スィサイド・ゲノム
現代ファンタジィ予定物。
至上命題と同じ時期に構想していた。
保健所で殺されてしまう犬を見た人々と同じように、
今から死に逝く貴方達に一瞬の哀れみと同情と好奇心を!
(どうかお気を悪くなさらないで、)
(――――これが私達のお仕事なのです)
――――雑踏にあたし一人、簡単に紛れ込んで消えられる。
あたしは携帯電話を片手に薄汚れたモザイクに背中を預けている。約束の時間まであと十五分。周囲にはそれらしい格好をした人は未だ見えない。休日の駅構内は忙しそうに辺りを行き交う人々ばかりで、こんな場所に居続けるあたしが妙に浮いているように感じる。目の前を通り過ぎた腕を組んで歩くカップルに見られた気がして顔を伏せた。惨めな気がした。
(……どうしよう、)
落ち着かない気分で携帯を弄る。メールボックスを開けて閉じて新規のメールを開いて文字を打ちかけて消す。ここに着いてからたった十分でもう同じ動作を三十回は繰り返している。完全に無用の長物と貸している携帯を閉じてブレザーのポケットに放り込んだ。途端に手持ち無沙汰。
そわそわと身なりの確認。変な事をしていると思った。でも不安になった。大丈夫だろうか。待ち合わせの人には分かって貰えるだろうか、それとも気付かれないでいられるだろうか。この前、ネットで手に入れたグレーとピンクのチェックのスカートと、揃いのグレーのブレザー、右胸に着いた金糸の豪華な校章、ピンクのリボン。
馬鹿げた妄想を巡らせる。先ほどから斜め前にある交番に立つ警察官の視線が気になって仕方がないのだ。違う制服を着ていることを見抜かれて、尋問されないだろうか。それともこれから先に起こることを見透かされやしないだろうか。そんなはずもないのに、後ろ暗い気持ちに落ち着かない。ここを指定したのは自分だというのに、一体あたしはどうしてしまったのだろう。
『JRのC線T駅でどうでしょうか』
『南口側改札のモザイク前でいいですか』
『では、4時半にその前で』
『制服で行きます。グレーの制服です』
『T女の制服です。ブレザー』
『はい、ピンクとグレーのスカートです』
頭に字体の形すら焼き付いている文章を思い返して唇を噛む。この期に及んであたしは、卑怯だ。
交番の前を選んだのは、相手が変な奴だったときはすぐに逃げられるように。わざわざ違う制服を買ったのは学校がばれないようにするため。
この期に及んで、あたしは保身のことしか考えていない。
ふと、周囲が一層騒がしくなり顔を上げる。電車が到着したのか改札からどっと人が押し出されてきた。日曜日の午後だというのに、制服姿の人たちは沢山いて少しだけ安心する。壁に掛かっていた時計を見た。午後、四時十九分。待ち合わせまで、あと十一分。
「――――ネラさんですか?」
びくり、体が震えた。
「え、」
「初めまして、ですね」
顔を反射的に上げたあたしは、阿呆みたいに口をあける。
いつの間にか目の前に立っていたその人が、ふわりと笑って頭を下げる。
『目印はどうしましょうか』
『では白い日傘を持っていきます』
『それと紺色のワンピースで』
紺色のワンピースに白いカーディガン。
手にはたたんだ白い日傘。
右側で緩く結わえた綺麗なミルクブラウンの長い髪。
白い肌に、繊細そうな整った穏やかな面立ち。
鮮やかなピンク色の唇が緩やかにつりあがった。
「私、スィサイドゲノムの管理人、佐藤と申します」
カチリ、
時計の針が動く音が妙に鮮明に聞こえた。
真面目に書こうと思って潰れた単純に言えば「死生観」テーマ。
とてもぐちゃぐちゃした文章になっています、申し訳ない。
恥ずかしい内面をさらすのであれば、どこかで見た死の天秤という言葉に自分なりの解答をつけようと試行錯誤したもの。天秤の片方に置いた命ともう片方に置いた命は「如何なる命であっても」平衡するかと考えて書けなくなりました。
文章以前に思考と知識不足で挫折しました。精進します。