第1章 その11 魔王の謁見と家庭事情・1
「申し遅れましたが私めの名前はセリム。魔王軍で将軍職を任されている者の一人です」
「パーティーリーダーを務めていますレオンです」
魔王領での礼儀作法は分からないので、軽く会釈をするだけに止めておく。
「こちらから、メンバーのファーレン、マリーゴールド、バラン、リッテル、ナーガです」
パーティーもきちんと紹介しておく。
「貴方方は大変礼儀正しい。魔王様は、客として遇すると仰せですよ」
セリムは軽く両手を広げて歓迎の意を示し、あらためて席を勧めた。
レオンはメンバーに座るように指示したが自身は立ったままでいることにした。目の前の将軍は立ったままだ。それが礼儀であろう。
「しかしだ。魔王様に忠を誓う配下の者が全て貴方方を歓迎している訳ではないのも事実。その点はご理解して下さい」
「もっともな話です」
レオンは軽く頷く。
「この場での謁見は、魔王様が魔王軍全体に貴方方を客として迎えたことを周知し、また貴方方も魔王様に敵対していない事を示すための場とお考え下さい。あぁ、そんなに深刻な話ではありません。魔王様は貴方方に臣従を求めているわけではありません」
「有難いお話です」
予想外と言える、レオン達に譲歩された条件だ。
「では、実際の謁見についてご説明しましょう」
セリムは少しだけ態度をあらためて話を続ける。
「武器の携行は認められております。荷物はこの部屋に置いたままで結構ですので私に続いて『謁見の間』へお入り下さい」
入口とは違う壁にある、高さも幅も有る立派な両開きのを指し示した。
「入り口の正面に、魔王様の玉座が御座います。皆様は『謁見の間」の中程に、玉座の間に正対する様にお立ち下さい。その際、私は文官側の列に加わります」
魔族の文官らしい人物がセリムに近づき何事かを耳打ちした。
「どうやら中の準備が整った様です」
セリムは文官を下がらせると、レオン達全員を一瞥した。
「貴方方は、魔王様に従臣している訳ではないので、魔王様を前にしても平伏する必要はありません。家臣の中にはそれに異を唱えるものが出ましょうが、魔王様はそれをお認めにはならないと仰せです。動揺せずに、悠然と受け流して下さい」
ではと、パーティーメンバーに起立を促し、セリムは『謁見の間』につづく扉へといざなった。
『冒険者一行っ!御入室っ!!』
四人掛かりで、内開きの両開き扉が開かれた。『謁見の間』に居並ぶ魔族達の視線が、セリムの後につづくレオンたちに突き刺さる。
内心はどう有れ、レオン達はそれらを受け流して室内に敷かれた緋毛氈の上を進んで行く。
先頭を進むセリムが立ち止まり、無言のまま玉座に対して臣下の礼を取る。レオン達はこの場所に留まれという合図でも有るようだ。
頭を上げたセリムは向かって右側に並ぶ魔族の列の、最も玉座に近い位置に収まった。この列が、文官達の列らしい。
その対面、向かって左側には殺気立った魔族の集団が立ち並んでいる。
戦装束を身に纏っていることからも、こちらが武官の列で間違いない。
そして正面、数段有る階の上に設えら玉座に悠然と膝組みして座る人形の壮年の男性こそが、この魔王城の主であろう。
「余が今代の魔王である。冒険者の一行とやら、ここまでの長旅大儀である」
威厳に満ちた言葉が、歪んだ笑みを湛えた口から発せられた。
「冒険者など殺せっ!」
「八つ裂きにしろっ!」
『我が意に背くかっ!愚かなる配下ものよっ!!』
武官達の列から投げつけられる罵声を、魔王は圧倒的な魔力が籠められた一喝で鎮める。その声は、レオン達の精神にも衝撃となって叩きつけられた。
『無抵抗の者を手に掛けるなど、我が魔王軍の名誉に泥を塗る行為。ましてや、余に謁見を求める者を傷つけるなど、我が権威を貶める愚行と知るが良いっ!』
圧倒的な威を持って、重ねてその場を圧倒してみせた。
「冒険者の一行とやら。至らぬ我が配下の浅慮をゆるされよ」
威厳を保ちつつ、魔王はレオン達に無礼を謝罪せてみせた。
「呼ばれもせずに、魔王城を訪れた非礼はこちらにあります。また、配下の皆様の怒りは理解出来ます。故に、配下の皆様に罰など与えぬ様、御高配を賜りたく願います」
レオンは精一杯の言葉で対応し、頭を垂れる。
気配から、魔王が軽く頷いた事が伺えた。満足の行く返答だった様だ。
だが次の瞬間、武官の列で小刻みに震えていた龍人種の武人がツカツカとレオン達の列に近づいてくる。
「このドラ息子がっ!今の今まで、何処をほっつき歩いていたっ!!」
武人の拳が、ナーガの頬に一閃した。
「あぁ、やっぱり君はここで動いちゃうのね」
魔王は、失敗したと片手で顔の下半分を覆って独り言ちた。




