第2章 その3 冒険者パーティーの食卓・3
朝食後、男性組4人は応接室で顔を突き合わせた。
呼び出しを受けているバランに、確認を取ってもらいたい事柄やこちらから伝えるべき事がないかを打ち合わせの為である。
「先ずは、ナーガの安否は確認したい。一時的にでも、パーティーメンバーとしてこの『客間』に戻ってこれるのかも含めてだ」
レオンとしては、譲れない一線である。
「連れて行かれて時の勢いだと、折檻位は受けているかもしれんな」
頑丈さが売りのドワーフもやはりその辺は心配らしい。
「それに荷物も置きっぱなしです。勝手に処分もできませんし」
繊細なエルフは憎まれ口の形で心配を吐露する。
「ゴールゴン将軍の気性は激しいですが、まぁ何とか無事でしょう」
最近やたらとやらかしいが多い賢狼が安請け合いをする。
レオンとしては「こいつ大丈夫か」とも思わなくはないが、親子の情が負の方向で働き過ぎていない事を祈るしかない。
「次はマリーの件だが、本人が動かない限りこっちも下手に干渉しないのが『よりマシな選択肢』だな。その点に関しては、ナーガが俺達とは別に隔離されている方が今はいいのかも知れない」
「お前さんは女の扱いが下手だからな。下手に手を出さん方がいいぞ」
「女心に対する理解度は低いですからね」
「私からは何のアドバイスもできません」
三者三様のひどい反応である。
レオンは、あえて無反応を貫く。
「魔王、魔王妃の両人も、しばらくは接触を控えてもらいたい所だ。だが、ある程度話の通じる人柄の方とは直接会って情報交換するべきだろう。その辺りの感触をこっちにも教えて欲しい所ではある」
こちらに選択権がない問題なのだが、あらかじめ覚悟できるだけの余裕と情報は欲しい。
「あと、お前さんが『うっかり漏らした魔王領側の情報』については仔細漏れなく報告してくれ。『なぜ知っているのか』なんて痛くもない腹を探られたくは無い」
バランにしっかり釘をさす。
ファーレンもリッテルも、巻き添えは御免だと顔に書いてあった。
『客室』の出口で幻惑の魔法を解除し、本来の堅狼の姿に戻ったバランが「それでは」と出て行くと、レオン達はやれる事が無くなった。
「しまった。晩酌用の酒を頼むべきだったな」
前日に用意していた夕食用の酒を飲みつくしているファーレンがのたまう。
やることがなければ酒を飲む。それがドワーフの生き方だ。
「馬鹿な事を言っていないで、茶でも飲んで茶菓子でも喰え」
台所に移動して浅く水を張った鍋を火に掛ける。少ない水を素早く沸かす工夫だ。
湯が沸く間で、茶菓子と茶菓子用の食器類の準備をする。ここの『客間』にある焼き物の食器類が無駄に豪華だったのは、外交使節の為に用意された物だからか・・・。
え?軽く百年以上前の骨董品も有るってこと!?
欠けたり割ったりしないよう、今まで以上に注意して扱う必要がある。
いっそ、自前の木の食器類を荷から取り出して使いたい気分だ。
菓子の方は『パウンドケーキ』なるものを選択。一両日中に食べた方が良いとの事だったので、日持ちする焼き菓子は後回し。
まな板の上で薄刃の包丁を入れると見た目通りズッシリと詰まった生地で出来ており、断面からは乳酪の香りと胡桃らしきナッツが顔を覗かせている。少し厚めに三ピース、それより心持薄めに二ピース切り出す。
四枚の皿にそれぞれを乗せたところで鍋の湯が沸く。
湯を薬缶に移し、改めて火にかける。茶葉は、薔薇の実を使ったと見えるハーブティーをチョイス。ティーポットの茶葉を落とし、薬缶の湯を注ぐと酸味を感じる香りが立ち昇る。
カップを温める手間は省き、まとめてワゴンに乗せて応接間に移動する。
「一皿だけ量が多いな」
『飲み意地』だけでなく『喰い意地』も張っているドワーフが目ざとく違いを見つけて文句を垂れる。
「美味い菓子を女性より多く喰う年寄りは嫌われるぞ」
嫌味を切り返した上で、毛足の長い絨毯の上で黙想するリッテルにも声を掛けた上で二人分を応接セットのテーブルに給仕する。レオン自身の分を置かないのは、つまみ喰いされるのがわかりきっているからだ。
憮然とするファーレンを尻目に、レオンは自分が使っているのとは反対側の廊下に向けてワゴンを進めた。




