第2章 その4 冒険者パーティーの食卓・4
扉の前で軽く深呼吸して気持ちを落ち着かせる。軽くノックし、反応を待つ。
「・・・誰?」
少し遅れて、やや気だるそうなマリーの声が返ってきた。
「俺だ。お茶を持ってきた」
レオンの声に、ゴソゴソとしてから物音がしてから足音が近づいてくる。
薄く開かれた扉から、うろん気にマリーの視線が向けられて来る。
「応接間がいいなら向こうで、嫌なら室内でどうぞ」
「・・・応接間には行かない」
少しの躊躇の後、扉が大きく開けられた。
「なんで二人分なのよ」
ワゴンの上を確認したマリーが不機嫌そうに言う。
「応接室に俺の分を置いたままこっちに来たら、戻った時に残っていると思う?」
仮定を提示し、疑問を封殺する。
部屋に入ると、そこは書類机と小さな応接セットのある執務室のような造りだ。奥に繋がる扉が有るので、そちらが寝室のようだ。懸念事項が一つ減ったので、あてがわれた部屋の造りの格差については不問に付す事とする。
応接セットのテーブルに二切れの『パウンドケーキ』が乗った皿を置き、ティーカップにハーブティーを注いで皿の側に置く。
「ではごゆっくり」
「待ちなさいよ」
退散する気配を見せたレオンに、マリーが反射的に声を掛けた。
「どうかした?」
「・・・あんたもココで食べて行きなさいよ」
気まずそうに、視線を逸らすマリー。
「では、お言葉に甘えて」
レオンはマリーの対面になるようケーキ皿とティーカップを置くと椅子に座ってさっそく『パウンドケーキ』をぱくつく。
「お茶が冷めるぞ。早く喰え」
「デリカシーが無いわね」
マリーは憎まれ口を叩きつつ、席について上品にケーキにフォークを入れて行く。
「・・・美味しい」
「美味いよな」
「そうじゃなくて」
レオンの相槌に、マリーは反射的に否定的な声を上げる。
「そうじゃなくて。・・・昔食べた事がある味なのよ」
「俺は初めて食べた。素直に美味しいとおもうぞ」
「なんでそういう言い方をするかなー」
マリーは、キッと八重歯を剥いて見せた。
「まてまて。言いたい事は何となくわかるから」
ティーカップの中身を掛けられる前に、落ち着くように促す。
「マリーは、居心地の悪さを感じているのだろ?向こう側の冒険者の立ち位置も、魔族領の住人という立ち位置も、魔王夫妻の一人娘という立ち位置も、全部が全部こんがらがって意味分かんないって感じじゃないのか?」
「わかってるじゃないの」
マリーは不貞腐れながら、フォークでケーキを突く。不作法極まりない態度だ。
「わかる事と、そんなだろうと察する事と、我が事の様に理解出来る事とは全く別の話だろ?」
空にしたティーカップを掲げ、諭すように言葉を紡ぐ。
「マリーの立場は複雑なのは分る。でも、理解はできない。そりゃそうだ、相談を受けていないからな」
当り前の事だろうと言い、ケーキ皿にティーソーサーとティーカップを重ねて退散の準備に入る。
「少なくとも、マリーが向こう側で冒険者として重ねた経験は財産だと俺は思っている。それを踏まえて、考えがある程度まとまったらバランに相談してみろ。今、マリーの立場を理解しているのは彼だし、それでも足りない部分は俺達が補ってやる」
レオンは立ち上がり、茶器を片手に部屋を出て行く。
マリーの「ありがとう」という言葉には、振り返らずに片手をあげて応えるだけに留めておいた。




