第1章 閑話 魔王家の家族会議
魔王のプライベートな居室の居間において、内輪の話をする為に少数の人物が集めれれた。
魔王自身に配偶者たる魔王妃。冒険者パーティーから最も情報を聞き出した将軍セリム。先ほどまで冒険者パーティーに与えられた『客間』で身の回りの世話を務めていたグールゼットの四名であった。
「ところで夕食の様子はどうだったかしら?」
主語を省いて質問を発したのは魔王妃であるリリアナであった。
「みなさま、料理がお口に合ったご様子。特に人種であるレオン様は料理の味に感心なされておりました」
一人だけ応接セットの傍で立つグールゼットが丁寧に答えた。
「ただお一人、マリーゴールド様だけは微妙な顔をされておりましたが」
「あらあらあら。やはりあの子には分かってしまったのかしら」
魔王妃は、悪戯がばれた様な表情でコロコロと笑って見せた。何のことはない。向こう側の人物に合う料理を作れる人材がいないことを言い訳に、魔王妃が手ずから料理を仕上げただけである。
「私の手料理(!?)の味が口に合うのなら、あの子の旦那さんに来てもらっても大丈夫そうだわ」
「君はずいぶんと先走った事をいうんだねぇ」
やれやれといった態度で魔王は妻を窘めた。
「あら?貴方はあのレオンという青年が義理の息子ではご不満ですか」
「マリー本人の意向がハッキリしない内は、その手の話はしたくないだけだよ」
触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、魔王は一線を引いて見せた。
「しかし、レオンという青年は中々に優秀な人材のようだね」
老将のセリムによってまとめられた資料を手元に、気になる点を確認していく。
「レオンなる人物は、商家の三男という平凡な出生の様ですが、なかなかどうして優れた商売人の素質を持っているようです。冒険者などにならなくとも、ひとかどの商売人として成功したと思われますが」
「だからこそ、こちらとしては如何様にも使える良い手駒になると思うのだがね?」
魔王はいたずらっぽく片目を閉じて軽く手にした書類を叩いた。
「君たちには分かりにくいかも知れないが、冒険者というのは柵がうすくてね。自分たちに利が有れば割り切った行動が取れる。嘘をつかれたり、心情を害する事柄には敏感だが、それは我々側とて同じことだ」
諭すように、魔王は言葉を続ける。
「興味深いのは、彼が『勇者』と呼ばれるきっかけになった事件だね。彼は烏合の集団だった冒険者パーティーの集団を、利益を調整する事で再組織化して精鋭部隊につくり変えている。彼自身には高い戦闘能力は無いが、部隊の編成能力や指揮能力は我が軍の将でも敵うのは君だけかもしれないねぇ」
「そこまで評価されるので?」
セリムは目を瞬いて驚いてみせる。
「無論、彼には圧倒的に経験が足りない。だが、足りないのであれば経験を積ませて育てればいい」
「それは・・・、軍の連中の反発を招きそうですな」
セリムは、魔王に従う顔ぶれを思い浮かべて渋い顔をする。
「私は、今の魔王軍に不足は無いと思っているよ」
魔王は分かっていると首を縦に振る。
「だが、内政についてはそれを担う人材が圧倒的に不足している。それは個々の仕事を担う人材ではなく、人材を適材適所に振り分けて組織を最適化できる人材だ。どうだい、我が魔王領に迎え入れたい人材じゃないかね」
「果たして、上手く行きますでしょうか?」
セリムは疑問という形で抵抗を試みる。
「上手く行かなければ、捨てる」
魔王は真顔で言いきった。
「殺すか、記憶を消して放り出すか、あるいはそのまま向こうの世界に追放するか。それはその時の状況次第だが、元々我々の手元にいなかった人材だ。失ったとて、たいして意味はあるまい」
「あら、かわいい愛娘の夫になるかもしれない人物に対してずいぶんな言い様ですわね」
横から魔王妃がチクリと言葉の針を刺す。
「父親としての立場を、魔王としての立場より優先する訳には行かないだろう?」
配下の前で魔王としての凄みを見せ付けたのに、これでは形なしである。
グルーゼットはあまりの恐妻家ぶりに思わず噴き出したが、魔王の一睨みを受け、あわてて咳払いをして態度を改めた。




