第1章 その15 魔王の謁見と家庭事情・5
「さて、ここで質問だ。君達側の人種を含めたヒエラルキーと魔物というヒエラルキー。これはどうゆう区分で分けられるべきと考えるかね」
魔王は、命題とでも言うべき質問を突きつけてきた。
「この二つのヒエラルキーは底辺で重なっているかも知れないが、魔王領側の魔族と魔物の区分はこうだととらえられている。会話などによって意思疎通が可能な集団を頂点とするのが魔族を構成するヒエラルキーであるので対し、相互の意思疎通の困難な生存本能に支配された暴力的な集団が魔物というヒエラルキーという区分だ」
「わし達の側では、『国』という単位で戦争なんぞをやっているぞ」
今までほとんど聞き手に徹していたファーレンが口を挟んだ。
「そちら側の『国対国の戦争』は一種の政治形態に過ぎない。会話ではなく、武力による愚かしい意思疎通だ。それは人間である私も知っているよ」
何でもないという口調で、魔王は無形の爆弾を落としてきた。
「私だけではない。妻のリリアナも正真正銘の人間であり、愛娘も一人いる」
「これは事実でしてよ」
魔王妃も、硬い表情ながら肯定して見せる。
「というわけで、そろそろパパとママに口を開いてはくれないかな?我が愛娘よ」
「そうね。ご無沙汰していたわ、お母様。そしてお父様」
特大の爆弾は、パーティーメンバーであるマリーこと、マリーゴールドから放たれた。
「私は生まれも育ちもこの魔王城だけれども、正真正銘の人間よ。今まで黙っていたのは、向こう側では意味も価値も無いからでしかないわ」
「私も一人の人間として、ごく普通に娘に接してくれていたであろう諸君らには感謝の言葉しかないよ」
「私からも、深く感謝いたします」
思いがけない、魔王家族からの言葉だった。
「なぜ人間である私が魔王なんぞという地位に在るのか、これについては話が長くなるからまた日を改めて説明させてもらおう。だが、魔王の座は血統による継承ではなく、適正の有るも者に対して禅譲が行われる。だが、長い魔王領の歴史では血縁者への継承もあったのは事実だ」
魔王は、それこそが問題だと言わんばかりに眉間に皺を刻んだ。
「配下の中には、適性もないのに娘のマリーゴールドを娶れば魔王への最短距離に立てると思い込んだ愚か者が多く出てな。止むなく娘を城の外に出すしかなくなった」
「それで一応騒ぎは静まったのですが、あろうことかマリーに懸想して魔王領をとびだす者もでました。例えばゴールゴン将軍の御子息ナーガ殿とか」
「あぁー」
魔王夫妻の言葉で、レオンは一応の納得が得られた。
種族の違うナーガがマリーの知り合いで、しつこく言い寄って国に帰ろうと言っていた意味がここにきて氷解した。
「私も本意では無かったけれど、一度魔王城に戻って状況を整理したかった。私がどうして魔王と会おうとしたのか、みんな納得してくれたかな?」
少し寂しげで悲しけな声色でマリーは謝った。
魔王夫妻は、マリーにパーティーメンバーとよく話し合うように言うと、今日のところは一先ず退散して行った。その際、魔王が「パパは愛しているよ~」などと言って、魔王妃に耳を引っ張られながら『客間』から連れ去られて行ったのは恐妻家の行動様式だったかのかもしれないが。




