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『降臨』――中編

お気に入り登録してくださってる20数名の皆様、そして今読んでくださった皆様

本当にありがとうございます。


これからも完結にむけて頑張るぞ!!


グヌヌ……評価が100に届かん……。

 今日付けで配属された新人看守、ニコ三等少尉の視界を、『警告』の2文字が覆い尽くした。


 「なんだこれは!?」

 

 ニコの眉が歪み、拳が力強くテーブルを叩く。大監獄『ヴェルナヤバ』の地下監視室は、赤色灯の赤と異常事態を告げる警報音でカオスのちまたとなっていた。伍長、軍曹、共にパソコンに噛り付き原因の究明に努めていたが完全にお手上げという状況だ。


 「くそっ、攻撃クラッキングされてる」軍曹が悲痛な声を上げる。

 「魔術セキュリティ1から23番まで突破されました。そんな……部分的にセキュリティを解除している!! 少尉、敵の狙いはここです、この場所を狙っています!!」


 伍長の叫びと共に後方の扉が開き、30分前に仮眠室に向かったレット2等少尉が神妙な面持で駆け込んできた。

 

 「ちくしょう、どうなってんだ」

 

 寝癖の残ったボサボサの髪を背中をかきながらレットが言った。


 「頭のおかしなクラッカー(サイバーテロリスト)の仕業ですよ」と軍曹。

 「それにしてもこの侵攻速度は異常です、セキュリティが次々と突破されてます」


 常人の目では捉えられない速度でキーボードを操作する伍長は3台の端末を同時に操作しながら情報を処理してゆく、伍長はハッカーとしての腕を買われてこの部署に配属された人員だ。その腕は霊界いや、冥界やその同盟内にも数えるほどしかいない、それほどの天才なのだ。しかし相手はその伍長をもってしても止めることができない、伍長も全力を尽くしてはいるもののセキュリティは次々と謎の敵によって突破されていった。


 苦い表情を浮かべる伍長を目にしてレットの気持ちも焦る。うちの最高戦力が押されているのだ。敵はおそらく組織だろう、それに凄腕ぞろいだ、でなければこのような大規模攻撃を仕掛けることはでき無いはずだし伍長が押されるわけなど無いのだ。それに軍の最高機密であるこのエリアにピンポイントでアプローチを仕掛けているのだ。レットは頭を抱えた。ヴェルナヤバ大監獄が建造されて以来、襲撃事件など一度もない。それに政治犯や、マフィアのボス。悪質な新興宗教の教祖など、組織的犯行を匂わせるさような人物はこの場所には投獄されていない。敵の目的が分からないのだ。

 

(何が狙いだ、この階のやつら解放して何の得があるんだ?……魔獣を使った無差別テロでも行おうというのか……)

 

 「本部……それと準少佐に連絡は?」


 素早く思考を走らせながら、誰に問いかけるわけでも無くレットは不機嫌に問いかけた。それにニコが素早く応じる。 


 「準少佐は今向かわれています。本部にも連絡済みです」

 「よし」


 その言葉と同時に準少佐が数人の部下を連れて部屋に入ってきた。部下たちは素早く端末に移るとそれぞれの任務に就いた。野太い眉毛と浅黒い肌、デスクワークに移ってもう十年となるのに衰えを知らないマッチョなタフガイは、前線で戦った現役時代の覇気を纏って部屋の中の人間を視線で一蹴した。部屋にいた全員、準少佐に連れられてこの部屋に踏み込んだ人員もその気迫に息を呑む。ニコに限っては目の前にいる人物が本当に準少佐なのかと疑いをもったほどである。その姿は1時間前に対面した笑顔が素敵な上官とは全く異なるものだ。今の準少佐は殺気だった雄獅子のようであった。


