第2章 その9 帰ってきた放蕩息子・3
「私が魔王領を離れている間に、魔王軍の組織にも変化がありましてね」
バランは丁度良いとばかりに、レオン・ファーレン・リッテルの三人に説明を始めた。
「私が居た頃の筆頭将軍はセリム将軍ですが、実戦部隊から外れて軍全体を統括する大臣職の様な立場になられました。代わって、筆頭となったのが獅子頭のライオット将軍です。この二人は私もある程度知っている方たちです」
バランは三人の反応を確かめながら言葉を続けた。
「その後、大将軍格にまで地位を進めたのがナーガの実父である竜人のゴールゴン将軍と、女将軍である白狼人のフェミリア殿。この四人が実質的な魔王軍の最高幹部だそうです」
「関わり合いになりたくない話だ」
「我々の安全に関係するのです。真面目に聞いて下さいよ」
ドワーフの投げやりな反応にバランは眉をひそめた。
「魔王様との謁見の際の幹部連中の反応を見たでしょう。元々が力ある強者が支配する社会なので、魔王軍の幹部も脳筋な人物が多いのです。勿論、軍を束ねて動かすとなれば統率力と戦術眼が必須ですが、こと政治的な判断が出来るかは未知数ですからね」
「すると、今後はその政治的な判断が出来るかどうか分からない連中がどう動くかが今後の鍵を握ると?」
レオンはバランの言いたい事を察した。
「セリム様から得た感触では、魔王様は我々、と言うよりもレオン殿に利用価値があると判断されたようです。レオン殿の価値を何らかの実績で全軍に示し、魔王様の庇護下に在ることを認めさせる。これが向こう側が打ってくる最初の手になるでしょう」
「随分と期待値が高くないか?」
レオンは項垂れたまま弱音を零した。
「価値というのは、何も武力に限った事ではありません。むしろ、魔王軍の軍人に無い才能の方が彼等の反発を招きにくい。自分達の地位を脅かさないのであれば、積極的な排除の対象から外れますからね」
「あくまで競合しない有益な人材としての立場ですか」
リッテルが顎に手を当てて考え込む。
「悪くは無いと思いますが、さて、どんな要求を突き付けられるか見当も付きません。その辺りの情報もまだ掴めていないのですね?」
「その辺りの事は、魔王様から直接話を聞かないことにはなんとも」
バランはお手上げだと手振りで示した。
「先ほど話した将軍達ですが、セリム様は城に常勤。ライオット将軍は現在遠征中で城から遠くに。ゴールゴン将軍は近く行われる別の遠征の準備に忙殺。フェミリア将軍は遊軍として城に留め置かれていて比較的手が空いているご様子。軍内部で我々にちょっかいを掛けてくるとすれば、ゴールゴン将軍かフェミリア将軍の可能性は有りますが、セリム様が掣肘しているので今しばらくは現状が続くかもしれません」
「居心地の悪い話だ」
レオンは項垂れたまま両手で顔を覆った。
「その辺りの話を、マリーにもしてくれ。特に、ナーガがいつ此処にやって来るか分からない事を重点的にだがその前に」
「なんですか?」
ソファーから立ち上がって歩き出そうとしていたバランは、不審そうに体ごとレオンに向き直った。
「侍女のグールゼットさん辺りを呼んで、追加のパンなり食材をもらってくれないか?大食いの欠食児童が帰ってきたら、用意中のポトフを鍋ごと喰い付くされかねない」
さもありなん。
バランは両肩を竦めると、幻術を解いて再び『客間』の外へ歩き始めた。




