ!! この野郎頭に来たぜ……。まさか神各の俺様を呼び出しておいて『カエレ』だの『変態』だの、そしてその高圧的な態度……俺を豚箱にぶち込んだあの女を思い出す!! まったく――――ありがとうございま――――痛めつけてやろうか!!」
マラサイはベンザ卿の袖付近を引っ張った。
「聞きましたか? 聞きましたか? いま『変態』の断片が見え隠れしたでしょう!!」
「あ~、マラサイ、私にはサッパリだ。先ほどはノリで言ってみたものの、なぜ彼を追い帰したがるのだね? 君の話ではとんでもない凄腕らしいじゃないか」
少し興奮気味のマラサイにベンザ卿は優しく声をかけた。するとマラサイは顔を赤くして俯いた。
「そ、それはですね……」
何事もハッキリした性格のマラサイだが、今回は歯切れが悪い。何か言いたそうに口を開くのだがすぐに口を閉じてゴニョゴニョと口ごもってしまう。少し間をおいた後マラサイは何かを決意したかのように口を開いた。
「な、なぜなら、彼は『変態』なんです!! それも普通の『変態』じゃありません。『大変態』なんです!!」
「大変態?」
ベンザ卿は首を傾げてパンプキンヘッドに視線を送った。するとパンプキンヘッドはつまらなそうに鼻をほじる。
「はっ、変態? 紳士とよんでもらえないかね。俺は100年煉獄で性欲を持て余して、この世に帰ってからただその性欲を爆発させ、性欲のままに生きただけだ。具体的にはおんにゃの子をペロペロしたり、クンカクンカしただけだだ」
「自供しましたよ!! 死刑に値する罪を自白しました!! ほら、ベンザ卿!!」
「す、すこし落ち着いてくれマラサイ。クンカクンカ? ペロペロ? 全く意味が分からん、一から説明してくれ」
マラサイは熟れた果実のように真っ赤になり叫ぶ。
「か、彼は……10万着以上の女性用下着を窃盗したあげく、天界、冥界、7世界すべての公共の場において露出や変態行為を行った――――地上最強の変態なんです!!!!」
絶句――――ベンザ卿はまさに絶句した。
「変態じゃないか……」
「先ほどからそう言ってるじゃないですか!!」
脂汗をにじませたベンザ卿はじりじりと後ずさる。マラサイはかなりパンプキンヘッドを嫌悪しているようでベンザ卿を盾にして身を隠していた。
「先ほども説明しましたが、彼は数多くの猥褻な悪事を働いてヴェルナヤバ大監獄に幽閉されていたのです」
「君は暴虐な行為といっていたが?」
「下着泥棒は万死に値する罪です」
いろいろ突っ込みたい事があったのだか、ベンザ卿はそれをこらえて質問を変える。
「神の右腕とよばれた変態なんだろう? どうやって捕まえたんだ?」
「詳しくは知りませんが、ひいおばあさまが命がけで彼を封印したと聞いています」
「おうおう、どこかで見たような気がすれば貴様、あの女の子孫かっ!! 今考えれば抜群のスタイルと目元が生き写しだぜ。突然話は変わるがそのマシュマロオッパイをもませろ」
「なっ!! 死ね、この変態かぼちゃ死ね!!」
ベンザ卿は眉間を抑えた。そんなベンザ卿をよそにパンプキンヘッドはマラサイと火花を散らせている。
「しかし今は戦力と時間がない、性犯罪者の手も借りたいとはこの事だ」
「いや、猫ですから!! そこ猫ですから」
マラサイの言葉を華麗にスルーしてベンザ卿はパンプキンヘッドに向けて険しい視線を投げかけた。
「私は後どれほど生きられるか分からない身でね。手早く契約をまとめようか。私の召喚に応じたということは、私と契約するということでいいのだね?」
「契約……ああ契約ね……」
パンプキンヘッドは両腕を組んで笑い始めた。嘲笑だ。しかしそんな様子のパンプキンヘッドに対してベンザ卿は一瞬たりとも鋭い表情を変えなかった。ただ刃物のような鋭利な視線でカボチャの頭を射抜いている。
「ベンザ卿。残念だが断らせてもらう」
ベンザ卿の眼光が一層鋭く光る。
「誰が監獄から出してやったか覚えてないようだな」
ベンザ卿は拳の骨を力強く鳴らした。
あふれ出る魔力と殺気が渦巻いてベンザ卿の周囲に陽炎のようなものを作り出す。それに対してパンプキンヘッドも組んでいた腕をフリーに戻した。臨戦態勢だ。同時にベンザ卿に負けず劣らずの莫大な不の気を放出する。
