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『魔王を討伐するハズの勇者(オレ)が婿入りして次期魔王筆頭候補になってしまった訳で』   作者: 御音人 真理
第3章

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第3章  その1 ユーゴの森・1

 『ユーゴの森』というのは、人知が及ぶ最果ての一つと言って良い場所だった。

 そこから北は荒涼とした荒野となり、更に北には古代竜・神代竜が支配する万年雪を頂いた峰々が連なっている。

 一方、東に目を向けれは水源となる川や地下水を生み出す山々が有り、更にその先は魔王領と物理的な境界となる『嘆きの谷』が大きく口を開けている。

 もしユーゴの森に向かうとすれば、森の南を走る大街道を外れて北上するか、西の海岸線にある港街から寒村を繋ぐ細い街道を経由するしか無い。


 この時のレオン達一行は、まだ四人のパーティーでしかなかった。

 リーダー格に成長したレオンに、御意見番の重鎮であるドワーフのファーレン。少し前に新規加入となった女剣士のマリーと、体躯に恵まれた魔道士のバランの二人組。

 彼等四人は西からの寒村伝いの街道を使って『ユーゴの森』を目指していた。


 事の起こりはおよそ一年前。『ユーゴの森』をゴブリン達が跋扈し始めたのである。

 森に住まうエルフ族たちはそれぞれの里ごとに、個別に対処していたが次第にゴブリン達に押され始めた。村単位から里単位に、里単位から部族単位に連携を強めていったが、一向にゴブリン共を抑え込むことが出来なかった。

 エルフ族の長老たちは苦渋の選択として、ゴブリン退治の大規模な依頼を港街モルドールの冒険者ギルドに発注した。目的は『ユーゴの森からゴブリンを駆逐・殲滅』することであった。

 だが、冒険者ギルドから派遣された冒険者パーティーの介入から二月過ぎても状況はあまり好転しなかった。適時、脱落した冒険者パーティーの補填は行われたのだが、流石に冒険者ギルドも頭を悩ませた。

 大口の依頼を完遂出来ないとなれば、それは仕事を請け負った冒険者ギルド支部の沽券に関わってくるからだ。

 支部から更に冒険者を送り込むか、恥を忍んで近隣の別支部に増援を求めるか。

 そんな折に、モルドールの港街に現れたのがレオン達四人の一行だった。



 レオン達がモルドールの港街に立ち寄ったのは、単に完遂した依頼の報酬を受け取る為だった。


 冒険者ギルドは請け負った依頼に基づき、契約書を三部作成する。

 一部は依頼人に、一部は仕事を請け負った冒険者に、最後の一部は冒険者ギルドの控えとなる。

 依頼者は、冒険者が持つ契約書により依頼の請負人と認知する。依頼が完遂されれば、二部の契約書に依頼者・冒険者双方が署名し冒険者はその内の一部を最寄りの冒険者ギルド支部に持ち込んで報酬と交換される。


 レオン達はおよそ南から北へ移動しながらいくつかの依頼をこなし、溜まった署名済の契約書を現金化する為にモルドールのギルド支部を選んだのだ。

 モルドールは定期の貨客船が運行されている北限の港街であり、陸路で訪れた冒険者の多くが海路へと旅立つ場所だった。レオン達もそれにならい、モルドールの冒険者ギルド支部で依頼の成功報酬を受け取るとそこから海路で一気に南下するつもりだった。

 だがそこで、レオンは冒険者ギルド・モルドール支部のギルドマスターに捕まり、その執務室に連行されてしまった。換金の為に持ち込んだ契約書の内容から、『ユーゴの森』に送り込むのに丁度良いと判断されてしまったのだ。



 「面倒な話だな」


 宿屋の一室の中で、ギルドマスターから解放されたレオンから一通りの話を聞いたファーレンは酒の匂いをさせながら鼻白んだ。

 南下する貨客船が見つかるまでは自由時間だと、ついさっきまで旅籠併設の食堂で常人なら泥酔する量のおよそ五割増しのキツい蒸留酒を飲んでいたのだが、本人にとっては水を飲んだのとさほど変わりはない。


 「第一、エルフ絡みと言うのが儂は気に食わん」

 「あぁー、そこは一旦横に置いてくれ」


 レオンは不機嫌なファーレンを宥めた。種族的な反感を持ち出されては話が進まないからだ。


 「ゴブリン退治に投入された冒険者は約五十人。場所は討伐側に不利な森の中とはいえ二ヶ月経過しても状況は好転していない。むしろ、依頼人側からすれば二ヶ月もの間五十人もの食い扶持と日当を出している分経済的には大赤字だ」

 「魔物退治に経済的な話を持ち込むなんて、レオンって本当に変わった冒険者よねー」


 メンバーになって日の浅い女剣士のマリーが目をクリクリと動かしながら口を挟んだ。


 「冒険者は、リスクを請け負う代わりにお金を貰うんだから十分に経済の一部なんだよ」


 レオンは軽く肩を竦めた。


 「今回のゴブリン退治の一件は『リスクに対して過大なお金が支払われている』という点が最大の問題だと俺は思っている」

 「依頼人であるエルフ達にとっては、安全が確保出来ていないことが最大の問題なのでは?」


 マリーの連れであるバランが疑問を呈した。


 「それが今回の件で、みんなが思い違いをする最大の要因だと俺は考えているんだよ」


 レオンは諭すように言葉を紡いだ。


 「討伐が長びいて困るのは、実はエルフ達だけじゃない。依頼に失敗すれば冒険者ギルドの信用は大きく傷つくしエルフ族全体との関係も悪化する。それに、万が一にもエルフ達が森を捨てて移住をするような事態にでもなればこの地方全体が不安定化してしまう。だが、現状は『状況は悪いが何とか持ちこたえられている』という状況で固定化されている様に見える。さて、この状態で一番得をしているのは一体誰なのか考えて見てくれ」

 「・・・それは今『ゴブリン退治に参加している冒険者達』という事ですか?」


 暫しの沈黙の後、バランが顔をしかめつつレオンの言いたかった事を口にした。


 「あくまでも、ギルドマスターから聞いた話を再構成した上での仮説だけれどもね」


 レオンも、物事の表面をなぞっただけの絵空事かも知れないことを認めた。


 「実際のところは、ゴブリン退治に参加している冒険者の実力が足りないだけかも知れない。あるいは、現地でのエルフ達との連帯が上手くいっていないからなのかもじれない。もしかしたら、ゴブリン達の規模が予想を上回っているから苦戦しているだけなのかもしれない」


 レオンは想定しうる原因を次々と上げていった。


 「だけれども、それは誰かが現地に行って実際に現状を確認しないことには判断はつかないことなんだ」

 「それで、お前さんはどうするつもりなんだ」


 酔いを感じさせないファーレンがレオンの考えを問いただす。


 「ちょっとばっかりギルドマスターに無茶をさせた上で、今回の一件に介入したいと思う。もちろん、みんなの賛成が有ればの話だけれどもね」


 その後、レオンの語った『ギルドマスターにさせる無茶』に納得したパーティー一行は、諸々の準備を整えて『ユーゴの森』へと向かうことになった。


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