承前。 その4 一つの旅立ち
客のいない昼過ぎの酒場で三人は仕事を終えた鍛冶師迎えた。
塩を吹いた肌に削げ落ちた頬。十日前の彼からは想像も出来ない容姿の彼は、それでも強い意思を灯した瞳をギラつかせていた。
細工物が得意とされるドワーフの作とは思えない意匠を廃した一振りの片手剣がその手には握られている。
「装飾だの何だの、そういったものは今のお前には必要あるまい」
ぶっきら棒に、ファーレンはそう告げた。
「刃筋を立てて、きちんと斬りつければ大概のものは切れるように仕上げた。無くしたり、壊すんじゃねぇーぞ」
それだけ言うと真新しい剣をリーンに押し付けるように手渡し、引きするように体を動かして宿の自室に引き上げようとする。
「あとは僕が」
動こうとしたザックを制し、レオンがファーレン支えてその場をあとにする。
「いい加減、鞘から抜いて刀身を確かめるぐらいしたらどうなんだ?」
ファーレンとレオンが姿を消したのを確認し、手にした剣を恍惚と眺めるリーンを一瞥して声をかけた。
ふと付き物が落ちたような表情になったリーンは、意を決して剣を抜き放つ。
鞘から解き放たれた刀身はどの様な技法を用いられたのか、漣にも似た幅狭い無数の文様をその身に纏っていた。
その刀身を吸い込まれるように見つめるリーンには感嘆のため息しかない。
「かぁーっ!あの爺さん、とんでもない業物を打ちやがったな」
ザックの声は、感嘆を通り越した呆れにまみれている。
「俺もあの爺さんとのとの付き合いは長いが、これほどの大業物は初めて見た。お前みたいなガキには分不相応な代物だ。わかてんのかよおい」
口の悪い物言いは、称賛か嫉妬か、ザック自身も分からぬ感情が入り混じっていた。
「えぇ、えぇ。物凄い選別を頂きました」
歓喜と畏れに震えた声が、リーンの口から零れた。
「そんでよー、本当にこのまま御暇しちまっていいのかぁ?出発なら、二、三日先に伸ばしても別にかまわないんだぞぉー」
「いえ、友との約束です。旅装を整え次第直ぐに立ちます」
決然と言い放ち、刀身を鞘に収めたリーンは表情を改めた。
外観だけ見ればごくありふれた一振りの片手剣。だがそこに込められた万感の思いは今のリーンには応えられぬ程の重みがある。
「かぁー、どいつもこいつもカッコ付けやがって。後悔したってしらねーからなっ!!」
声を荒げ、ザックは既にまとめ終えた荷物を自室に取りに戻った。




