第2章 閑話 マリーの恋話
「ズバリ姫様にお聞きしますが、レオン殿の何処を気に入られたのでしょーか?」
マリーの寝室にお茶と茶菓子を運び、そのままご相伴に預かったグールゼットは真正面から一撃を加えた。
口に含んでいたお茶を吹き出さなかったマリーの耐性の高さを褒めるべきだろう。
「魔王妃様も『ぜひ娘の婿に』と魔王様に掛け合っておいででしたので早晩城中の者の知る所となるでしょうから早めにご意思を表明していただかないと下々の者達も色々と状況に振り回されるので何卒ご配慮いただきのですが〜」
グールゼットは息継ぎも入れずに一気にまくし立てた。
「・・・本人達の居ない場所で勝手に話しを進めないで欲しいのだけれど」
「『本人達』っ!やはりお二人は相思相愛でいらっしゃるのですねっ!!」
頭痛を覚えるマリーを余所に、乙女モードを全開に発動した侍女は感極まった様子で小さく小さく叫んだ。
「まだまだ小さい姫様と思っておりましたが、立派な淑女となられて。このグールゼット、感激の極みですわっ!」
「だーかーらーっ!!」
「そのご様子だと、マリー様もレオン様も、双方告白にも至っていないのですね」
キレかかるマリーを尻目に、侍女は追撃の刃を振り下ろした。
図星を突かれたマリーはぐうの音も出ずに撃沈した。
「恋愛の速度は人それぞれですから、そこに関しては私も何も申しません」
侍女モードに切り替わったグールゼットは諭すように言葉を紡いだ。
「ですが姫様が魔王様の血筋を引かれている以上、この魔王領においては婚姻は非常に大きな意味を持ちます。魔王の地位が世襲で無いからこそ、今代の魔王様が健在な内に強固な関係を結びたがる輩は掃いて捨てる程おります。いっその事、一生魔王領に帰らないという選択肢もあったのですよ?」
些か一侍女としては踏み込んだ発言だが、たしかにそれは凝り固まったマリーの心を解す効果があったようだ。
「うーん。帰ってくるきっかけは、ナーガに追いかけ回されたからなのよね〜」
焼き菓子をボソボソと齧り、ズズズとお茶を飲みながらマリーは本音を口にする。
「まっさか『向こう側』まで追いかけてくる輩がいるとは思わないじゃない。一応、バランが間に入ってはくれたけれども帰ってはくれないし、そのうちレオンが条件付きでパーティーメンバーに入れちゃうし」
随分とヤサグレた態度だが、それだけにそれが本心だとグールゼットには読み取ることができた。
「そのうち、私も逃げるばっかりじゃダメだな〜なんて思ったから、一度魔王城に戻ってみる気になったの。あっ、あくまでも『一度』だからね!」
「魔王妃様も魔王様も、姫様が城に戻られた事に関しては本心からお喜びでした。反面、以前以上に姫様をめぐって起きる波風が姫様を苦しめるだろうと気遣ってもおられます。どうぞ、気を強く持って下さいまし」
「んっ、ありがとう」
カップの中のお茶を飲み干したマリーは、行儀悪くカップを手にしたままポットからお代わりのお茶を注ぎ足した。
「で、話は戻りますがレオン様のどういった所が気に入られたのか、全くお話になっていないのですが?」
「あぁ〜っ、まだ聞くわけ!?」
マリーとグールゼットの一方的な恋話は、当分終わりそうに無かった。




