第1章 その12 魔王の謁見と家庭事情・2
『謁見の間』に有形無形の動揺が渦巻いた。
魔王軍の将軍・ゴールゴンの手によって、その騒動の引き金は引かれた。
『謁見の間』にて、武官の序列二位の場所にて立っていた彼は、セリム老によて招き入れられた冒険者パーティーを値踏みするように見ていた。
人数は六名。部下を率いて戦うのなら、相手の魔術師の行使する魔法が厄介だろうが、数の力で押し潰せる程度の脅威でしか無い。
その点では興味が失せたが、その中の一人からは目が離せなくなった。
数年前、自分の手元から消えた馬鹿息子が冒険者パーティーの中にいた。余りの怒りに体が小刻みに震え、魔王様の言葉も右から左で頭に入らない。
武官の列で左右に並ぶ将軍、ライオットとフェミリアが動きを止めようと手を伸ばす間もなく彼の怒気が弾けた。
「このドラ息子がっ!今の今まで、何処をほっつき歩いていたっ!!」
彼の拳が、ナーガの頬を打ち据えた。
「お、親父殿!?」
数歩よろけたが、ナーガは倒れるような無様は曝さなかった。
「お前という奴は、お前という奴はっ!」
追撃の拳こそ振るわれなかったが、マグマの様な激情が却ってゴールゴンに自制をさせている様子だった。
事情を知る魔王とセリム以外に他数名、しばらく呆気にとられていたが、事情が飲み込めてくると共に動揺が広がっていく。
魔族の者が、冒険者パーティーに加担していた。
この一事だけで、魔王城は火薬庫に花火を投げ込んだような騒動になりかねない。
また冒険者パーティーの側も、初めて知る事実に動揺が隠せない。
「魔王様。この度の不始末は偏に我が愚息が仕出かした事。己がした愚かな行いの償いは、此奴の身にしっかりと刻みましょうぞ」
ゴールゴンは魔王に対して深々と頭を垂れて宣言すると、有無を言わせずナーガの襟首を掴んで引きずり、城内の何処かへ通じる扉と消えていく。
「皆の衆、慌てるでないっ!!」
その場の動揺を鎮める為にセリムが大声を発した。
「この場であった事は他言無用!魔王様直々の通達が有るまで『冒険者達との謁見は滞り無く無事に済んだ』ということにする。よろしいな?」
「その方たちも驚いたであろうが、彼の者も已の息子の命までは取るまいし、余がその様な事は決して許さぬ。心配ではあろうが、彼の身はしばし当方に預けられよ」
魔王から、直々の妥協案が示された。
「当方も、いささかながら事情聴取が必要だ。そちらのバランなる魔導師は我ら魔族についても詳しそうだ。しばらくの間、お時間を頂きたい」
セリムからも、『お願い』という形で『断れぬ要求』が出された。
「私なら大丈夫です。ここは従いましょう」
バランも、そっとレオンに耳打ちする。
「その方らには、客間を用意させてある。本日はそこで休まれるがよい。大儀であった!」
魔王は玉座から立ち上がり、その場の動揺を絶ち切るように宣言した。
魔王との謁見は、波乱含みで幕を閉じたのだった。
追い出されるように『謁見の間』から『控えの間』に移された冒険者一行は、そこで再びローという文官に迎えられた。
「先ずはご無事で何より」
一人減った一行に肩を竦めつつ言葉を掛けてきた。
「魔王様のご指示により、お荷物は用意した客間へ運び込まれておりまする」
先ずは『控えの間』から消えている荷物について言及がされた。
「手回しがいいなあ」
ファーレンが独り言ちたが、ローは聞かなかった事にしたようだ。
「セリム様より、全員客間へお連れするよう指示を受けておりましたが・・・」
「私とナーガさんは別行動ですね」
バランが、その大きな体躯を竦めてみせた。
「バラン殿は、私がセリム様の元へご案内を。他の皆様は、別の者が客間までご案内させていただきます」
「お手数を掛けるが、バランの事、ナーガの事よろしくお願いする」
なるようにしかならない。
レオンは半ば諦めつつも釘だけは挿さずにはいられなっかった。




