承前。 その5 別れ話
剣が仕上がる前日、宿の酒場でレオンはテーブルを挟んで差向いでリーンと対峙した。
テーブルには野菜のスープに硬い黒パン、少量のチーズと滅多に飲めない山羊乳が置かれていた。
「酔っ払って話すような事じゃないしな。大事な話だから、ザックさんにも遠慮してもらった」
機先を制し、困惑した表情のリーンに今の状況を説明した。
「なぁ、半年ぐらい前からデカい事をしたくて一人で空回りしていたよな」
幾ばくかの間を空けて告げた質問に帰ってきたのは、それを肯定する無言だった。
「戦いに関する技量は、大きく伸びている。俺ももっと上を目指すべきだと思っていたよ」
硬い黒パンをスープでふやかし、夕食を取りながらレオンは淡々と話しを進めた。
「でもよ。そうするにはそれ以外のものが足りないとも思っていた。装備も、戦い以外の冒険者としての技術も、今組んでいるパートナーの冒険者としての戦いの技量もだ」
その一言に、俯き加減のリーンはハッとレオンの顔を凝視する。
「俺とのパーティーを解消する、それは必然だ。だが、その穴を埋めるまでの間、誰かがお前を支える必要があった。だから今日の今日までこの話題には触れて来なかった」
パンとスープを片付けて、ジョッキに入った山羊乳をグビリと一口飲んで見せる。
「なぁ、今がその潮時ってヤツじゃないのか?」
「だってお前・・・」
この場で初めてリーンは言葉を口にした。年上とは思えない、弱々しい声色だ。
「しばらくの間は、ザックさんが付いていてくれる事で話は通してある。二年も三年もは面倒は見きれないだろうが、一年やそこらは一緒に旅をしてくれるそうだ」
「残されるお前はどうするんだ?」
「それこそ身の丈に合った仕事をするさ。当面はファーレンさんの手伝いだな。ザックさんが離れる訳だから」
商人気質の理詰めでグイグイと話を進める。
「お前さんの装備も新しくすれば、これから何年かは戦いで命を落とす心配もしなくて済む。そう思って、今回の請負仕事の条件に剣を新しく打ってもらうことを捩じ込んだんだ」
ジョッキを傾け、ぬるい山羊乳を一気に喉に流し込んだ。
「ザックさんの人柄と、今後のことを見てくれるかまでは分からなかったが、そっちはさっき言ったように話しを通してある。ここまでお膳立てしておいて嫌とは言わないよな?」
テーブルの上に、二人分にしては多めの硬貨を置いてレオンはサッと立ち上がった。
「成るんだろ、『英雄』ってヤツにさ」
心に火を灯すための言葉を残しレオンはテーブルから離れた。
入れ違いに、宿屋の女将が新しいジョッキを手にやってきて、硬貨と引き換えにそれを置いていく。
「お連れさんが、これをあんたに飲ませてくれってさ」
それだけ言うと、女将は自分の仕事に戻っていった。
自失のまま口を付けた新しいジョッキには、水増しされていない生のブドウ酒が満たされていた。
『これをあんたに飲ませてくれってさ』
リーンには女将の言葉が、口を付ける度に繰り返し聞こえるような気がした。




