第2章 その12 帰ってきた放蕩息子・6
その日の夕食ではパーティーメンバーが全員揃った。
ナーガが居なかったのは中一日、正味二日間といったところだが、随分と久しぶりな気もする。
夕食のメニューはポトフとパンのみ。欠食児童と化したナーガのみ焼いた燻製肉の薄切りと目玉焼きが追加されたが、今朝食べたばかりなので他の者からは不満は出なかった。
「で、城から派遣されてきた文官には、リッテルの住んでいた森での一件を洗いざらいぶち撒けてきたと?」
情報共有の為に、食堂で夕食を取りながら話を聞いていたレオンは深皿の中のポトフに入っている腸詰を匙で突きながら、苛立った声で目の前のナーガに詰問した。
「聞かれたら話さない理由にもいかないだろうがよう」
ポトフをかっこみながら、不貞腐れたように答える。
「あぁ・・・。これはちょっと問題ですねぇ」
レオンの右隣に座るバランが食事の手を止めて片手で額を押さえた。
因みに、レオンの対面にはナーガが座り、その横をファーレンが堅めて更にその隣にリッテルが陣取り、バランの更に右隣にマリーを座らせて可能な限り物理的な距離を取ってある。
「どういうこと?」
理解が及ばなかったマリーが、バランに問うてみた。
「世間一般には、『ユーゴの森の解放』と言うのはレオン殿が冒険者の一団を再組織化して襲撃してきたゴブリン共を殲滅した『勇者の冒険譚』として知られています」
バランは姿勢を正して説明を始めた。
「ですがその裏で、難儀していたエルフの里に寄生する『不良冒険者』をレオン殿が文字通り『始末した』事はマリー殿は知らないでしょう?」
「えっ!?」
マリーは告げられた内容がすんなりと頭に入ってこなかった。
告げられた言葉を反芻し、ようやく何かとんでもない事が有ったのだと悟った。
「ユーゴの森のエルフ達は、大規模討伐を冒険者ギルドに依頼しましたが集まった冒険者の中には仕事を引き延ばすためにワザとゴブリンの一部を見逃す輩も混じっていました。その事を知ったレオン殿はエルフの長老たちと計り、契約内容を変更してそういった連中を仕事から外しました。それは、その連中が報復としてユーゴの森のエルフ達を襲ってくることも計算に入れてです」
呆気にとられたマリーは声も上げられないでいる。
「連中の一味を一人だけ残し、そいつを使って偽情報を流しました。それに引っかかた連中を『始末した』のがレオン殿とファーレン殿に率いられたリッテル殿達エルフの精鋭です。その時は、マリー様の安全確保と情報漏れを防ぐ為に私たちはエルフの里に待機していました」
「知らなかった・・・」
あまりの内容に、マリーは呆然とした。
「ナーガが合流したのはその後ですが、彼にはこの事を話してあります。パーティーに不利益な行動を取れば、レオン殿は手を汚す事も厭わないと事実を教えることで牽制したわけですが。今回はものの見事に裏目に出てしまいましたね」
「あの一件は必要だったとはいえ、嫌な仕事だったわい」
ファーレンがしみじみとした口調で零した。
「バランよぉ・・・。魔族領の倫理観で、同族殺しは罪は重いか?」
レオンは情けない声で確認してみた。
「例外無く吊るされますね」
「そいつらが裏切り者だった場合は?」
「その場合は称賛されます。むしろ、裏切り者を討たなかった場合は仲間と見做されて重罪人として扱われます」
バランはキッパリと言い切った。
「どっちの判断に転んでも、俺はますます立場が追い込まれやしないか?」
「少なくとも、ユーゴの森の一件でどうこう責められることは無いはずです」
ガックリうなだれるレオンの正面で、ナーガだけが黙々と飯を喰らい続けた。




