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『大監獄』――ヴェルナヤバ

今からちょうど1時間前

ベンザ卿がマラサイと契約を交わすと同時刻。

霊界にある7大世界最大の大監獄『ウェルナヤバ』では、一人の新人看守が着任するところであった。

 

 灰色のコンクリ―で彩られた廊下を一人の若い士官が歩いている。髪と瞳は薄い銀色で、耳も少し尖っていて種族は人間ではないようだ。そんな士官の着ている黒の士官服は真新しく、靴にも汚れひとつない、おそらくまだ士官学校を卒業してあさいのだろう、彼の髪は刈り上げられており、新兵としての初々しさを漂わせている。廊下に響く靴の音はとても規則的で、相当真面目な新人らしい。


 廊下を100歩ほど歩いた扉の前で、新兵は足を止めた。ネクタイを締め直し、袖のボタンの位置を確認した。顔を二度ほど平手で引締め、扉をノックする。


 「おう、入れ」


 中から人柄のよさそうな野太い声が聞こえ、若い士官は部屋に入った。部屋の中は特に飾られた様子もなく一般的な将校の部屋だった。

 

 「本日付でヴェルナヤバ指令室に配属になりました。ニコ三等少尉であります!!」

 

 ニコと名乗ったその少尉は気をつけの姿勢の後、ピシリと敬礼を決めた。


 「そう固くなるな、非武装だぞ敬礼はいい」


 革張りの椅子に深々と腰かけていた準少佐は、少し笑みを浮かべてそう言った。声の通りで、がっしりした体つきに野太い眉毛が野性的だが、笑った顔は好感が持てるそんな人柄のよさそうな顔をしていた。ニコは「ハッ」とだけ言うと、一本の棒になった。準少佐はそんな不器用な彼を見て苦笑した。


 「聞いていると思うが、君には『エリア9』第9司令塔の配属になる。なおこの部署の配属につき君には第一級秘匿義務が生じる。そして……」


 コンコン――――。


 再び扉がノックされ準少佐がそれに応じた。


 「失礼します。レット二等少尉、命令により出頭いたしました」


 準少佐二等少尉に向かって頷くと、簡単に互いを紹介した。部屋に入ってきた2等少尉は何とも気の抜けた様子の男だった。銀の髪は寝癖がはねており、黒の士官服はへたっている。また靴にも泥がこびり付いていた。ニコは直感的に苦手なタイプだと判断をくだした。そして同じ部署に配属にならないことを願ったが、呼び出されている限りはその可能性はかなり低かった。


 「レット二等少尉にはニコの教育係を頼みたい、引き受けてくれるかね?」

 「ハァッ……」


 準少佐の声とは対照的に、ひ弱でやる気のない声が部屋に散らばって、ニコは思わずこけそうになった。この人の部下は勘弁してほしい。自分のペースが完全に狂う!! そう叫びたいニコだったが彼はひたすらに軍人だった。


 「ニコ、レットについていち早く現場になれるように努力してくれ、以上だ」

 「ハッ!!」


 軍人ニコは切れの良い返事を返した。



     ◇     ◇     ◇     



 「お前もついて無いな、ニコ」


 自分の配属先に向かう途中、レットは唐突にそう声をかけてきた。『まったくだ』そう心の中で返事をしたニコは、ワザとらしく「なんのことでしょう」とレットに顔を向けた。


 「あんたみたいなエリートが左遷の名所のヴェルナヤバに飛ばされて、配属先が第9だなんて、お前はなにやったんだ?」


 ニコは顔を伏せた。レットの言うとおりだ。名門出身かつ士官学校次席のニコがこのような霊界の辺境であるヴェルナヤバ大監獄に配属されるなど本来はあり得ないことだ。本来エリート街道一直線の彼は霊界軍司令本部バカハ基地や、冥界にある3世界合同対天界の最前線のコッペンハイマ―基地に配属されるのが当然のはずだった。しかしその願いは叶わなかった。彼は正義感が強すぎたのだ。ほんの小さな汚職も見逃せないほどに。


