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人生最高の1時間5分11秒

 

 

 ベンザ卿の左腕が宙を舞い、鮮血の雨を降らしながら地面へと投げ出された。


 「ベンザ卿っ!! 」


 マラサイの悲鳴がベンザの耳に届くか届かないかの瞬間には、ベンザ卿は次の動きを始めていた。嘲笑に満ちたノアの顔面を右手で鷲掴みにすると大きく後ろに突き飛ばす。ノアは不意を突かれ、大きく体制を崩したが1秒もしないうちに立て直したが1秒では遅かった。ノアの懐に潜り込んだベンザ卿の掌底がノアの体をさらに後ろに吹き飛ばした。ノアは肺の空気をすべて奪われ炎の壁を突き抜けると、そのままクレーターの外周まで飛ばされ、壁に体をめり込ませた。


 ノアをブッ飛ばした後、急激に力を使ったベンザ卿はひどく荒い呼吸で咳き込んだ。そんな様子の彼に背中からマラサイが飛びついた。綺麗な顔を涙でグシャグシャにしながら必死にベンザ卿に語りかけてきたが、彼が聞き取れたのは初めの2.3言「ベンザ卿」「腕が」「ごめんなさい」だけで、他は何を言っているのか全く聞き取れなかった。彼女はベンザ卿の胸に顔を押し当てると子供のように泣いた。頬では涙が川となって、ベンザ卿のプレートアーマーに流れ込んでいた。ベンザ卿は残りの腕でマラサイの肩を抱くことしかできない。今の彼女には自分の慰めの言葉は、かえって彼女を傷つけることになると考えていた。


 身長差により彼女の頭をただ見つめて立ち尽くしたいたベンザ卿だが、突然の頭痛が彼を襲った。


 (私の体でもあるんだ……もっと大切にしてくれ)


 以前聞いたことのある声。さきほど気を失っていた時の声だ。ベンザ卿は無意識に頭を押さえていた。そんな彼をマラサイはさらに心配そうに覗いていた。


 「俺の勝ちだ」


 肩を寄せ合う2人に枯れた声がかけられた。声の主は無論ノアだった。マラサイは彼の姿をみて声を失った。「何故生きていられるのか?」そこまでノアの姿はボロボロだったからだ。体を覆っていた金属と人工筋肉の骨格は半分近く剥がれ落ちており、生身の肉体がむき出しになっている。さらにその肉体も切り傷と打ち身で真っ赤に染まっていた。


 「俺の勝利だ」


 ノアは亀裂が走った砂時計を天にかかげた。砂時計の砂はもうすぐ尽きようとしていた。


 「時間を稼ぐのが俺の任務。貴様の残りの寿命いっぱいの戦闘が任務。貴様をこの場に釘付けにして摩天楼に到達させないのが任務。任務。任務。任務……にーーんーーむーーだあああああっっっ!!……」


 耳を裂くような絶叫の後、ノアは大の字に後ろに倒れた。ただ目を大きく見開いて、静かに倒れた。まるで寿命を迎えた巨木が倒れるかのように静かだった。


「任務……完了」


 ノアはただ最後にそう言って目を閉じた。


 「私の負けだ」


 ベンザ卿は地面に倒れたノアにむけて静かにそう言った。彼を見つめるその眼は「憎き宿敵」や「仇」を見る目ではなく、ただ最高の戦士に向けられる称賛の眼差しだった。


 「死んだのですか……?」

 「俺は誓いを破らん男だ」

 「あなたは最高に甘い男ですね」


 ベンザ卿はいまだ無数の≪アークエンジェル≫が飛び交う大空を仰いだ。


 「レギア卿……貴方の好意も無駄になってしまった」


 ベンザは腰の剣柄を片手で撫でた。


 「陛下……私は生涯の忠誠を誓いながら、あなたの命と国を守れず、奴らを追い払うことすらできませんでした……」


 柄を放したその手が左胸に触れた。


 「私は1時間5分11秒もの時間を持ちながら、何も守れず、何も変えられなかったのか!!」


 ベンザ卿は残った拳をきつく握りしめた。最強の力を手にしても、何もできない自分に腹が立っていた。


「違います、あなたは国を一つを守ったではありませんか!? それにより多くの命が救われたはずです」

「私が行ったのは国の延命にすぎない……この戦が終われば、天界軍は再び国々を焼き尽くす!!」


 優しく声を掛けたマラサイに向けてベンザは怒鳴った。彼女の優しさが、自分のみじめさを際立たせているように思われたからだ。しかしベンザはすぐさま自分が怒鳴ったことを後悔した。


 「私はあなたに守られました……私の運命を変えました!! だから……だからお願いです。何も守れなかった、変えられなかったと御自分を責めないでください」


 マラサイは両手で優しくベンザ卿を包み込んだ。「まるで赤子のようだ」と兜の中で苦笑したベンザだったが、自分でも押さえられないものが体の奥から湧き出できて、目から涙がこぼれ落ちた。最後まで背負おうとしていた荷物が少し軽くなったような気がした。


 「マラサイ」

 「はい」


ベンザ卿の息遣いが兜の隙間から漏れ、マラサイはそれに優しく声を添えた。


 「ここまで付き合ってもらったのにこのような結果になってすまない」

 「謝るのは私です。あなたを救ったナイト気取りだったのです。その結果、卿の足を引っ張ることになりました」

 「何を言っているんだ? あのままだと私は雪祭りに飾られていたよ」


 2人の耳に大小さまざまな足音が聞こえてきた。クレーターの外周でベンザ卿を包囲していた地上部隊が、円を徐々に小さくしていた。マラサイが展開した炎の壁も、じきに突破されるだろう。すなわちこの足音は、戦争は終わりを意味していた。


 「あの……ベンザ卿?」

 「?」

 「その……あなたに、伝えて……おきたいことが、あるんです」

 「私もだよ」

 「その……えっ!!」


 「1時間をありがとう」


 ベンザ卿の重みのある、低い声だった。


 「そんなお礼なんて……」

 「私が言いたかったのはこれだけだ、君の話を聞かせてくれ」


 礼を言い終えたベンザはマラサイの瞳を覗いた。するとどうだろうか、マラサイは視線を外して徐々に頬を赤く染めた。


 「その……私……貴方のことがっ」


 マラサイの顔が熟れた林檎のようになった時だった。体にズシリと重いものが圧し掛かった。まるで鉄の塊を抱えているようだ。心当たりしかないマラサイは息を呑んで、ノアが落とした砂時計を恐るおそる見た。そこには砂が落ち切った砂時計が虚しく鎮座していた。






これで第一章は終了です。(章は最近追加しました)

ベンザさんがいなくなった世界でマラサイはどう動くのか!!

天界軍は人間界を征服してしまうのか!?

それとも……


みなさん、おはこんばんわ!!やもりです。

皆さんの応援のおかげで「1時間5分11秒」も折り返しまで到着できました。

お気に入り登録してくださった10名弱の皆様

この小説をこの話まで読んでくださった読者さま

本当にありがとうございます!!ようやくPVが1万人を突破いたしました。

感謝感謝です!!


これからの展開ですが、新キャラの登場です。

この小説はキャラが少ない方だと思うので、キャラの名前が覚えやすかったと思います。追加で皆様を混乱させないように頑張りたいと思います。


感想、指摘、おまちしています

作者のモチベーションが大幅にアップします。

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