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『魔王を討伐するハズの勇者(オレ)が婿入りして次期魔王筆頭候補になってしまった訳で』   作者: 御音人 真理
第1章

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第1章 その9 風雲、魔王城・5

 「伝令っ!ライオット将軍が間もなく到着されます」


 上級士官の鎧を纏った魔族の兵士が城内の転移門に現れた。

 たとえ最高幹部の将軍とはいえ、転移門を使って帰城するには先触れとして伝令兵を寄越す義務がある。さもなくば、叛意ありと見なされて問答無用で投獄、あるいはその場で斬り殺される場合もある。

 行き来できる先が限られているとはいえ、ピンポイントで城内に到達できるこの転移門は防衛上の弱点になりうる。

 だがしかし、魔王軍を自在に動かす為の命令系統で圧倒的な伝達速度をもたらす利便性はその欠点を遥かに上回った。


 転移門を構築する小部屋に強い魔力の揺らぎが生じて収まると、屈強な兵士三人と魔導師一人を伴った巨躯を誇る魔族の将軍がそこにはあった。

 獅子頭を有する偉丈夫は、躍動する筋肉を窮屈そうに鎧に収め、露出する毛皮の部分には幾多の古傷が見え隠れしていた。


 「たかが冒険者ごときの侵入を許すなどっ!城の警備兵共は眼を開いたまま昼寝でもしておったのかっ!!」


 獅子吼一喝。転移門を守る当番兵を震え上がれせる罵声を浴びせた。


 「そいつはお門違いってやつだよ」


 小部屋の外から、場をとりなす声が響いた。


 「アンタが吠えまくったらせっかく落ち着いた城の空気がまた騒がしくなる。軍師殿が、アタイに謁見室までアンタを案内しろとのお達しが出た」

 「セリム殿がか?」


 いささか気勢の削がれたライオット将軍が小部屋から出た先には、軽装の革鎧を纏った白狼人の女将軍・フェミリアが立っていた。魔王軍内で大将軍格と目される人物は四人。その中で最も若く、唯一女性でその地位まで登り詰めたのが彼女だった。


 「話は歩きながらしようじゃないか」


 護衛は不要と人払いをした上でさっさと先を歩き出す。石畳の通路を足音も立てずに早足で歩くのは流石である。もっとも、それは一歩の幅が広いライオットの歩調に合わせる為でもあるのだが。


 「お門違いとはどういう意味だ」


 転移門から十分に離れた所でライオットは疑問を投げかけた。見た目通り、魔王軍の武を体現する彼だが、頭が回らなければ大将軍格の筆頭となど呼ばれはしないのだ。


 「冒険者は全部で六人。戦力としては大したことは無いのだろうけれども、そいつらは城を守る防衛網を切り破って城に辿り着いた訳じゃ無いらしいの」


 フェミリアは信じられないという風に頭を振っている。


 「城の内外では色んな噂が飛んでいるけれど、セリム将軍から回ってきた正式な報告では『転移門を使って正面から』城の中に飛び込んできたそうよ」

 「何だと!?」


 ライオットはたった今自分が使ったばかりの転移門の方を振り返った。


 「まるで信じられないでしょう?そう思って私も裏を取ったからそれは間違いない」

 「それでその冒険者共はぶっ殺したのだろうな?」

 「それが違うのよ」


 困惑を隠せない声色で、フェミリアは話を続けた。


 「そいつらは魔王様に謁見を求めたの。特に抵抗もしなかったから、今はまとめて軟禁状態ね」

 「何が何やらさっぱり分からんぞ」

 「セリム将軍の配下の者が、魔王様の指示で一通りの尋問はしたみたい。で、報告が上がった時点で魔王様は正式に冒険者たちと謁見すると決定されたの。なんだか妙な雲行きだとは思わない?」

 「すると何か。俺はそんな事の為に半日掛けて最前線から城に呼び戻されたのか」


 ライオットは憮然とした態度を隠さなかった。


 「たとえ招かれざる客でも。ううん、逆に招かれざる客だからこそ、魔王様は魔王軍の威容をお示しになりたいのかも知れない。浅学な私では魔王様の御心は推し量れないけれど、もし謁見の間で冒険者どもが魔王様の暗殺を計るようなら私たちは身を挺してでもそれを防がなくてはならない」


 足を止めたフェミリアは、だ・か・ら、とライオットの双眸を真正面から見つめた。


 「貴方の武威に、期待したいのよ」


 その声色は、将軍ではなく一人の女性としてのものだった。 

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