 「変なことを聞いて悪かったな。まあ気にスンナ、ここに飛ばされた連中は全員わけありだから詮索なんて野暮なことしないさ」


 うつむいて歩くニコにレットは詫びをいれた。素直に頭を下げたレットを見てニコの中で少しだけレットの評価が上がった。


 「すいません2等少尉質問があるんですけど」

 「レットさんでいいよ」

 「じゃあレットさん」

 「テメエ上官なめてんのか」


 理不尽すぎる返しにドン引きしながらもニコは質問を続けた。


 「ヴェルナヤバに第9指令室なんてあるんですか?てっきり第7までかと思っていました」


 レットは煙草に火をつけながらニコの質問に答えた。


 「8,9は一般に存在が公表されてない。なにしろ特別な囚人がいる場所だからな」

 「特別?」

 「準少佐の話は聞いてただろう?第8の勤務には準1級秘匿義務、俺たち第9には第1級秘匿義務が生じている。秘匿義務は知ってるな?」


 「もちろんです。秘匿義務を受けた兵士はたとえ上官の命令であってもその任務の内容を公表してはならない。準1級秘匿義務は中佐以上の権限がないと任務の公開は不可。第1級秘匿義務は中将以上の権限がないと目任務公開の必要がされてないとされています」


レットは軽く頷いた。


 「そうだ、たとえば俺たちに特殊部隊の大佐殿が、貴様らの独房にだれが投獄されているかという質問をすれば答える必要がないし、答えてはいけない。逆に相手が必要に問い詰めるなら相手を軍法会議にかけることもできる」


 ニコは眉をひそめる。


 (そこまでの重要人物が第9に……いったいどんな人物だ……)


 ニコは自分が過去に読んだ新聞などから、重要な犯罪をおこしたテロリストや精神異常者の名前を思い出していた。一般には存在が公開されていない闇の部分。それがニコの興味をくすぐった。


 「ついたぞ」


 煙草をふかせたレットが声をかけて、ニコは深い思考の世界から呼び戻された。目の前にあるのは扉だ。しかし部屋の扉ではない、エレベーターの扉だ。


 「これで地下90階まで降りる。先にトイレにいっとけ」



    ◇     ◇     ◇     ◇



 地下90階は下水道のような臭いがした。ニコは思わず片手で鼻を塞ぎ、もう片方の手で臭いを払おうとしたが完全に無駄な行動であった。


 「霊界人はすごい生き物だぜ。こんなにひどい臭いだが、一週間住んでみれば普通に飯が食えるようになる。慣れだよ、慣れ」


 ニコはコンクリの廊下に汚物でも放置してあるのかと周囲を見渡したがそれらしきものは見当たらない。それどころか廊下はピカピカに磨き上げられ、1階よりも小奇麗だった。


 「この臭いは90階が汚いせいじゃねえ、別に理由があるんだ。とりあえず指令室行くぞ、メンツと顔合わせだ」


 そう言って一人先に進むレットをニコは急いで追いかけた。


 指令室はエレベーターからさほど遠くなかった。網膜認証装置つきの巨大な扉があり、ニコはそれに新しく登録を済ませた。目をかざし銀行の地下金庫のような扉がゆっくりと開いた。ニコは若干の違和感を覚えつつ中に入った。指令室にいたのは2名の下士官と1名の士官だった。伍長と軍曹、そしてニコと同じ3等少尉だがこちらの方が少し年上だった。


 「新人少尉殿のご到着ですか」

 

 茶化すような言葉使いで軍曹が鼻を鳴らす。本来なら上官に対してこの態度は許されるものではない、しかしニコはこの場でことを荒立てるようなことはしない。今は左遷で済んでいるのだ。これ厄介ごとはごめんなのだ。


