第3章 その3 ユーゴの森・3
本格的な探索に切り替えたが、結果は芳しくなかった。
広大な『ユーゴの森』に対し、わずか四人のパーティー一つではやはり力不足なんだろう。北進に二日を費やし、探索を再開して三日目の昼を過ぎたが未だに手がかりは無かった。
「少し休もう」
急に立ち止まったレオンが小休止を宣言した。
「いいんじゃないのか」
「丁度いいと思いますよ」
ファーレンとバランは即座に賛成する。
「私はまだ大丈夫よ」
マリーは力こぶを作って余裕が有ることをアピールした。
実際の探査は、眼力で異常を探すファーレンと魔法での探知を担当するバランに負担が掛かっている。移動速度が落ちているのでマリーやレオンの負担はそれほど大きくはない。
「疲れきる前に休むのも必要だからな」
正論でマリーを説き伏せるとレオンは火起こしの準備に入る。
「近くから観察されていますね」
さり気なくそこに寄って来たバランがレオンだけにそっと囁いた。
「俺でも気が付いたぐらいだからな。で、いつから跡を付けられていた?」
「遠くからなら昨日辺りですかね。今朝からは急に距離を詰めてきていました」
「矢でも射掛けられるかな。危ないようならその時は風の守りで対処してくれ」
手を止めること無く炉を用意し終えたレオンは、バランに火と水を魔法で用意してもらう。火に関しては燃料が必須だが、水は真水がそのまま出てくるので荷物が減らせて重宝する魔法だ。
「あぁー、今の魔法に反応して動くみたいですよ」
「りょーかい」
何のことはない。尾行者の存在に気が付いたレオンはその反応を見る為にわざと隙を見せて見せたのである。
『ヒュン』
風切り音と共に、飛来した矢が地面と木の幹に突き刺さった。
一本はマリーとファーレンの足元近くに、もう一本はバランの足元に。
最後の一本はレオンの頬を掠める程の近くを通過して背後の木に突き刺さった。
「なっ!?」
マリーは驚いて抜刀しかけたが、さりげなく尾行者との間に立って守っていたファーレンがそれを押し留めた。
「おーい、お茶を用意している所なんだ。あんたもお呼ばれしたらどうなんだ?」
動揺の欠片もなく、レオンは片手を振りながら矢が射掛けられた方向に向かって話しかけた。
じれるような沈黙が数瞬の後、およそ二十間の先でフラリと人影が動いた。短弓を油断無く構え、今度は間違いなくレオンの急所を捉えているに違いない。
「お前たちは何者だっ!」
「そういうお前は『ユーゴの森』のエルフの様だが、違うのか?」
鋭い誰何に対し、レオンは緊張感もなく問い返した。
「そうだと言ったらどうするつもりだっ!」
「だったら俺達の雇い主になる。お茶でも飲みながら仕事の話をしようじゃないか」
レオンの返答に対し、しばし気まずい沈黙の時間が流れた。
「レオンにバランにマリー。あっちのドワーフはファーレンな」
火が揺れる炉を囲んで、レオンはパーティーメンバーを紹介した。ファーレンだけはエルフの近くを嫌って少し離れた位置で立木に寄りかかっている。
「オレはリッテル。今はそれだけで十分だろう」
警戒心を緩めていないエルフの青年は少し距離を取り短弓を手放さないでいる。
先程のほとんど同時と言っていい三本の矢は、目の前にいるたった一人の射手による神業だった。森に生える木の僅かな間隙を狙い違わず縫っての遠矢だった。
この距離なら、狙いすまさなくても一挙動でレオンを射殺せるだろう。
「あー、モルドールの冒険者ギルドからいくつか書類を預かっている。荷物の中から取り出してもいいかな?」
急に動いて驚かさなように断りを入れてから、傍らの背嚢から紐で縛られただけの羊皮紙を取り出してみせた。
「今見せられるのはこれだけだな。里長なり部族長宛のモノは流石に渡せない」
「投げて寄越せ」
リッテルと名乗ったエルフは些かも気を緩めること無く言い放った。
膝下に飛んできた丸められた羊皮紙を拾い上げると、視線はレオンから外すこと無く唇で紐の一端を咥えて解き、羊皮紙に一瞥をくれる。
「確かに、冒険者ギルドの印章とマスター直筆のサインだな」
偽造防止の為に複数の印判で多色刷りされたモールドの冒険者ギルド支部のエンブレムと、ギルドマスター本人の署名で間違いなく本物であることの確認は取れたようだ。
エルフの青年は冒険者パーティーの動きを警戒しつつ、羊皮紙の内容を検める。
要約すると、このパーティーはギルドマスターが送り込んで来た偵察要員で、『ユーゴの森』の中で接触した場合は他の冒険者に知られないようにして調査に協力して欲しいと書かれていた。
「内容は確認したが、調査の目的が書かれていないぞ」
リッテルは鋭く問題点を指摘した。
「調査そのものが、俺達の最初の仕事なんだ」
悪びれる事無くレオンは返答した。
「ギルドマスターは、今回のゴブリン討伐が上手く行っていない根本原因を探り、それを排除したいと考えている。だから、単独で動けるパーティーである俺達を『ユーゴの森』に送り込んだんだ。討伐を成功させる為にも、少し協力してもらえるかな?」