 「状況は?」準少佐が静かに言った。


 「ダミーで時間稼ぎを行っていますが全く効果がありません」

 「今敵魔術解析が終了しました!! これは召喚術式です。しかもかなり古い、放出している魔粒子から推測してまだ神が存在していた時代のものだと推測されます」


 少佐の問いに部屋の誰かが応じる。準少佐の顔がさらに険しくなった。


 「召喚術式だと!?」準少佐は苛立った。「奴らを召喚する気なのか、どこのカルティストだっ!! 『グラットン』『パンプキン・ヘッド』共に世界を滅ぼす力を持っている、一国、いや一世界の軍隊が束になっても適わん!!」


 「準少佐」と若い三等少尉。「700年前とは兵器の性能が違います。たとえグラットンが解放されても力で押さえつけることができます。パンプキン・ヘッドだって……」


 「馬鹿野郎!!」準少佐が一喝する。


 「軍が今のサイズのグラットンを押さえつけたとでも思っているのか? 当時軍が捕獲したグラットンは全長2メートル半だ。だが今のサイズを見ろ、7メートル越えだ。奴は成長しているんだぞ。」


 その場にいた全員が驚愕の表情を浮かべた。当然だろう、軍の極秘最高機密である『グラットン』の情報が、たかが看守に知らされているはずはない。彼らが聞いた過去の話では具体的な大きさが語られてなかったのだ。自分達が赴任した時にはもうこのサイズ、餌を与えられているわけでもなく、成長中など誰が考えるであろうか。

 

 「パンプキン・ヘッドに関しては規格外だ。神を葬った奴だぞ!!」


 不機嫌に鼻を鳴らした準少佐は若い少尉を睨み付けた。人が殺せそうな剣幕である。若い少尉は青い顔をしながらゆっくりと後ろに下がっていった。


 「準少佐!!」女性士官が叫ぶ。

 「24から64までのセキュリティが突破されました……封印にたどり着くまで残りは36箇所です……」


 女性士官の声は恐怖のあまりうわずっていた。


 「畜生!!」


 準少佐は舌打ちするとレットに体を向ける。


 「レット、格納庫だ。ニコを連れて行け!!」 

 「りょ、了解!!」

 「格納庫に『デュッケインβ』がある、そいつを使って最悪の事態に備えるんだ!!」


 準少佐が悲鳴のような声を上げた。切実な叫びだった。上に立つ人間は時として非情な判断を下さなければならない。今がその時だった。

 

 「最悪の事態……」


 視界いっぱいに広がる『警告』の文字を凝視しながらニコが静かに呟いた。

 

 


   ◇   ◇   ◇



 幾度となく行った訓練で慣れ親しんだコックピット、しかし今日は何もかもが違った。恐怖で足がすくむ。いつもよりきつめに締めたシートベルトが体に食い込んで、肌がヒリヒリと痛んだ。恐怖と責任感とコックピットという閉鎖空間。この3つが相俟って体が押しつぶされそうだ。


 『デュッケイン』モデルβ


 これが命を預けている機体の名前だった。全高4メートルの『デュッケイン』は天界軍の使用する『エンジェル』を参考に冥界軍が開発した対人2脚兵器だ。神聖で神々しい騎士の形状をした『エンジェル』とは対照的に『デュッケイン』は刺刺しく、いかにも攻撃的な戦士の形状をしている。動力源は『エンジェル』が電力に対してこちらは魔力。


 性能も大きく異る。


 『デュッケイン』は新型にもかかわらず天界の『エンジェル』に比べて性能が劣っているのだ。そもそも天界に比べ冥界、その他世界は対人2脚兵器の技術、その他兵器の性能で大きく遅れていた。原因としては天界に比べ凶暴な原生生物が少なかったことがあげられるだろう。ドラゴンなど危険な原生生物が多い天界ではと身を守るため次々と兵器が開発され、そのノウハウを蓄積していったのだ。


