第1章 その10 風雲、魔王城・6
魔族の将軍・ライオットが同僚のフェミリアによって案内されたのは、城内で最も格式の低い、つまりは最も狭い謁見の間であった。
ここが使用される場合は、武官・文官各十名程度に魔王様直属の近衛兵が警備に二十名程が動員される事が多い。
武官側はライオットやフェミリアが代表格であり、文官側はセリム将軍が筆頭である。
「遅れちまってすまねぇな」
泥鰌髭に麒麟の角を持つ龍人の将軍、ゴールゴンは先に到着していた二人の大将軍各に声を掛けた。
「確かお前は、城で待機中だったな」
転移門を使ってまで呼び戻されたライオットが疑問を呈した。
「おう。フェミリアが城の外回り中で、俺は次の魔物討伐に向けた部隊編成の最中だった」
ゴールゴンは鱗で覆われた長めの首に手をやりつつ言い訳じみた口調で話を続ける。
「苦手な書類仕事を片付けている最中に、例の冒険者パーティーが城に侵入してきやがった。城の中が騒がしいんで、区切りがいい所で様子を見に行ったんだが、既に軟禁された後だあったんで、そいつらのツラもまだ拝んでねぇんだよ」
「だとしても、謁見の間に来るのが遅いのではなくて?」
多少の嫌味を込めてフェミリアが問いただしてくる。
「いんや。俺は二人よりも先に来てたよ」
ゴールゴンの態度はかわらない。
「だが、セリムの爺様に呼び出されてよ。いろいろと注意をされてきた」
「ほう。どんな注意をだ?」
ライオットは片方の口角を吊り上げてその先を促す。
「勇者共との謁見の際に、『驚いたり暴れたりするな。絶対にだぞ』だとよ。その手の小言は、むしろライオットの旦那が言われると思ったのだがよう」
『・・・』
ライオットとフェミリアのは無言で肯定の意を示した。
「えぇーと。そのセリム様は今どちらに?」
多少気まずくなった空気を変えようと、フェミリアは確認を取った。
「『控えの間』で、例の連中を出迎えるそうだ」
「では、出番までは私たちは待ちね」
一旦この話題は打ち切り、三人は最近の魔物の動向などの雑談で時間を潰した。
長い間狭い部屋に軟禁されていたレオンたち一行の元に、文官のローと、綺羅びやかな飾りを施した皮鎧を纏った兵士がやって来た。
「これより、魔王様が『謁見の間』にてお会いになられます」
ローは通達事項の連絡役らしい。
「いくつかの指示がありますのでお伝えします」
「何なりと」
相変わらず、バランが交渉窓口になってくれるらしい。
「これから『謁見の間』に通じる『控えの間』にご同行頂きます。その際、荷物一切もお持ち下さい」
「承知しました」
「『控えの間』に着きましたら、我軍の高官が一名接見いたします。『謁見の間』での注意事項などはその方がお伝えします。ではみなさん移動のご準備を。移動の案内はこの者が務めますゆえ」
「御高配痛み入ります」
バランは深く一礼すると、パーティーメンバーに行動を促した。
「とりあえず、いきなり処刑場に引っ張り出されて縛り首なんて事は無さそうだな」
「物騒なことは口にしないで下さいよ」
ファーレンが、荷物を背負いつつバランに混ぜっ返した。
「魔王やその配下を下手に刺激したら、血祭りにされることも考えられます。卑屈になる必要はありませんが、誠意を持った堂々とした態度でいて下さい」
「ものすごく参考になる意見をありがとう」
レオンは半ば諦めの境地で感謝を伝える。
「レオン殿は、言葉で伝えれば分かってくれるのでいいのですよ。心配なのは、言っても伝わらないあの人たちですよ」
若干二名の、脳筋と石頭の方が心配らしい。
レオンはあえて評価を避けて、全員が移動出来る事を確認した。
「では、案内を頼みます」
ローと、もう一人の兵士に声を掛けて一礼した。
レオン達は、案内役の兵士他十二名の警備兵に守られて魔王城無いを移動した。道中、城内の兵士達とは極力接触しない配慮はなされていたが、それでも廊下の辻あたりでは害意と敵愾心が混じった視線が向けられたのを感じ取っていた。
「こちらが『控えの間』の入口です。どうぞ中へ」
石畳・石壁の通路を抜けて、薄い絨毯敷き・漆喰壁の廊下の先で立派と称してよい扉を示された。案内役の同じ意匠の革鎧を身に帯びた歩哨が両開きの扉を開けて、入室を促した。
部屋の中には人数分の造りの良い椅子が並べられ、身分の高そうな人物が背中を向けて立っていた。
「おぉ、参られましたな。荷物を置かれてどうぞ椅子へ。今少し時間を頂きますのでな」
有翼竜種の老将軍、セリムは椅子を指し示して勇者パーティーを迎えた。




