WORLD ENDS
鬼の街の花の別Ver。
男の子が主人公だったらきっとこんな話でした。
ヒーローになりたかった。
強くて、正しくて、大切な皆を守れる、なんて。
そんなヒーローに、なりたかったんだ。
( なぁんて、)
( 実は、まだ、あきらめてなかったりして )
( ね )
「――――ごめん」
覚悟していたような気がする言葉だった。
っていうか正直めっちゃ覚悟してたよ、何日悩んだと思ってんだ。
……覚悟、決めたと思ったんだけどなぁ……。
「……、あー」
目頭が熱い。ちょ、俺なっさけな!
(うわ、マジ勘弁して)
押し出した声が滲んでるのが分かって手の甲で目元を強く抑えて、二回呼吸を繰り返す。赤く染まった静かな教室に、俺のぶるぶる震えている気がする息の音だけが響いた。何も言わないでくれているのが、この期に及んでたまらなく好きだと思った。ちくしょー、嫌いたいのになー。
「……のさ、いっこ、聞いてもいー?」
「うん」
泣きそう、いやいやせめて彼女がいなくなってからだろ。頑張れ俺。
「――――告んの?」
一瞬、息を呑んだ気配がした。
「知っ、てたの?」
「あー、うん」
知ってました、っていうか気付いちゃいました。気付くさそら。いっちゃん近くで見てますからね。
彼女はしばらく黙った。ぐちゃぐちゃんなった頭で俺も自分が何口走ってんのかに気付いて慌てて手を外し(視線は色々と決壊しそうで合わせられなかった)、我ながら白々しいトーンで笑いながら手を振った。
「ていうか、ごめん。俺関係ないよなー。何聞いちゃっ――――」
「しないよ」
笑ってるような声だった。びっくりするほど可愛い声だった。
「しないよ、告んない」
「あ」
「ぜったい、しない」
「ぁー」
顔を見た。泣くかと思ったけど泣かなかった。
何で笑ってるのかは分からなかった。
何で告らないのかも分からなかった。
「えっと、俺気にするんだったら……」
ちょっと明日明後日とかだったらダメージでかいし立ち直れないけど、せめて一ヶ月くらい待ってくれればなんとか……なんて女々しいこと考えてる俺に彼女は凛々しく言い放った。
「少なくとも卒業までは絶対にしない」
「え」
目を瞬く。彼女はめちゃくちゃ可愛い顔してた。にぃーって。なんかちっちゃい子が顔中で笑うみたいにした彼女の笑い方が俺はめちゃくちゃ好きだった。
「ばっかじゃないの、こっちだって計算してんのよ。あんたと別れてすぐ告ったら、親友大好きのあいつだったら振られるに決まってんじゃん」
「でも卒業って、おま」
俺も彼女も今は高校一年目だ。今は七月。――――卒業まで二年ちょっとある。
冗談かもしれないけど、びびった。だって彼女は結構(俺にも悟れる程度には)感情表現があからさまで、なにより自分の気持ちに素直だ。だから今こうやってこういう話になっているわけであって。
「うっさい、とにかくあたしは卒業するまで告んないの」
強引に話を切り上げた彼女と目が合った。
正確にはもっと前から合ってたんだけど、俺のほうがふと彼女と視線が合ってしまっていることに気付いた、っていうことだけどそれだけで心臓がばくばくとなりだした。
「あんたの方こそもっとなんか、あんでしょ。……死ねとか最悪とか、にどとかおみせんなとか」
「ないよ」
脊髄反射みたいに声が飛び出す。彼女の目を見て胸の奥辺りがいたい。なんか、本当にこういうときに心臓が軋んでいる気がする。
俺は、言葉をもう一回、繰り返した。
「それこそ、絶対、ない」
「……ばっかじゃないの」
ちっちゃい声。聞き取りにくい声に、また軋む感覚。
瞬きしながらいつもみたいな声を意識しておどけて返す。
「ばかっていわないでくださーい」
「ほんと、ばか」
いつも威勢のいい打って響くような答えじゃなくて、弱弱しい声にこっちまでまた泣きそうになる。やめてくれ、俺のが泣きたい。
(せつねー)
上向いて深呼吸。っていうかこんなんしたら泣いてるってモロばれ。俺かっこわりー。
「……泣くなって」
「泣いてない!」
俺の鼻声に、返ってきた声も鼻声だった。
なんなん、俺ら二人して鼻声で、こんな暗い教室で。
笑いたいけど、笑えない。笑えるわけない。
「あたっ、あたしが泣くわけないでしょうが! なんであんたを振ったあたしが泣くのよそんな卑怯くさいことしないわよなめんなばか、ばかばかばか、ばかじゃないの!」
いつもヒステリー起こすときみたいなキンキン声で喚かれたけど、いつもみたいに笑い返せない。
だって、お前、それ明らかに嗚咽じゃん。
「だからさー、泣かないでくださいマジで」
今お前を抱きしめて慰めてやれるほど、俺っていい男じゃないんだ。
でも、泣かれると泣き止んで欲しくなる。
嗚咽が落ち着いた頃、薄暗くなってきた教室で俺は二三度瞬きした。
「もう暗くなったし、帰れって」
「……うん」
「前山さん達は?」
「……先帰った」
「俺、今日は一緒に帰れないからさー、気をつけて帰んなさいね」
「……っうん」
俺はぶるぶる震える息をもう一回、吐き出した。
「じゃ、」
小さく頷いた影を見て、何だか逃げるみたいに教室から飛び出していった背中を見送った俺はずるずるしゃがみ込んで大きく溜め息を吐いた。
(あーあーあー……もうさー、ねぇ)
窓枠の下、壁に頭を押し付けて俺はもう一回溜め息を吐く。呼吸がそれと分かるほど湿っている。小さくしゃがみ込んで、今誰かに見られたら相当間抜けな姿のまま机の影で一人ごちた。
「いってーなーほんと」
自分の耳に潜り込んできたのは、我ながら、笑っちゃうほど半泣きの声だった。
田中朝幸、十六歳。
付き合って二ヶ月目にして失恋しました。
男の子の異世界トリップだったらきっとこんな話が好きなんだなぁと思います。
多分、この後に色々あって異世界にトリップするんじゃないかな。
理不尽と現実と自分と理想にぐちゃぐちゃに踏み躙られて傷ついても、ちくしょーって泣いて怒って喚いて絶望しても、図太くしたたかに「夢みたいできれいごとな希望」を離さない子のお話が書きたかった。女の子とは種類が違う男の子の強さを書きたかった。
力不足で挫折です。精進します。