「俺は出してくれとは『一言』も言ってないな。俺は地上最強の魔人……俺は他人の命令は聞かない。俺は誰の下にもつかない」
「なら貴様がこの場所にいる理由はないな、性犯罪者にはおとなしく牢獄にお帰りいただこうか」
「まあそう焦るな、俺とお前がぶつかれば互いに怪我じゃすまない。俺は久しぶりの外の空気を楽しんでいるんだ。今回は平和的に話し合いで解決しよう。手前の下に就くのは無理だ。が、対等な協力関係として契約を結ぶなら今回だけ手伝ってやらんことも無い」
「ほう、対等な協力関係か……望みはなんだ?」
「ハッ、話が速くて助かる!! 対等な関係について一番大切なことは『ギブ&テイク』互いに得をすることが大事だ。ベンザ卿俺には欲しいものがある!!」
ギザギザに尖った鋭い口を吊り上げて、パンプキンヘッドは指を2本立てる。
「俺がほしいものは2つ。1つは力----お前の力がほしい。具体的に言うとお前の魂がほしい。魂は人間の芯をつかさどる力の源。一世界を滅ぼすほどの強大な力、その力を持つを持つお前、その強靭な魂……実に魅力的だ」
さぞ楽しそうに話すパンプキンヘッド、一方ベンザ卿はくだらないといった様子で小さく息をつく。
「私の力など欲してどうする? 貴様は神をも超える存在なのだろう」
「金と同じさ、いくらもっていて損をすることは無いだろう?」
「ふん、欲深いやつめ」
「ご忠告感謝しますよ。もう一つは――――下着。その女の脱ぎたて下着がほしい。具体的に言うとその女のパンティがほしい。美女の脱ぎたてパンティは変態の力をつかさどる根源。ムチプリのお尻に食い込んだ布切れ、被りたい、嗅ぎたい。きっと今までの戦いのせいで汗でグショグショだろう。そんな魅惑的なパンティ……実に魅力的だ」
心の底から楽しそうに話すパンプキンヘッド、一方ベンザ卿は本気でくだらないといった様子で大さくため息をつく。
「女の下着など欲してどうする? 貴様は神をも超える存在なのだろう」
「あの女の目の前で脱ぎたてパンティを愛でて、ツンツン小娘が羞恥に歪む顔が見たい」
「ふん、変態め」
ベンザ卿は強烈に頭が痛くなり額を押さえる。無論すべてカボチャのせいだ。
「さあ選べ、ベンザ!! 魂を差し出すか! そこの小娘のパンティを差し出すか!」
楽しそうに腕を組み、パンプキンヘッドはベンザ卿に詰め寄る。すると恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしたマラサイが割り込んでくる。
「ちょっと待ちなさい!! 何を勝手にっ――――」
「部・外・者は黙ってろ!!」
「私の下着が強奪されようとしているのに……ぶっ部外者扱いっ!」
ベンザ卿はマラサイに視線を向ける。もし冗談でもパンツと答えたならば、残りの片腕をへし折りそうなほど殺気だった目でベンザ卿を見返してくる。
ベンザ卿は俯いて嘆息すると決意の眼差しをパンプキンヘッドに向けた。
「元より無い命だ。俺の魂をくれてやる、だが今はだめだ。あの塔を――――」
「んなものいらねえ。さっさとパンツよこせ!!」
ベンザ卿には返す言葉が見当たらなかった。
『グサッ!!』突如パンプキンヘッドの背後で耳に残る鮮烈な音が響く。それはスイカを棒で叩き割った時のような爽快な音でもあった。
ベンザ卿が目を向けると腕を組んだままパンプキンヘッドがそのまま前に倒れこむ。驚いた事に後頭部にはバールのようなものが深々と突き刺さっている。そしてその側には荒く肩で息をするマラサイ。
殺人の現行犯を目撃してしまったような気まずさにベンザ卿は2人と関係無い所に視線を向ける。マラサイは見も毛もよだつ般若の面のような形相でパンプキンヘッドの頭を持ち上げる。彼のそして耳元に顔を近づけると。
『いいからさっさと協力しろ……』
と、聞いた人々を失神させそうな殺気をまとって呟くのだ。
元神の右腕こと地上最強の魔人パンプキンヘッドは、言いたかった言葉を全てを腹の奥に飲み込んで小さく頷いたのであった。
しっ、新キャラが……へっ、変態だ~!!
通報しないでね。
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