 しかし冥界と傘下の世界は違った。凶暴な原生生物は少なく、国家間でも多少の小競り合いはあったが、10世紀近く戦争を行ったことのない軍隊はその力を大きく失っていったのだ。天界で『エンジェル』が正式採用され、圧倒的な性能を世に知らしめた際、こちら側は簡易な作業用重機を改良した2脚兵器を使用していたのだからお笑いぐさである。さらに焦った軍部が議会に新型の開発を進言した際には『現状戦力でも対処が可能』とした老議員の反対意見まで出たのだから驚きであろう。そして天界軍がさらに高性能化した『アークエンジェル』に主力機を移しつつある今、ようやく『エンジェル』に手が届きそうな機体が完成したのだ。しかしそれはあくまで冥界の話。傘下世界霊界に配備された『デュッケインβ』は『デュッケイン』の輸出使用だ。このモデルは、『兵器開発において自国の優位性を保持する』『輸出相手国が他の国と交戦時に鹵獲されたり自国から離反した場合に先端技術の流出防止』以上の2点を考慮して性能がオリジナルよりダウングレードされているのだ。


 まともな兵器製造技術など持たない霊界軍は、冥界の言われるがままこの『モンキーモデル』を輸入して主力機として配備しようとしている。 


 「エンジェルならまだマシだったろうに」


 ニコが心の中で思ったことを、レットがそのまま口に出した。通信設備は良好のようだ。レットの息遣いまでしっかりと聞き取ることができた。ニコは『デュッケイン』の頭部にはめ込まれた水晶体から外の様子を確認した。飾り気のない広幅の通路の先には2つの扉。


 通路は2機『デュッケイン』が横に並んでもまだ幅にはずいぶんと余裕がある。その先にには広々とした空間が存在し2つの鋼鉄の扉が並んでいた。扉の幅は5mほど、高さは10m弱ほどであろうか。飾り気は無く、いかにも何かを閉じ込めるために作られたその扉は、『アース』が施した最強の封印が施されているとされ、空中戦艦の主砲でも打ち抜くことができないという。

 

 「任務はわかっているな、ルーキー?」

 「勿論です2等少尉」


 2人の任務は霊界、いや全世界を救うことだった。準少佐のチームが術式の阻止に失敗し最後の封印が破られた場合、2人が直接牢獄に飛び込みその召喚を阻止しなければならないのだ。それはつまり……神格との戦いを意味していた。


 「それにしても、『デュッケイン』があって幸いでした」

 「幸い!? バカ言うんじゃねえよ、こいつがあったから操縦できる俺たちが最終戦争の兵士にえらばれちまったんだろう。むしろ不幸だぜ」


 レットは吐き捨てるように言った。

 

 「生身で戦うよりましでしょう?」

 「あのな、奴らからすればこんなバトルスーツなんてもんは、シャツと変わらん」


 その後2人から会話は無くなった。ニコあ感触を確かめるように何度も拳を操作して40mm魔道ライフルの感触を確かめた。装甲魔導車を簡単に打ち抜く40mm魔導ライフルだったが今はタダ棒切れのように思う。これで神各と戦おうというのだから正気の沙汰とは思えない。しかしニコとレット、彼ら2人がやらなければならなかった。


 「狙いはどっちらしょうか」ニコが聞いた。

 「さあな、テロリストの考えなんて理解できん。両方呼び出す気かも」

 

 つまらなそうに答えるレットだったが、戦いの準備は怠っていなかった。装備している魔導ライフルの感触をゆっくりと確かめる。


 「もし両方出てきたら俺が『グラットン』の相手をするからお前は『パンプキンヘッド』な」

 

 レットは皮肉めいた声で話し始めた。

 

 「正直どっちでもいいですよ、『トラ』か『ライオン』素手でどっちと戦いたい? と聞かれても答えようがないでしょう」

 

 ニコはため息交じりに答えた。静かに『その時』を待つより、こうして話している方がずっと気が楽だった。それにレットは気を使っていつもより陽気にふるまっている。その気遣いがニコの心に響いた。


 「それは違うなニコ、奴らを猛獣に例えるなら『グラットン』が『トラ』で『パンプキンヘッド』が『ドラゴン』だな。それぐらい人外レベルが違う」

 「でも結果は同じでしょう?」


 2人は顔を見合わせて笑った。 

 

