第3章 その7 エルフの里・2
レオン達はエルフの森に展開している他の冒険者パーティーとの接触を避けつつ移動を行い、三日目の夕方前にエルフの里にたどり着いた。
エルフの青年リッテルは、その日の朝に先行して里に向かってもらい、そちらは昼には里に到着している手筈になっている。己のテリトリーである森ならば、他の種族の二倍近い移動能力をもつエルフの面目躍如と言った所である。
「ここから先は、他の冒険者パーティー『見つけて』もらう方がいいのだがな」
移動の準備を整えたレオンは意味ありげにバランに視線をむける。
「近くに、三つ程パーティーがいますね」
全て心得ているとばかりに魔道士は胸を張る。
「森の中心から離れる様に動いているのは一つ。中心に向かっているのは二つですね」
「そっちの方のパーティーの規模は?」
「十二人程のパーティーと、八人弱のパーティーですね」
「じゃぁ、少ない方に接触しよう」
レオンとバランが淡々と行動方針を決めていく。
「お嬢さんがどういう事なのか、聞きたそうだぞ」
髭の下で苦笑を浮かべたドワーフが二人に声を掛ける。
「そうよ。きちんと説明しなさいよね!」
マリーも胸を反らせて問いただす。
「魔法探知で、他の冒険者パーティーの位置は把握出来ますからね」
バランは肩を竦めつつ、なんでもない様子で答える。
「今からエルフの里に向かうのに、里から離れて行くパーティーに接触しても仕方がありません。それに、ゴブリン退治に手抜きをしているパーティーの構成人数は最低でも十人以上。ならば、安全性を考慮すれば数の少ないパーティーに接触するのが正解でしょう」
「それにだ。仮に数が少ないパーティーも手抜きをしている連中の仲間だとしても、儂らならまず負けはしないからな」
ファーレンは顎髭をしごきながら想定される危険について指摘した。
「安全第一、極力危険は避けていこう」
レオンが軽く話をまとめた。
「もうすぐ接触出来そうですね」
すこし真昼を過ぎた頃、バランが皆に注意を促した。
「わかった。ここで休憩しながら向こうの冒険者が見つけるように仕向けよう」
心得たとばかりにレオンが指示を出す。
「俺達は、エルフの里を見つけられない間抜けな冒険者という体裁を取る。あちこち彷徨って、今は休憩中という格好だ。不用心にも、生乾きの木を燃やしてその煙で向こうに気づいてもらう」
「よくもまぁ、次から次へと色んな手を思いつくわねぇ」
呆れたように首を振りつつ、荷物を下ろしたマリーは薪となる枯れ枝を集めに掛かった。
「他の冒険者はゴブリン討伐で気が立っておる。出会い頭の同士討ち何ぞ願い下げじゃわい」
生木の伐採をしているファーレンが独り言のようにレオンの懸念した事態を指摘した。
「うーん。確かにそれは願い下げよね」
それなりの量を集めた枯れ枝を、石で炉を組み上げたレオンの元にバサリと落としたマリーが深刻そうに顔を顰めた。
「もう少し集めてくれ」
マリーの些か乱暴な渡し方を気にする風もなく、レオンは注文を出した。枯れ枝を炉の中で組んで焚き付け用の枯れ葉を押し込むと、取り出しておいた火打ち石を使って火を起こしていく。
「魔法は使わないんだ」
「今の私は『武装僧侶』という設定ですからね。火起こしの道具を出しておくのが賢明でしょう」
話を振られたバランがマリーをやんわりと嗜めた。
「そーいえば、そういう設定でした」
独り言ちたマリーを尻目に、視線を交わしたバランとファーレンが肩を竦めた。
「生木の方は、こんなものでいいか?」
葉を落とした枝を小脇に抱えたドワーフが、炉で起こした火種と格闘するレオンに尋ねた。
「とりあえずはそんなものかな」
ファーレンをチラリと見たアレンは息を吹いて火の勢い強くしながら軽く頷いた。
「見ちゃおられんな。儂に変われ」
ここしばらくバランの魔法に頼りきりで火起こしの腕が落ちたレオンの肩を押し、仕事を代わった。鍛冶師を生業とするドワーフは、またたく間に湯を沸かすに十分な火力を炉の中に作り上げた。




