承前。 その2 別れの予兆
リーンとの旅は苦労が絶えなかった。
「英雄」を目指す、ある意味夢見がちなリーンと、商売人気質のレオンとでは初めから馬が合うハズもなかったのだ。
それでも二年の間関係が続いたのはお互いの利害にそれなりのバランスが取れていたからだ。
レオンの商売人気質は、請け負う依頼のリスクとリターンを見極め、比較的危ない橋を渡らずに稼ぎを得るのに役立った。また、新しい目的地に移動する際に、護衛する商隊がなければレオン自身が商材を買い込んで遍歴商人となり必要な旅費に充てる事もやってのけた。
リーンの最初の思惑通り、レオンは役に立つ「優良物件」だったのだ。
少なくとも、二人の冒険者としての力量に大きな乖離が生じるまでは。
レオンから見ても、リーンは一年と半年を過ぎた頃からある種のストレスを抱え込んでいた。
「もっと強くなりたい」「もっと大きな仕事ができるはずだ」
英雄願望を抱いているリーンは現状に満足できていなかった。だがその為にはパートナーであるレオンの冒険者としての武の実力が足りていなかったのだ。
レオンはリーンを見捨てられなかった。
今この時に仲違いをしてしまえばリーンは一人で道を進んでしまうだろう。だがそれは早晩、リーンに破滅をもたらすだろう。
だからレオンは多くをリーンに譲り、その時を待った。
リーンを支えられる、新しいパートナーが現れるのを。
その半年後、その機会が訪れた。
遍歴鍛冶師のドワーフは、自身が打つ業物の素材を集める旅の途中だった。ファーレンと名乗るその男は、ザックと言う探索者と行動を共にしていたが、危険な領域に足を踏み込むには人手が足りていなかった。
ファーレンは頑固者で知られるドワーフにしては物わかりが良く、ある意味変わり者だった。酒好きという共通項を除けば、金にうるさく女好きという性格のザックともう五年も行動を共にしているの言うのだから驚きだ。
ファーレンの人柄を信じ、レオンはリーンを説き伏せに掛かった。
「あの爺さん。鍛冶師の腕前は確からしいから、武器を新調させるのを条件に仕事を請け負わないか」
と。
レオンはこの言葉に乗せれれて仕事を承知した。
実際問題、この三年間で伸びたレオンの実力に装備の質が追いついていなかった。レオンが先を目指す以上、優れた武器を手に入れる必要に迫られていた。
ファーレン、ザックと共に行動を共にしたのは都合一ヶ月に及んだ。
業物の素材である鉱物を採取するのに往復で二十日。鉱物の選別に五日。レオンの為の武器を新調するのに五日をかけた。
「この素材は、鉄に少量混ぜて使う。比率や熱処理なんかは秘伝だが、コイツを使った鋼はそんじょそこらの鉄とは訳が違う。黙って大人しく十日程待ってろ」
そう言い残したファーレンは掘っ立て小屋のような鍛冶場を借り受けてそこに籠った。
取り残された三人はお互いに肩をすくめると、逗留先の安宿に踵を返した。
する事のない三人は、宿の酒場で時間を潰した。リーンとレオンは一番安い酸っぱいエールを、ザックは少しだけマシな文字通り「水増しされた」ブドウ酒をあおった。
リーンは期待と不安を綯い交ぜにした表情で酒杯を重ね、早々に酔いつぶれて部屋に担ぎ込まれた。
リーンをベッドに放り込むと、ザックは酒場に戻ってレオンと差向いにブドウ酒を口にしながら、つと疑問を口にしてきた。
「お前ら、仲が悪いんじゃねのか?」
と。