 「レット、ニコ、聞こえるか」


 激しい息遣いと共に準少佐の苦しい声が届いた。


 「その様子じゃ、ヤバそうですね」レットが鼻を鳴らした。少し笑って聞こえた。


 『手を尽くしたが……止められそうにない。もうすぐ強力な召喚魔法が奴らのもとに到着する。扉には『神封印』が施されているが、もしそれが破壊され奴らが解放されるようなことがあれば……』


 準少佐は言葉を切った。その後少しの間荒い息遣いだけが続いた。


 「わかっていますよ準少佐殿」


 ニコはできるだけ明るく装って見せた。しかし生きては帰れないだろう作戦を、本当に自分は理解しているのか。そんな運命の分岐点にいる自分、しかしそのようなことをゆっくりと考えている自分、驚くほど冷静な自分に腹が立った。

  

 突如準少佐の後ろから女性オペレーターの悲鳴が聞こえた。同時に回線が切断され、同時に地下道が絶叫して震え始めた。廊下に並んでいた「神々」の石造が強烈な振動により砕け散る。『デュケイン』には音量自動調節機能が付いており、耳の機能に悪影響を与える音は自動的に調節されるのだが、ニコは頭の中で虫が暴れているような激しい不快感と痛みに唇をかんだ。あまりにも強く噛んだので口に血の味が広がった。


 「来るぞ!!」

 

 レットの声が雑音に交じってニコの耳に届いたが、ニコの意識は全て眼前の扉に集中していた。扉が恒星のように激しい光を放ち、ギシギシと怪奇な音を立てた。扉の取っ手は火炎で熱せられたかのようにオレンジ色に変わり白い湯気を立ち上らせる。


 ---------大気を引き裂く音と閃光が2人の待ち構える廊下を包み込んだ。


 逃げる間もないほど高速で飛来する激しい光の筋が見えたのでレットはニコの機体を押し倒してその場に伏せた。直後爆発が起こって2つの扉が吹き飛ぶのが見えた。同時に衝撃波が襲い掛かり猛威が廊下に存在するもの全てを打倒し破壊した、その後周囲の空気を一挙に吸い寄せる。

 

 不気味な静寂が訪れた。ニコは朦朧とする頭を振り、周囲の様子を見渡した。


 「レットさん!!」 

 

 ニコは廊下の壁に半壊で寄り掛かるレットの『デュッケイン』を見つけて慌てて駆け寄った。ニコの機体に損傷はなく、素早くレットに駆け寄ることができた。


 「レットさん!!」


 ニコは再び叫んだ。レットの機体は酷い有様だった。胸の装甲はひしゃげて、左肩のアーマーは消し飛び、頭部パーツは吹き飛んでレットの青白い顔がそのまま外気に晒されていた。ニコは『デュッケインβ』のアームを操作してレット機の胸装甲を引きはがした。前のめりになったレットの体を受け止めそのまま地面におろす。


 「大丈夫ですかレットさん、レットさん!!」

 「馬鹿野郎!!」


 今度はレットが叫んだ。しかしその声には覇気は無く、とても息苦しそうであった。しかいレットはニコの介護を振り払うような動作をして『デュッケイン』の兜のような頭部を睨んだ。


 「お前にはやることがあるだろ、行け!!」

 「しかし……」

 「2度は言わねえ、行け!!」


 ニコは次の言葉を無理やり飲み込む。ニコは自分の背負った使命の重みをここぞとばかりに感じ取っていた。世界そのものを背負っているのだ。今すぐこんなもの誰かに押し付けたかったし、責任と重圧で吐きそうだ。

 

 しかしこの若者はそれに耐えて見せた。ほんの数時間前に出会ったばかりの上官に敬礼を向けた『デュッケインβ』は転がっていた40㎜魔導ライフルを拾い上げると、神聖さと禍々しさが混沌と渦巻く廊下の先の部屋に向けて走り出した。


  

連投はこれで終了になります。


何故か生き返ったベンザ卿。そしてついに姿を見せる霊界最強の囚人……。

これからも『5分』は熱く、突き進んでいくぜ!!


モチベーションの向上、文章力向上のため感想をお待ちしています

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