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『魔王を討伐するハズの勇者(オレ)が婿入りして次期魔王筆頭候補になってしまった訳で』   作者: 御音人 真理
プローグ

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プロローグ その1 『嘆きの谷』を前にして

 「全く持って大した眺めじゃわい」


 歴戦の戦士であり、優れた腕前の遍歴鍛冶職人でもあるドワーフのファーレンが独り言ちた。

 彼は現パーティーの最古参であり、パーティーリーダーを務めるレオンを支えるかけがえのない友でもある。


 「ええ、そうよ。これが『嘆きの谷』と呼ばれる大峡谷よ」


 パーティーメンバーに向かって目の前に広がる風景について、レイピアを佩いだ赤髪の女性が説明を始めた。


 「魔境の最奥にある魔王城の西側から南側半分を占める最大の障壁。だけれども、守る側の魔族達の警戒が最も薄い場所でもあるわ」


 「それは分かるがな、マリーよ。コイツは散々鉱物目当てで危険な土地に分け入ったわしでも尻込みする地形だぞ」

 「魔族が最も警戒するのは大規模な討伐軍で、そんな連中はこんな場所を通らないし、通れない。少人数の私たちだからこそ、魔族に見つからずに通り抜けられる最短ルートとして使えるわ」


 マリーと呼ばれた彼女は全てを分かっていると首を縦に振った。


 「まあまあ。ファーレンさんの言い分もマリーゴールドの言い分も、どちらも正しいのですからここは一つ穏便に」


 のんびりとした口調で、武装僧侶(モンク)もかくやという体躯の男性が仲裁に入った。彼の名はバランといい、この見てくれに反してあらゆる魔法を駆使する魔導師だ。

 マリーこと、マリーゴールドと二人組のパーティーだったが、旅の初期にレオンたちに合流してきた仲間である。


 「過去の記録を残した書物でも、この『嘆きの谷』を往復して生還した冒険者の話はいくつか散見されています。ここを抜けて魔王城まで辿り着くことも、決して夢物語ではないのですよ」

 「『夢物語ではない』か。つくづく便利な言葉だな」


 皮肉を口にしたのは、矢筒と弓を装備した青年に見えるエルフだ。


 「確かにその手の話はオレも聞いたことが有る。だがそいつらは、魔王城の手前で逃げ帰ってきた臆病者の話だ」

 「リッテルさんリッテルさん。彼らは慎重だったからこそ『嘆きの谷』を越えて往復できた。そう捉えるてもらえませんかね」


 大仰な身振りを交え、バランはエルフの青年をなだめにかかる。

 リッテルという名のエルフは、実のところ現パーティーメンバーの中ではドワーフであるファーレンに次いで実年齢が高い。だが、エルフ種としては見た目通りの青年だった。


 彼の村は大規模なゴブリンに襲われ続ける脅威に曝されていた。

 村人だけでは対処出来ぬと判断した長老たちは、ゴブリン退治の大規模依頼を冒険者ギルドに発注した。だがその苦渋の決断は、ある意味裏目に出た。

 個々の冒険者パーティーは目の前のゴブリンを叩き潰す成果は出してくれたが、ゴブリンジェネラルないしゴブリンキングといった全体を統率する中枢を叩くには至らず、いたずらに討伐期間が長引いて出費がかさんだ。

 さてどうするかとエルフの長老たちが悩み始めた頃にこの大規模依頼に加わったのがレオンたちの四人パーティーだった。

 レオンは数日で現状の全体像を把握すると、長老たちに報酬の支払い形式を見直す事を提案した。

 ひとまず、今までのゴブリン討伐分に関しては出来高払いで精算してもらい、これからの報酬は仕事内容によってランク分けされ、個々のパーティー毎に別々の仕事を振り分けて依頼してもらうことにした。

 村の外周を警備する者。森の中に出てゴブリンの拠点を探し出して来る者。そして見つかった拠点を強襲して殲滅する者。仕事を振り分ける事で雑多な冒険者パーティーの集団を、組織化された討伐軍として再編してみせたのだ。

 レオンの献策が実行された後、押される一方だったエルフの村はあれよあれよと逆にゴブリン達の集団を追い詰め始めた。森の中に作られていた拠点は一掃され、ゴブリンキングが支配する本拠地が判明すると最大戦力を投入してこれを叩き潰して事態は収束した。

 これに掛かった時間は、わずかに二十日足らず。いつ終わるか先の見えなかったゴブリン退治はあっという間に終わりを迎えたのだ。

 エルフたちは感謝し、村長は息子のリッテルをレオンのパーティーに加える様に懇願してきた。その好意を無碍に出来なかったレオンは不承不承、リッテルを迎え入れることにした。 


 この一件は多くの冒険者パーティーの知るところとなり、冒険者ギルドからもレオンは高い評価を受けた。冒険者としてのランクも引き上げられていつしか『勇者』として語られるようにもなった。

 『勇者』という呼ばれ方など、レオンにとっては道端の石ほどの価値も無かったが、呼ぶ方にはそんな事などついぞ知られることは無かったのだが。


 「それでもってここを通るのか通らないのか、どっちにするんだい」


 そんな事などどうでもいい。投げやりな態度を隠そうとしないのは竜人種で槍の使い手であるナーガだった。

 彼はどういう訳かマリーの知り合いで、彼女を追いかけて方々を探し回った挙句、ようやく見つけ出したと言っている。

 一緒に国に帰ろう。それが駄目なら何処までもついて行くと自身の主張を譲らなかった。

 マリーの方は、頑なにそれを拒んだが、旅の道中を牛に集るアブの様にパーティーの後をついて回った。

 竜人種特有の膂力に任せた神速の槍の突きは一目に値した。悩んだ末に、マリーに過度に関わらない事を条件にパーティーに加わることをレオンは了承した。もっともこの件をマリーに納得させるのは骨が折れたし、ナーガは最もパーティーへの帰属意識が希薄な問題児なのは後々頭痛の種になってしまったのだが。


 ナーガの言葉を受けて、パーティーメンバー全員の視線がレオンに集中する。


 「この谷を、越えよう」


 レオンは決断を口にした。

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