 「軍曹!! なんだその態度は」


 隣の伍長が軍曹を叱咤すると「これは失礼」悪びれる様子もなく敬礼をした。

 その後レットがニコを簡単に紹介して、軍曹、伍長、3等少尉の順で簡単な自己紹介が行われた。


 「さてと、初めに少尉にはここの仕事の内容を知ってもらわねば」

 「仕事とは笑わせます2等少尉、ブラックジャックとポーカーを四六時中するのを本当に仕事と表現してもよろしいのですか?」


 軍曹は冷笑しながら手札をきるしぐさを見せておどけたが、レットは手でそれを制して話を続ける。


 「我々の主な仕事は主人の監視だ」

 「糞退屈なパートですぜ」


 軍曹が再び口を開いたが今度は話に乗っかった。

 

 「ああそうだ……一日中コーヒーを飲みながら囚人を監視するのがお前の仕事になるニコ」

 「囚人の監視……」


 小さくそう繰り返したニコの肩に、優しくレットの手が添えられた。

 

 「本音を言おう。おそらくやりがいは感じないだろう。だが俺や奴らは一日を座って自由に過ごすだけで給料がもらえるいい仕事だと割り切ってる。ニコ、本部からやってきたお前にすればつらい仕事だと思うが……」

 

 そう言ってレットはニコから視線を逸らせた。あまり他人を励ますのが得意じゃない人間のようだとニコは思う。そしてこの人は他人の気持ちのわかるいい上官だ。ニコには初めてレットと会った時に感じた嫌悪感はすでに消え去っていた。


 「すいませんレット2等少尉、質問があります」


 そんな中ニコは配属と当初からの疑問をぶつけてみることにした。


 「ここには具体的にどのような人物が投獄されているのですか?私の家は軍人の家系です。父もおじも冥界軍の本部に努めておりますが、このウェルナヤバに第8エリアや第9エリアが存在するなど噂でも聞いたことがありませんでした。ここまでの情報統制をおこなうにはかなり重大な理由があるはずです」


 ニコの瞳が硬質で金属的な光を放った。それは鍛え抜かれた刃が人を肉塊に変える前に放つ、鈍い光をレットに連想させた。


 さすがは冥界軍士官学校次席だな――――。

 

 レットは頷くと伍長に視線を送った。伍長は素早く宙に浮かぶキーボードを操作して、三次元スクリーンに情報を映し出した。


 「ここに収監されている囚人は2人だ」

 「たったの2名!!2名を収監するためにこのような設備があるのですか!?」

 「名と言うのは誤りだがまあ2体か。今お前が想像している歴史に残るような凶悪犯を閉じ込めるのは第8の仕事だ。この第9はもっとヤバイものを扱ってる。伍長ファイルを」

 

 体……人ではないのか。それに凶悪犯以上の者……どういう事だ――――。


 ニコが思考したその時には電子音がなり立体映像のファイルが開かれる。ニコは考えるのを中断して、目の前のファイルに目線を向ける。

  

 「少尉殿、食人鬼『グールトン=グラットン』を御存じですか?」


 伍長が低い声が部屋に響いた。ファイルには『エリア9、囚人名簿』と表記されており同時に[以下の許可を与えられたもの以外の閲覧を禁ずる]と大きな赤字書いてある。ニコは視線をファイルに向けたまま、伍長の問いに答えた。  


 「ああ、昔叔母によく聞かされました。早く寝ないと『グラットン』がやって来るとよく脅されたものです」

 

 食人鬼『グールトン=グラットン』は「ジョンと鈍間なグラットン」というおとぎ話に登場する冥界では知らぬ者のない有名な怪物だ。昔話の内容はこうだ。


 突如平和な村に人食い鬼『グラットン』がやってきて村の人々を食べようとする。しかし村の若者ジョンサンが人間はゆでた方がうまいと嘘をつきグラットンに大釜で湯を焚かせて、しまいにはグラットンを茹った釜に突き落として退治するという内容だ。

 

