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現代恋愛

この音を、君と

作者: 綿ダッコ
掲載日:2026/09/06

 ——郭地祭(かぐちまつり)で花火と一緒に大太鼓を叩こう!!


 大太鼓か…………。


 ここらへんでは滅多にない機会やし、応募しようかな。


「荊綾(けいりょう)にピッタリやん」


 確かに、習ってたし、今でもちょくちょく叩いてるから、めちゃくちゃしたいけど…………。


「啓照(けいしょう)やん。…………でも、今年も3人で行きたいしな〜」


 今年も啓照と天羽(てんは)と行きたいけど、大太鼓を叩いたら、回れる時間取れなさそうやしな…………。


「今年から0時までやってるらしいで?」


「マジで!?」


「うん、花火上がる時間変わってないし、最後の枠やったとしても、1時間ぐらいは楽しめるんちゃう?」


 なら、全然ありやな。


 来年は大学受験やし、こうやって出来るのも最後かもしれんしな


「あ、荊綾と啓照じゃん」


「「天羽!!」」


 相変わらず、遅くまで残ってるよな。


 …………まぁ、偏差値高いところに行くらしいし、おかしなことではないか。


「なに見てるの?」


「郭地祭で大太鼓叩けるかもしれんねんて」


「荊綾、大太鼓習ってたんやから、ピッタリじゃん」


「そうなんやけど、一緒に行けんようになるしさ…………」


「今年、塾で行けなさそうだから、大太鼓やったら?」


「あっ、今年は俺も家族と行くことになったんや…………。荊綾の得意を活かせるチャンスやん」


 …………行けなさそうなんか。


 寂しい気もするけど、せっかくなら応募するか。


「なら、応募しよ」


「お母さんに動画撮ってもらっとくね!!」


 現地で天羽に見せたかったけどな…………。


◇ ◇ ◇ ◇


「荊綾、練習は順調か?」


「トリやから大変やわ」


 まさか、トリになるとはな。


 本当に最後の枠しか空いてないなんてあるんやな…………。


 でも、トリを任されるのは普通に嬉しい。


 順調にいけば、本番までには仕上がってるやろ。


「荊綾、荊綾!!」


「天羽、そんな急いでどうしたん?」


 天羽がこんな時間に帰るの珍しいな。


 いつもなら、自習室に行ってるはずやのに。


「私、郭地祭に行けることになった!!」


「「マジで!?」」


「塾の予定が1日早くなったの!!」


「じゃあ、見れるんちゃうん?」 


「そうだよ。荊綾の大太鼓、楽しみだな〜」


「トリやし、めちゃくちゃいいやん」


「荊綾、トリなの!?」


「まぁ……」


 …………ヤバい、急に緊張してきた。


「良かった〜。撮った動画は啓照にも送っとくね」


「俺の分まで見といてやれよ」


「そんな大げさじゃないんだから」


 …………この笑顔を糧にしやんとな。


「じゃあ、楽しみにしとくわ」


「ばいばーい!!」「また明日、啓照」


「そうだ。大太鼓の演奏が終わったらさ、郭地神社の近くの高台に行こうよ」


「……いつも行くところ?」


「そうそう、あそこなら特大花火がよく見えるじゃん」


「…………せやな」


「約束ね」


◇ ◇ ◇ ◇


「はい、そこまで。順調やな、荊綾」


「ありがとうございます!!」


 やっぱり師匠には、なんやかんやでお世話になってるな。


「そういえば、師匠も出るんでしたっけ?」


「ああ、荊綾が出る高校生部門の後に成人部門があってな。そこのトリなんや」


「師匠もトリなんですか!?」


「そうやぞ。最後の特大花火に合わせやなあかんから、毎日荊綾と同じくらい練習しとるわ」


 そんな大変やのに…………。


「すみません…………。俺のために時間使ってもらって」


「気にするな。昔から言ってるやろう?笑顔が大事やと」


 …………そうやったな。


 師匠はいつでも笑顔やった。


 今もだ。


「そうでしたね」


「そうだ、いい笑顔や」


「…………ありがとうございます」


 改めて言われると、恥ずいな…………。


「そういえば、昔よく来てた…………、てん…………」


「天羽のことですか?」


「そうそう。天羽は見に来るのか?」


「…………はい」


 …………まだ、練習時間はあるよな?


「なんだ、顔を真っ赤にして」


「え?」


 赤なってた!?


「まぁ、詳しくは聞かんが、初志貫徹は大事やぞ」


 …………初志貫徹。


 大太鼓を始めた理由、か。


◇ ◇ ◇ ◇


 やっぱり、本番はいつになっても緊張する。


 天羽は…………、低いところやから見えんけど、今は大太鼓に集中するか。


「ちょっと良い?」


「は、はい!!」


 主催者がどうしたんやろ?


「実は…………、取材が来てて、取材の時間が追加されるんだけど、予定は大丈夫?」


「特大花火は…………」


「多分、予定通りじゃないかな」


「…………そうですか」


 あそこまでは意外と時間かかるし、間に合うんかな…………。


 …………あかん、余計なことを考えたらミスる。


「荊綾〜!!」


「天羽……!!」


「久しぶりに見た。荊綾の衣装」


「……天羽の浴衣こそ一昨年ぶりやん」


「そうだったね〜」


 …………間に合ってくれ。


「頑張ってね!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「(笑顔、笑顔)」


 …………今は演奏に集中する時。


 間に合うかどうかじゃない。


 余計なことを考えたら、リズムが狂う。


 撮られてるんやから、情けないところは見せられない。


 師匠にも悪いし。


 …………一番難しいところ。


 初志貫徹。


 あそこに行くのに…………いや、バチを振るのに間に合う。


 そうだ、バチを振るのに間に合う。


◇ ◇ ◇ ◇


「お疲れ様。浮かない顔してるけど、大丈夫?」


「…………大丈夫です」


 それどころじゃない。


「特大花火に間に合わせたいのは分かるけど、体調が心配だからさ」


「…………体調は大丈夫です」


「…………もしかして、誰かと待ち合わせしてる?」


「まぁ…………」


「どこに行くの?」


 …………早くして。


「もう一つの神社です」


「…………分かった。どこまで出来るか分からないけど、走りやすいように警備員に言っておくよ」


「本当ですか!?」


「ああ、行っておいで」


「ありがとうございます!!」


 …………ここまでしてくれたんだ。


 絶対に間に合わせる…………!!


「荊綾!!」


「天羽、行こう!!」


「えっ、ちょ…………」


 …………確かに走りやすい。


 脇ではあるけど、その分、注目もされずに走れる。


 …………ありがとうございます。


「荊綾、間に合うの?」


「間に合わせる。それが約束やろ?」


「…………うん」


◇ ◇ ◇ ◇


「「はぁ、はぁ…………」」


「意外と間に合ったね」


 まだ、特大花火は上がってない。


 良かった…………。


 薄っすらと、師匠の大太鼓の音が聞こえてくる。


 見なくても分かる。


「…………せっかくだしさ、さっきの荊綾の演奏を聴きながら見ようよ。昔っからの私の夢」


「…………俺も」


 俺は天羽が聞いてくれる演奏をしたい。


 それが始めた理由でもあり、今でも続ける理由。


 …………今日、出来たってことだよな。


「それってどういう——」


——ドカーン


「うわ~、綺麗だね!!」


「…………せやな」


「…………結局、聴けなかったね」


「ちょっと遅かったか」


 でも、そんな演奏できただけ、まだいいか。


「もう、演奏中の笑顔はどこに行ったの?」


「え?」


「私は、荊綾の演奏中の笑顔が一番好き」

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