この音を、君と
——郭地祭で花火と一緒に大太鼓を叩こう!!
大太鼓か…………。
ここらへんでは滅多にない機会やし、応募しようかな。
「荊綾にピッタリやん」
確かに、習ってたし、今でもちょくちょく叩いてるから、めちゃくちゃしたいけど…………。
「啓照やん。…………でも、今年も3人で行きたいしな〜」
今年も啓照と天羽と行きたいけど、大太鼓を叩いたら、回れる時間取れなさそうやしな…………。
「今年から0時までやってるらしいで?」
「マジで!?」
「うん、花火上がる時間変わってないし、最後の枠やったとしても、1時間ぐらいは楽しめるんちゃう?」
なら、全然ありやな。
来年は大学受験やし、こうやって出来るのも最後かもしれんしな
「あ、荊綾と啓照じゃん」
「「天羽!!」」
相変わらず、遅くまで残ってるよな。
…………まぁ、偏差値高いところに行くらしいし、おかしなことではないか。
「なに見てるの?」
「郭地祭で大太鼓叩けるかもしれんねんて」
「荊綾、大太鼓習ってたんやから、ピッタリじゃん」
「そうなんやけど、一緒に行けんようになるしさ…………」
「今年、塾で行けなさそうだから、大太鼓やったら?」
「あっ、今年は俺も家族と行くことになったんや…………。荊綾の得意を活かせるチャンスやん」
…………行けなさそうなんか。
寂しい気もするけど、せっかくなら応募するか。
「なら、応募しよ」
「お母さんに動画撮ってもらっとくね!!」
現地で天羽に見せたかったけどな…………。
◇ ◇ ◇ ◇
「荊綾、練習は順調か?」
「トリやから大変やわ」
まさか、トリになるとはな。
本当に最後の枠しか空いてないなんてあるんやな…………。
でも、トリを任されるのは普通に嬉しい。
順調にいけば、本番までには仕上がってるやろ。
「荊綾、荊綾!!」
「天羽、そんな急いでどうしたん?」
天羽がこんな時間に帰るの珍しいな。
いつもなら、自習室に行ってるはずやのに。
「私、郭地祭に行けることになった!!」
「「マジで!?」」
「塾の予定が1日早くなったの!!」
「じゃあ、見れるんちゃうん?」
「そうだよ。荊綾の大太鼓、楽しみだな〜」
「トリやし、めちゃくちゃいいやん」
「荊綾、トリなの!?」
「まぁ……」
…………ヤバい、急に緊張してきた。
「良かった〜。撮った動画は啓照にも送っとくね」
「俺の分まで見といてやれよ」
「そんな大げさじゃないんだから」
…………この笑顔を糧にしやんとな。
「じゃあ、楽しみにしとくわ」
「ばいばーい!!」「また明日、啓照」
「そうだ。大太鼓の演奏が終わったらさ、郭地神社の近くの高台に行こうよ」
「……いつも行くところ?」
「そうそう、あそこなら特大花火がよく見えるじゃん」
「…………せやな」
「約束ね」
◇ ◇ ◇ ◇
「はい、そこまで。順調やな、荊綾」
「ありがとうございます!!」
やっぱり師匠には、なんやかんやでお世話になってるな。
「そういえば、師匠も出るんでしたっけ?」
「ああ、荊綾が出る高校生部門の後に成人部門があってな。そこのトリなんや」
「師匠もトリなんですか!?」
「そうやぞ。最後の特大花火に合わせやなあかんから、毎日荊綾と同じくらい練習しとるわ」
そんな大変やのに…………。
「すみません…………。俺のために時間使ってもらって」
「気にするな。昔から言ってるやろう?笑顔が大事やと」
…………そうやったな。
師匠はいつでも笑顔やった。
今もだ。
「そうでしたね」
「そうだ、いい笑顔や」
「…………ありがとうございます」
改めて言われると、恥ずいな…………。
「そういえば、昔よく来てた…………、てん…………」
「天羽のことですか?」
「そうそう。天羽は見に来るのか?」
「…………はい」
…………まだ、練習時間はあるよな?
「なんだ、顔を真っ赤にして」
「え?」
赤なってた!?
「まぁ、詳しくは聞かんが、初志貫徹は大事やぞ」
…………初志貫徹。
大太鼓を始めた理由、か。
◇ ◇ ◇ ◇
やっぱり、本番はいつになっても緊張する。
天羽は…………、低いところやから見えんけど、今は大太鼓に集中するか。
「ちょっと良い?」
「は、はい!!」
主催者がどうしたんやろ?
「実は…………、取材が来てて、取材の時間が追加されるんだけど、予定は大丈夫?」
「特大花火は…………」
「多分、予定通りじゃないかな」
「…………そうですか」
あそこまでは意外と時間かかるし、間に合うんかな…………。
…………あかん、余計なことを考えたらミスる。
「荊綾〜!!」
「天羽……!!」
「久しぶりに見た。荊綾の衣装」
「……天羽の浴衣こそ一昨年ぶりやん」
「そうだったね〜」
…………間に合ってくれ。
「頑張ってね!!」
◇ ◇ ◇ ◇
「(笑顔、笑顔)」
…………今は演奏に集中する時。
間に合うかどうかじゃない。
余計なことを考えたら、リズムが狂う。
撮られてるんやから、情けないところは見せられない。
師匠にも悪いし。
…………一番難しいところ。
初志貫徹。
あそこに行くのに…………いや、バチを振るのに間に合う。
そうだ、バチを振るのに間に合う。
◇ ◇ ◇ ◇
「お疲れ様。浮かない顔してるけど、大丈夫?」
「…………大丈夫です」
それどころじゃない。
「特大花火に間に合わせたいのは分かるけど、体調が心配だからさ」
「…………体調は大丈夫です」
「…………もしかして、誰かと待ち合わせしてる?」
「まぁ…………」
「どこに行くの?」
…………早くして。
「もう一つの神社です」
「…………分かった。どこまで出来るか分からないけど、走りやすいように警備員に言っておくよ」
「本当ですか!?」
「ああ、行っておいで」
「ありがとうございます!!」
…………ここまでしてくれたんだ。
絶対に間に合わせる…………!!
「荊綾!!」
「天羽、行こう!!」
「えっ、ちょ…………」
…………確かに走りやすい。
脇ではあるけど、その分、注目もされずに走れる。
…………ありがとうございます。
「荊綾、間に合うの?」
「間に合わせる。それが約束やろ?」
「…………うん」
◇ ◇ ◇ ◇
「「はぁ、はぁ…………」」
「意外と間に合ったね」
まだ、特大花火は上がってない。
良かった…………。
薄っすらと、師匠の大太鼓の音が聞こえてくる。
見なくても分かる。
「…………せっかくだしさ、さっきの荊綾の演奏を聴きながら見ようよ。昔っからの私の夢」
「…………俺も」
俺は天羽が聞いてくれる演奏をしたい。
それが始めた理由でもあり、今でも続ける理由。
…………今日、出来たってことだよな。
「それってどういう——」
——ドカーン
「うわ~、綺麗だね!!」
「…………せやな」
「…………結局、聴けなかったね」
「ちょっと遅かったか」
でも、そんな演奏できただけ、まだいいか。
「もう、演奏中の笑顔はどこに行ったの?」
「え?」
「私は、荊綾の演奏中の笑顔が一番好き」




