第3章 その8 エルフの里・3
「いやいや、正直助かったよ」
レオン達の前に現れた冒険者パーティーのリーダーは汚れたままの顔で礼を口にした。
話によれば、彼等もゴーシュの森に巣食うゴブリン討伐の為に、欠員補充でモルドールの冒険者ギルドの斡旋でおよそ一月半前に戦線に加わったらしい。
「今回は三日前にゴブリンの群れにかち合って戦闘になったが、数が多くてな。何匹か取り逃がした上に、三人が割と深手を負った。かくいうオレも浅手をもらっちまったよ」
助かったと言う安心感から、ついつい長舌になってしまっている。
話をまとめると、今回遭遇したゴブリンはおよそ三十匹の『略奪部隊』で、比較的精強な個体の群れだったらしい。さすがに三十対八の戦力差は如何ともしがたく、三分の二強を討ち取る代償に全員が何らかの傷を負い、内三人は命に別状は無いが戦闘には耐えられない深手をもらったていた。
リーダーはこれ以上の深追いはムリと判断し、手持ちの薬草で負傷の酷いものを優先して応急処置を済ませると急いでエルフの里へと引き返す事にした。その途中薪の上げる煙を発見し、すわゴブリンの偵察部隊かと斥候を送った所でレオン達四人と遭遇したのである。
「それにしても『武装僧侶』の魔法治療というのは凄いものだな。傷でフラフラだった奴がもうピンピンしてやがるぜ」
実際には失った体力は回復していないのだが、傷による痛みはすっかり収まり、動く度に苛まれる不快感はすっかり消え去っているようだ。
「表面上、傷は癒えても癒えても心身は万全とは言えません。努々、無理は禁物ですぞ」
重々しい口調を作っているバランがもっともらしく諭す。
『無詠唱の回復魔法』を、胸の前で拳を組んでさも『祈祷による治療』のように見せかけるのも様になっている。
「俺達は冒険者ギルドから治療要員として派遣されてきた極小パーティーだからな。幸か不幸か、さっそく役に立てた訳だ」
話を引き継いだレオンが事態のまとめにかかる。
助けられた冒険者パーティーのリーダーはしきりにお礼をと言ってきたが、レオンは冒険者ギルドから報酬が出るのでと謝絶した。
「どのみち目的地はエルフの里だ。一緒に移動して案内してくれるだけで十分なお礼になるさ」
「それもそうさな」
何となく納得した彼は握手を求めてきた。
「オレはボッシュ。冒険者パーティー『獅子の心臓』のボッシュだ」
「俺はレオン。残念ながら、パーティーに名前は付けて無いな」
熱くは無いが、誠意を込めてレオンは片手を握った。
治療を含めた小休止の後、十二名となった一行は一路エルフの里に向かった。
ボッシュは取り留めもなく、ゴブリン退治の苦労を話し続けた。
この時点で、ギルドから派遣された冒険者が事態に介入を始めて三ヶ月強が経過している。ボッシュ達が補充要員として派遣されたのが一月半前だから、既にそれ以前から冒険者側に撤退を余儀なくさせる程の損害が出たことがわかる。
レオンはそれとなく確認したが、追加の冒険者としてはボッシュ達が最後の要員で、彼等が到着以降にもパーティーごと撤退した者達も居て、今の段階で戦える冒険者の総数は四十名に届いていないそうだ。
「怪我で養生している連中を含めても総数は五十人を切っている。あんたらが怪我人を治療してくれて、尚且つ戦闘にも加わってくれれば頭数だけは何とか揃えられるのだがな」
「そのあたりの事は、さすがに俺達だけでは決められない。冒険者ギルドとの契約はあくまで『治療要員』だからな。エルフの里側が俺達を『戦闘要員』として追加で雇用するか、ギルドにさらなる増員を要請するか、話し合ってみないことにはなぁ」
レオンはもっともらしい言い訳を並べたが、ボッシュの方もそれもそうかと納得したようだ。
ボッシュ達の案内でエルフの里に到達したのは、真昼を過ぎた頃になった。
エルフの里は、聞けば少し特殊な場所らしい。
普段のエルフ達は『村』と称する戸数十から十五程の集団が各地に散らばって生活しているらしい。各『村』は『氏族』と呼ばれる血縁集団に属しており、各『氏族』の長老が合議によってゴーシュの森に住まうエルフを統括している。
『里』とは、長老達の合議が行われる場所であり、普段は各氏族が持ち回りで維持管理を行っているそうだ。
また、『里』には緊急時の避難場所でもあり、どうやらここ以外にも数カ所『隠れ里』が存在している様でもあった。
今回利用されている『里』は、例外的に外部へ存在が知られた場所であり、普段は外部との交易の拠点として機能しているそうだ。
余所者を極端に嫌うエルフ達は、今回のゴブリンの襲撃に際しても雇われ冒険者の拠点としてこの場所を選び、各『村』の場所等は極力秘匿したいという考えらしかった。
「済まないがボッシュ。うちのバランとファーレンを連れて手当が必要な冒険者の所まで案内してもらえないか」
レオンはエルフの里に入る直前に頼み事をする。
「それはいいが、あんたはどうする?」
「エルフの出迎えを受けたら、そのまま里長達と色々話し合うことになる。その間、怪我人を放ったらかしには出来ないからな」
「それもそうだな」
ボッシュは納得してみせた。
「マリーは俺と一緒だ。女に餓えた狼の群れに放り込むわけにはいかないからな」
「確かに。こんな美人さんの看病を受けたら、理性の箍が外れかねんか」
『獅子の心臓』のリーダーは豪快に哄笑してみせるのだった。