 「しかし今何故そのような話を」


 伍長からの返事は無い。ここで初めて目を向けると、伍長は口を『へ』の字に曲げてファイルの開閲覧を促しているようだった。ニコが3次元の映像に触れた。手の部分から生体情報がスキャンされ、自動でファイルが開封される。中からさらに2枚のファイルが出現して、ニコはその一枚を開封した。

 

 ニコは息を呑んだ。

 

 囚人ナンバー第32号 『グールトン=グラットン』

 

 数秒間そのファイルを閲覧したニコの顔に、自然と笑みが浮かんだ。


 「何ですかこれは、新人を驚かせるためのドッキリか何かですか?あいにく私はこの程度の子供だましを……」

  

 そこでニコは口を閉じた。誰も笑っていない。初めは演技だと思った。しかし皆表情はバラバラなれどこう表現できる顔をしている、渋い顔。この表情を演技でできるなら、今頃は軍部などにはおらず、首都[ベルヘラ]の大劇場で拍手の喝さいを浴びていることだろう。


 「3等少尉の言いたいことは理解できますよ。わっしも始めは少尉殿と同じ顔になりましたから」

  

 椅子に深くもたれ掛っている軍曹は、首を傾けながら、ゆっくりとそう語った。初めてニコに会った時の、ふざけた雰囲気は嘘のように消え去っている。


 「私におとぎ話の怪物が実在すると信じろと言うのですか!?」

 「事実ですよ3等少尉殿」

 「馬鹿なっ!?」


 軍曹に噛みついたニコは、そのまま銀色の髪をクシャクシャと掻き乱した。そんな様子のニコを見かねたのか、同じ3等少尉が口をはさんだ。


 「実際に御自分の目で確かめられた方がよろしいのでは?」


 若い少尉の視線に伍長は素早く反応した。目にもとまらぬ速さでキーボードを叩き、指令室の巨大スクリーンに黒い映像を映しだした。映し出された映像は真っ暗だ。手前に薄らと鉄格子の線がぼやけて映り込み、かろうじて独房内を映し出している映像だとわかった。


 「明かりを」――――レットが伍長に命令を下し、くたびれた電球の薄明りが独房内を照らした。


 ドスッ……。


 ニコは腰を抜かした。若いながらも自分は軍人としての誇りとプライドがある。その両者がニコ悲鳴を封じたが。純粋な生物としての本能が、危機感が、ニコをその場にへたり込ませた。


 ニコは画面から必死に目線を逸らそうとした。しかし全身が凍ったように動かない。

 蛇に睨まれた蛙とはこのことだろう。薄明かりに照らされた怪物は、軍人ニコをここまで狼狽させるほどに「死」そのものを全身から臭わせていた。


 不死身の怪物『グールトン=グラットン』は蛙によく似た生き物だ。顔の半分を占める口と両生類特有の粘膜で覆われたドブ色の皮膚。蛙との違いを上げるなら、目が退化して無いことと足が6本、腕が4本あること。そして大きさが7m強あるということだろう。


 全ての手足を鎖で繋がれながらも、当てられた光に反応して、じゃらじゃらと鎖を鳴らす。足元にたまっていた、表現のしようが無いドロドロの何かをまき散らしながら『グールトン=グラットン』は体を捩り始めた。


 「600年前のことだ」


 レットはそう切り出した。


 「獣界には[ポォ]という小さな村があった。リー・ジョンサンという少年はその村の猟師、リー・ヘンシルの一人息子だった。ある日のことだ、山に狩りに出かけたジョンサンは小さな蛙を見つけた。珍しい形の蛙だったそうだ。若いジョンサンはその珍しい形の蛙に引かれて、山の朽ち捨てられた納屋でひっそりと蛙を飼うことにしたんだ。しかし蛙はその体に見合わぬほど餌を食った。半年もしないうちに蛙は2メートルを超えて大きくなり、もうすぐ納屋におさまらなくなってきた。怖くなったジョンサンは山奥に蛙を捨てるとこを決意した。」


