第2章 その7 帰ってきた放蕩息子・1
魔王軍の将軍ゴールゴンは不満だった。
長らく行方知れずだった息子、ナーガが見つかったのは良しとしよう。
だが、魔王様に謁見を求める向こう側の冒険者の中に見つけた時は怒りにその身が震えた。
セリム殿より事前に『驚くな暴れるな』釘を刺されていたがそれは無理な相談だった。理性を跳ね除けた怒りがその身を突き動かし、固く握りしめた拳で息子を打ち据えていた。
それ以上、暴力を振るわなかったのは荒れ狂う怒りが理性に触れ、魔王様に対する不敬を働いたことに気付かせたからだ。
魔王様に詫びを入れ、ナーガの襟首を引っ掴んで引きずっていく。
城内ですれ違う者は驚いたり怪訝がっていたが、そんな事を気にする余裕は無い。城外に通じる城門近くまで行き、馬車にバカ息子を放り込む。
「自宅へ戻る。出せっ!」
御者に行き先を告げると、自身も乗り込んでドッカと座席に座って腕を組む。
道中、ナーガは何か言いたげだがその度に鋭い眼光で黙らせる。
屋敷には、四半時も掛からずにたどり着く。
玄関口に馬車が横付けされると、自ら扉を開いて馬車から飛び降りる。
「降りろっ!!」
一喝してナーガを下ろすと、再び襟首を掴んで引きずっていく。
先触れのないまま帰宅したゴールゴンに屋敷の使用人が慌てて玄関から飛び出してきた。
「一体どうなさいまして・・・、坊ちゃま!?」
屋敷を任せている使用人頭が玄関口で、引きずられているナーガの姿に気づく。
「風呂にいれ、飯を食わしてやれっ!私はすぐに城に戻るが、私が良いと言うまで屋敷から、いや部屋から一歩も出すでないぞっ!!」
開け放たれままの玄関からロビーにナーガを放り込むと、ゴールゴンは踵を返して馬車に乗って走り去る。
しばし呆気にとられていた使用人頭は、はたと振り向いてナーガに尋ねる。
「お坊ちゃま。これは一体どういうことで?」
「再会早々、一発殴られた」
胡座をかいて憮然としているナーガはそれしか答えない。
使用人頭は一つ肩を落とすと、部下たちにあれこれ指示を出し始めた。
何かしらの詳しい話を主人から聞けない以上、今は出された指示を全うするよりほかがなかった。
帰城早々、ゴールゴンはセリム将軍に呼びつけられた。
魔王様の謁見の場でやらかした以上、何らかの処罰は免れまい。覚悟を決めて将軍の執務室へ向かう。
優先して通されたゴールゴンに、書類を片手にしたセリムは一瞥をしただけで仕事の手を止める気配は無い。
「久々の親子喧嘩は楽しかったかね?」
重苦しい沈黙が続いたが、ゴールゴンが焦れ始めた所でセリムは声を掛けた。
「あの程度、喧嘩の内にも入らんわ」
ゴールゴンは吐き捨てた。次の討伐という軍務が無ければ屋敷内で折檻してでも今までどこで何をしていたかを聞き出していたところだ。
「その様子では、息子を屋敷に放り込んで直ぐに戻ってきたか」
やれやれと首を横に振ると、手にした書類を机に放り出して姿勢を改める。
「今後しばらく、お前は息子との接触を禁ずる。執務室に詰めて職務に精励しろ」
ギロリとゴールゴンの睨みつけて有無を言わせない。
「屋敷にも、兵と文官を派遣しナーガを隔離する。一日二日は屋敷に置くが、機会を見て城内の冒険者がいる『客間』に移す。何か言いたいことは有るかね?」
「息子はどうなる?」
将軍としてではなく、親としての立場がそう言わせた。
「彼は向こう側の世界を旅していたそうだ。当然、持ち帰った情報は貴重で慎重に取り扱われる。また、冒険者の一行は『賓客』として遇されるので当面は会えないと思え」
上位の将軍として、言うべきことは言う。
「だが、親として心配になるのは分かる。少し頭を冷やして機会を待て」
不満は有るが、一将軍としてゴールゴンは従うしかなかった。




