第2章 その8 帰ってきた放蕩息子・2
煮込み料理はそれなりに時間が必要なので、レオンは早めに下拵えに取り掛かった。
カブは食感を活かす為に皮を剥いて櫛形にしたものをさらに半分に、他の根菜類と芋は皮を剥いて乱切りに。
スープ用の深鍋に油を敷いて野菜類を軽く炒めてから水を張る。沸騰させない様に加熱しながらアクを取り、その間に腸詰めを一房毎に切り離して斜めに切れ込みを入れる。
頃合いを見て腸詰を追加したら、月桂樹の葉を一度折ってから加えて一旦火から下ろす。予熱で、腸詰めから出た旨味を野菜に吸わせるのでしばらく放置だ。
「美味そうな匂いだ」
火を越しを手伝った後は、応接室で寛いでいたファーレンがレオンを見るなり呟いた。
「まだ時間が掛かる。慌ててつまみ喰いをしても味が染みていないぞ」
「ハーブの香りがしますね。月桂樹ですか」
部屋の隅で結跏趺坐を組んでいたリッテルも、一度立ち上がってソファーに移動してきた。
「手持ちの物を出してきたのですか?」
「いや、備え付けのスパイス棚にあったやつだ」
レオンは首を横に振って答えた。
「葉は小ぶりだが、香り付けには十分だ。月桂樹の苗を昔手に入れているのなら、この城か何処かで栽培していても不思議じゃないさ」
棚を漁った際に、胡椒まであったのだからひょっとしたら今でも細々とした交易が続いているのかもしれない。
「しかし、謎だ」
レオンは溜息をついた。
「魔王領に対するイメージがどんどん崩壊していく」
「油断するなよ。少なくとも、魔王本人以外は好意的じゃない。謁見の時の配下達の態度を忘れるな」
年の功で、ドワーフが釘を差してくれる。
「分かっている。出来ればこれ以上深く関わる前に追放でもしてくれたら一番楽そうなのだが・・・」
「貴方の性格では、それは無理そうですね」
苦笑交じりに若いエルフが混ぜ返してきた。
「マリーは仲間です。そんな彼女を貴方は見捨てられる筈もない」
「痛い所を突いてくる」
レオンも苦笑したが、確かにそれは今回最大の弱点だ。魔王・魔王妃の二人は親子の情はともかくその一点を突いてくるだろう。そして今のレオンにはそれに対抗できる切り札がない。
「そう言えば、ナーガの方はどうするつもりだ。仲間といえば仲間だが、魔族軍のお偉いさんの息子の様だったし儂らで何とか出来るとも思えんが」
ファーレンが思い出したように告げてきた。
「我々の身の安全と引き換えにしてまで彼を庇い立てする必要を感じません」
リッテルは平然と切り捨てに掛かった。
「その辺りは、バランと相談してからの判断かな。戻ってこなければ手の施しようも無いが、戻ってきたら戻ってきたで問題の種になりそうだ」
レオンとしてはこれ以上問題を抱えて雁字搦めの状態には陥りたくないが、こちら側に選択肢が無いのが痛い所である。
沈黙が訪れ、思考がループしそうになった頃に入口の扉がノックされた。
「誰だい」
「私です。今戻りました」
ファーレンの誰何に、バランが返答した。
賢狼の姿のままで入ってきて、扉が閉まったのを確認してから幻惑の魔法を行使して人間の姿を取る。
「色々と、厄介の種が増えそうな気配がありましてね。話し込んでいました」
情報収集の為に、『魔王城が懐かしいから』という理由で城内を歩き回る許可はセリムから取ってある。無論、立ち入っても問題ない無難な場所を選んでだが、それでも自身が居ない間の変化は感じ取ることが出来た。
「あぁ、それと大事なことが一件。ナーガさんが今日にでもこちらに戻ってくるそうです」
それはあまり知りたくない情報だった。