 レットは伍長が入れたコーヒーを受け取ると、それを一口含んだ。

 指令室の全員が、呼吸することを忘れたかのような沈黙を保った。

 皆眉ひとつ動かさずにレットの話の続きを待っている。


 「ジョンサンは蛙が眠ったのを見計らい、蛙を荷車に乗せて山奥に走った。そして山奥に荷車を置き去りにしてジョンサンは家に帰ろうとしたんだ。しかし家に帰れなかった。蛙をすてるため山奥に入りすぎて道に迷ったんだ。結果ジョンサンは2日山の中を徘徊して、2日目の夕方に川を発見。ようやく自分の村への帰路を見つけたわけだ。急いで村に帰ったジョンサン、そして彼が村で目撃したのは自分の親父を半分飲み込んだ状態の例の蛙だったのさ」


 レットはまだ熱いであろうコーヒーを一気に飲み干した。その後湿った口を袖で拭うと、『グールトン=グラットン』ファイルをめくった。


 「その後ジョンサンは町の警察署に駆け込み、4人の警官が村に向かったが行方不明。その後警察の手に余る事件と言うことが明るみに出て、軍が3個中隊を村に派遣。村を隔離して包囲した。そこで村に向かった兵士が人の骨をしゃぶる巨大な蛙を発見したというわけだ。最終的に、村人113人は全員死亡。様子を見に行った警官とその後村に向かった警官と、その特殊部隊含め76名が殉職。その後捕獲作戦を決行した軍の歩兵66名が殉職。この事件の死亡者は土砂崩れによる災害で処理された。」


 レットは感情無く淡々とその数字を読み上げた。

 ニコはその数字を聞くたびに背筋に冷たい何かが走るのを感じた。


 「なぜ捕獲なんです?殺処分しなかったんですか?」


 ニコはファイルを凝視しながらも、少し震える声で聞いた。


 「理由は簡単。何しても死ななかったからだ。銃も剣も魔法も砲弾も毒ガスも火も電気も、何をしてもだ。軍は原始的に鎖で縛りつけるという作戦を強引に行った、結果新たに28名の兵士の命と引き換えにこいつの自由を奪った」

 「レット少尉……なぜこの事件は世間に公表されなかったのですか?」

 「それは『グールトン=グラットン』のやってきた場所に関係する。こいつの皮膚からはこの7世界のどこにも存在しない物質が次々と検出された。つまりこいつはもっと外の世界いや、次元から何らかの方法でやって来たことになる」

 「もっと外の世界!?それはどこなんですか?」


 興奮気味のニコは身を乗り出してレットに迫ったが、レットは首をただ横に振った。


 「知らん。政府もいまだにそれがどこかを理解してない。つまり政府としては、外世界からやってきた未知で不死身で肉食の生き物が、村を壊滅させたなんて口が裂けても言えないわけだ」

 「大混乱で済めばいい方ですか」


 伍長の付け足しに、「ああ」と、レットは首を縦に振った。


 「まあ、それでこのやばい生き物はここに送られて600年間地下でウネウネをし続けているわけだ。当時は情報操作で情報は漏れなかったはずだが、この話はなぜか都市伝説として形を変えて一部で語り継がれ600年たった今ではおとぎ話になった。おっと、言い忘れてたが廊下の強烈なにおいはこいつのネバネバが原因だから。まれにあいつが生きてるのをカメラじゃなくて目視で確認しなきゃならんのよ。その時扉を開けた時の臭いが残ってるんだ。ちなみに扉を開けたのは1月前な」 

 

