第1章 その17 魔王の謁見と家庭事情・7
第1章 その17 魔王の謁見と家庭事情・7
「マリーこと、マリーゴールド様が魔王様ご夫妻のご息女であられる事はすでに御聞きになりましたかな?」
「うん。お二人から直接聞いたよ」
ソファーに腰を落ち着けたバランの問いにレオンは頷いてみせる。
「そこにいるグールゼットは王妃様付きの筆頭侍女だが、マリーゴールド様付きの侍女でもあった」
「姫様、お久しゅうございます」
いったん壁際まで下がって待機していた侍女は、一歩だけ前に出ると深々とお辞儀をする。当のマリーは「姫様はやめてよね」と言っているが、さすがに立場上態度は崩せないのだろう。
「そして私だが、マリーゴールド様がご幼少の頃から何人かいた教育係の一人として姫様の御側に仕えさせていただいておりました」
「だから、姫様はやめてってば」
マリーは心底お姫様扱いを嫌がった。
「そうは申しますが、マリーゴールド様が城に御帰還されたことは、早晩城中、いや魔王領中に知られることになりましょう。なにせ、ナーガ殿が父君に連れていかれましたからな」
「そういえば、ナーガの奴はどうなった?」
ファーレンが、まだ知らされていない点を思い出した。
「ナーガ殿の父君は、魔王軍の将軍・ゴールゴン様でございます。一時、将軍の執務室で『話し合い』があった様ですが、城下のご自宅に馬車で送り届けられたようです」
「じゃぁ、今日はもう戻ってはきそうにないな」
ファーレンの言葉に、バランは肩をすくめて同意してみせる。
「マリーゴールド様は、魔王様唯一の御実子。婚姻関係を結べば魔王領での影響力が増すと考える輩は大勢おりました。そこで、魔王様が荒療治をなさる間だけでも姫様を城から遠ざける事となりまして、その護衛役として白羽の矢が立ったのがこの私だったのです」
「うーん。なんとなく話の概要は分るけれども。分るけれども何で魔王領の外にまで出て冒険者に身を窶していたのかがわからない」
レオンは横に座るマリーをジト見する。
「それはもう、母君であるリリアナ様に憧れてでございます」
「わーわーわーっ!!」
それまで空気に撤していたグールゼットがここぞとばかりに会話に介入してきた。
「既にお察しの事とは思いますが、魔王様魔王妃様共々、魔王領の外から来られた人種の冒険者。寝物語代わりに魔王妃様から聞かされた外の世界での冒険者としての御活躍に、瞳をキラキラと輝かせておいででした姫様のお姿が昨日の事の様に思いだされますわ」
「それをバラすんじゃないっ!!」
うっとりと語る侍女に、それを黙れせられなかったマリーが電撃でも纏ったような視線で威嚇する。
「何か」
「想像が出来ちまうな」
リッテルとファーレンが視線を交わしてお互いに頷き合う。
「おそうじに使うはたきを手に取り『魔物め、成敗してくれる』などとおっしゃってバラン様を追い掛け回していた頃が懐かしゅうございます」
「だーかーらー!バラすなっていってるでしょうがっ!!」
女性陣による、場外バトルに展開しそうな勢いである。
「グルーゼット、控えなさい」
やんわりとバランが侍女を制した。
「まぁそういう事情もありまして、行動力に富んだ姫様は憧れから魔王領の外にまで飛び出した次第です」
話をまとめた魔道師を、マリーはキッと睨みつけた。




