第2章 その2 冒険者パーティーの食卓・2
思うところが有ったのか、そそくさと朝食を片づけたマリーは一言もしゃべらないまま割り当てられた寝室へ引きあげて行った。
「なんだか、また失敗しちゃいましたかね」
失言らしい失言では無かったが、バランは反省の言葉を零す。
「いづれ彼女自身が遅かれ早かれ学ぶべき事だったんだ。気に病む事は無い」
だいぶ冷めてしまった目玉焼きをつつきながらファーレンは年の功を示して見せる。
「しかし、魔王領の文化か。そんな事は一度も考えた事が無かったな」
「そういえば、この『客間』ですが、ずいぶんとこちら側の生活様式に合わせた造りになっていますね」
リッテルも気が付いた疑問点を口にする。
「あぁ。それは向こう側の外交使節が宿泊する施設として造られたと聞き及んでいます」
相変わらずサラリと爆弾発言を落としてくる。
「近年は使われた例は無い様ですが、今代の魔王様がその座に就かれる以前に、先代魔王様の命で外交使節の案内役をなされていた時期があるとか。当然、相手側からの外交使節も受け入れる必要が生じましたのでこの様な設備が整えられました」
「初めて聞く話だな」
ファーレンは思わず食事の手が止まってしまった。
「もっとも、これは二百年以上も前の話ですので。途絶えてしまった王朝や滅んでしまった国もありますので、今の外交チャンネルはかなり細くなっています」
「えーと。あの見た目で魔王夫妻は齢二百を超えていらっしゃると?」
レオンはこめかみを押さえて頭痛に耐えた。
「あぁ、これまたうっかりですね」
バランは失敗したと乾いた笑いを浮かべた。
「その辺りの説明も、いずれ魔王様ご自身がなさる筈です。今しばらく、お時間を下さい」
説明責任をすべて最上位の上司に押し付け、バランは朝食を平らげにかかった。
朝食を終えて食器類も洗い終えた頃に、侍女のグールゼットがバスケットを片手に『客室』を訪ねてきた。
「こちらは焼き菓子と『パウンドケーキ』なるお菓子でございます。ケーキの方は、あまり日持ちしませんので一両日中にお召し上がり下さるようにとの事です」
「ご丁寧にどうも」
毒気を抜かれた態でレオンは、掛けられたナプキンを軽く開けて中身を示された蔓編みのバスケットを受け取った。
「本日伺いましたのは、ここでのお過ごしでのご不便が無いかのお伺いと、ご要望の確認。そしてバラン様への御伝言を一件賜ってございます」
「特段の不便は無いな。良い食材を回して頂いている様で感謝している」
「恐れ入ります」
グールゼットがキッチリとお辞儀を返してくる。
「こちらの要望というか確認だが、今日はどこかへ連れ出されたり誰かが来るという予定はあるのかな」
「魔王妃様がお茶会をご希望されておりましたが、家臣一同で御遠慮頂きました」
困ったものですと、できる侍女は微かに顔を横に傾げてみせた。かわいい仕草である。
「あぁー、それとひとつ。マリーは今一人で思い悩んでいるようだから、しばらくは刺激を与えすぎないようにお伝え願いたい」
「承知いたしました」
誰に、という主語はあえて省いたが、グールゼットは委細承知と快諾した。
「それでは、バラン様への御伝言を口頭でお伝えします」
侍女は軽く咳ばらいして姿勢と態度を改める。
「セリム様が『出頭の上、伝えるべき事を報告せよ』との御命令です。昼の半ばであれば優先的に面会するとのことで御座います」
「伝えておく。・・・ああ、そうだ」
ひとつ伝えつべきことを思い出したレオンが、あわてて侍女を引き留めた。
「昨晩のシチューは大変おいしかった。もし機会があればもう一度食べてみたいとお作りになった方へ御伝言願えれば幸いです」
「必ずお伝えいたします」
深くお辞儀をしたグールゼットの口元に笑みがこぼれた。