 ニコは鼻を擦ると、納得した表情を浮かべた。あの汚物はモニター越しで見ただけでも鼻が曲がりそうだった。


 「そして2枚目のファイルだ」


 レットは残った最後のファイルを、スクリーン上に拡大する。


 「こいつはヤバイ。グラットンと比較にならんくらいにな」


 拡大されたファイルには[最重要機密]の文字が書きこまれ赤々と点滅している。


 「これはマズイ」と伍長

 「失禁にご注意を」と軍曹

 「少尉、今から見るファイルの中身はこれは嘘ではありません、事実なのです」


 最後に若い少尉がそう締めくくった。

 ニコはそれぞれの表情を確認すると、レットに向けて覚悟を決めた目線を向けた。


 レットは軽く頷くと、3Dキーボードにパスワードを入力する。


 「いいか、この[ウェルナヤバ大監獄]は本来こいつを永久幽閉するために作られた施設だ」


 軽快なキーボードの音と共に、画面に*マークが並んでゆく。


 「1000年前、世界を創世したアースに唯一刃を向けた男」


 12ケタの*マークが規則正しく並列して、ニッと白い歯を見せたレットは小指で[ENTER]キーを叩いた。


 「本来不死身であるはずの神に、老いという呪いをかけた男」


 キーが叩かれた音と共に、ファイルが開かれ大きく囚人の名前が表示される。

 同時にメインスクリーンが、その囚人の幽独房の監視カメラに切り替わった。


 ニコは画面の前で戦慄した。全身を冷たい汗が伝い、ガチガチと歯が音を立てた。

 痺れにも似た怖気が全身を這い回り、全身の身の毛が逆立つ。まるで心臓が止まったかのような感覚が一斉に襲い襲い掛かり、自分が生きているのか死んでいるのかの境も曖昧に感じる。

 

 恐怖――――いや違う、これは断じて恐怖などではない。『無だ』

 感情など表面的な言葉では表せない圧倒的な虚無。



 カメラに映っているのは人型の何か……いや、カボチャだった。


 薄暗い独房の中でそれは静かに息をしている。耳をすまさなければ死んでいると勘違いしそうだ。

 正座をさせられ、体は動かせないように数十本の槍が複雑に手足の間に織り込まれ、その体をしっかりと地面に固定している。


 それの顔は確認できない。部屋が暗い訳ではなく男は被り物をしているからだ。

 男の頭をすっぽりと包んでいるのはカボチャだった。そう野菜のカボチャだ。

 カボチャを刳り貫いたお面を頭から被っているのだ。カボチャにはギザギザしたサメの様な口と吊り上った目が刳り貫かれ、本来ならその奥に顔が見て取れよう、しかし男が被るカボチャの奥は漆黒で、その奥からは煌々と青い光が漏れている。お面表情は……言葉では表現できない、何故なら見る角度によって表情が全く違って見えるからだ。怒り、悲しみ、叫び、笑い。まるで見ている当人が思い浮かべた表情にお面が形を変えているのではと思ってしまう。

 

 そんな時だ。ニコの視界が揺らいだ。

 何者かに肩を掴まれ後ろに引っ張られたのだ。

 

 「あまり凝視するんじゃない、引き込まれるぞ」 

  

 レットの声が冷水の様に浴びせられニコは正気を取り戻した。モニター越しに彼の虚空の瞳を凝視していつの間にか精神を差し出すところだったのだ。額の汗を拭いながら、そのことに気が付いたニコは手足を震わせ肝を冷やす。

 

 いつの間にか震えは全身に広がっていた。 

 こいつの名前を知らぬものはこの世にいないだろう。

 脅え、そして乾ききった口をゆっくりと動かし、ニコはそいつの名前を口にした。

 

「パンプキン・ヘッド……」

 

 そう、奴の名前は『パンプキン・ヘッド』――――世界で最初の闇。7大世界最大の敵。


 そして……。

 

 アースを殺した男……。




時間軸を変更しました。

時系列の変更。一万年から1000年にもどしました何度もすいません。

3月18日

ごめんなさい。


お気に入り登録20名突破です。読んでくださった方本当に感謝しています。


さて本話に搭乗する「アースを殺した者」

一見ベンザ事件と関係ないように思えますが……実は……


これからも5分は絶好調です!!応援よろしくお願いします

あと評価もポチッと……



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